攻略本片手に異世界へ 〜モブは、 神様の義祖母 〜

出汁の素

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少女編

第2話 帰国

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「おかーさん。」

 馬車で実家の前に降りた瞬間、私は駆け下り母親に飛び付いた。

「お帰りなさい。」
「ただいま~。」

 母は、私を優しく抱きしめ、私の帰国を迎えてくれた。

「ジェシカ~」
「あらお父さん。ただいま。」

 手を広げた父には、素っ気なく答えると、父はしょぼくれた。

「ジェシカ長かったわね。」
「8年留守にしました。ご心配かけました。」
「おばちゃんを助けてくれてありがとうね。」
「いえいえ、親戚同士助け合うのが人情ってものですから。」
「「オホホホホ」」

 そんな感じで話をしながら、店を使用人に任せて上の階に上がった。

「ジェシカお疲れ様。」
「お母さん。本当にご心配かけました。」
「土産話は、後として、長いいられるの?」
「さぁ。軍務はもう無い筈だけど、」
「これからどうするの?」
「恋愛とか?」
「恋愛って、そもそも、学校とか行って無いのに、大人との恋愛って歳でも無いでしょう。」
「鍛治師は?」
「ジェシカ。ジェシカの歳でマイスターの女の子に、プライドが高い男の子達が寄ってくると思う?」
「ウググググ」
「やっぱり学校通ったら?」
「来月から予備学院の3年の年次か、編入出来るかな?」
「そうねー。誰がお友達いないの?」
「うーん。相談しに行ってみようかな?」
「じゃ、その後考えましょうか?」
「だねー。今日は家にいれるから。」
「良かったわ。」

 そう言って、お母さんと、料理を作り、夜更まで2人で語らった。お父さんを置いて、

-----------------------------------------------------------------------------------------------------

「とーやー。」
「ウグ」

 お父さんを瞬殺した。うちでは最弱だが、お父さんが弱いわけでないことは、世界中を回って実感した。うちの家族が異常なんだと、巫女様に聞いたことには、お婆ちゃんは、巫女様が居なかったら、巫女様になったと言われる程の神聖魔法の使い手で、各種魔法も使えるスーパーウーマンであり、その力は女系で遺伝されている。兄達はその環境で強化された結果であり、お父さんは、自然に強い人であろう。

「ジェシカ、お父さんに優しくね。」
 ジェーンお姉ちゃん(23)が、成長したのか、お父さんとって優しいことを言ってきた。ジェーンお姉ちゃんは、家を継ぐべく勉強中だが、来年結婚予定だ。お相手は、帝国中央学院で会った貴族で、軍務で出張中で、来月帰ってくる。今家にいる兄弟のは、ジェーンお姉ちゃんだけ。ダイアンお兄ちゃん(20)は、仕事漬けで殆ど帰って来ず、アイルお兄ちゃん(18)は、昨年から帝国中央学院の講師になり、帝国中央学院の近くに住んでいる。アイルお兄ちゃんは、講師で、研究室が無いので、私の研究室を使って貰っている。ハーバードお兄ちゃん(23)は外国だ。

「お姉ちゃん。彼氏に合わせてよ。」
「帰ってきたらね。」
「イケメンなの?」
「どっちかっていうと癒し系。」
「えー。」

 とか言いつつ。拳を重ねあっている。お父さんは入って来れないスピードだ。

「で、貴方はどうなのよ。海外でいい男いた?」
「いや~。殿下や、お兄ちゃんに囲まれながらだから、ちょっと男の子が近寄って来なかったかな?」
「そうなの。」
「しかも、騎士隊長だから、騎士は、全員部下だし、だいたい20以上年上ばかりだから、無理くない?」
「そーねー。」
「何話してるの?」
「「お母さん。」」

 と、お母さんも話に乗ってきた。話し辛いよ。とも思いながら、蹴り合い、殴り合いの中、恋話を続けた。


-----------------------------------------------------------------------------------------------------

 朝ごはんを食べて、私は、軍服に着替え、馬に乗り軍務省発令部に向かった。馬をゆっくり走らせながら、街並みの変化を確認していった。表面ではあるが、確実に活気がついている。古くからの街並みに、新しい店が増え、輸入品なども並び、品質も着実に上がっている。そこらで、配達をしている馬車が走り回っており、物流も大きく変わっているのがわかる。時代が大きく変化している感じだった。

 区間毎にある門これを超えるのが面倒だった。

「止まれ。」
「軍務である。」

 そうやって、ナイトカードを出すと、みんな

「何だ、正騎士だと、偽物では?」
「何回目か分からんが、本物だ、偽造不可能の品なんだろう?」
「そうだが、」 
「通らせてもらうぞ。」

 そう言って有無を言わさず通る。優しく対応すると時間がかかるので、雑な対応がミソだ、これを何度か続けて、軍務省の前まで来た。騎士専用の厩舎に馬を預け、入口に近付いたところ、声をかけられた。

「隊長。」
「へ?」

 と、振り返ると、リーゼンハルト殿下の護衛騎士隊で、第三小隊長だった男だ。

「あっ、元気だった?」
「隊長こそ、私も隊長のおかげで、中尉まで昇進しました。」
「そ、そうなの。」

 で、30半ばで中尉って高いの?

「ありがとうございます。それで、今日はどちらへ?」
「いや、帰国したので、手続きをしに、発令部まで、」
「はっ、巫女様が回復されたのですね。お疲れ様でした。私は、発令部の隣の、外事部なので、受付までお連れします。」

 私は、言われるままに着いていくと発令部に辿り着いた。

「ロシュ。」
「ジェームズ。」

 発令部の事務官に、第三小隊長だったジェームズが気軽に声をかけた。

「我が元リーゼンハルト殿下護衛騎士隊の隊長をお連れした。」
「へ~。あの美少女が?」
「あぁ、超美少女だけど、超絶強いから気をつけてね。」
「で何しに。」
「ご帰国されたので、手続きをしにこられた。」
「そうですか。後はお受けします。来週の飲み会よろしくな」
「了解。」
「隊長、こちらで失礼します。」
「ありがとう。」

 そう言って、ジェームズが隣の外事部に帰っていった。

「よろしくお願い申し上げます。」

 そう言って、古い階級章を机の上に置いた。8年間付け続けた、大尉の階級章だ。

「おっ、大尉様ですか。」
「帰国報告と階級章の交換です。」
「こちらに、コードと、お名前をお書き下さい。」

 私は、書面を記載した。

「ありがとうございます。次にナイトカードをお出し下さい。」
「どうぞ。」

と、ナイトカードを出した。

「ありがとうございます。本当に正騎士様なんですね。」
「よく言われます。」
「では、少しお待ち下さい。」

 私は、ゆっくり待っていた。面倒だが、私は今日のこの手続きが済めば、御前会議に正式に参加が許される身分となる。あー面倒くさい。

 そうすると、奥の方から、先程のロシュだけでなく、少佐の階級章を付けた上司っぽい人が出てきた。

「次長、あんな少女がこんなに勲章貰っていて、准将なんて、おかしいですよ。絶対。」

 と、私の方を向いたロシュの上司と目が合い、私がニコッとすると顔が引きつった。あれ?スキルが効かない?2人が私の前に来ると、上司の方が敬礼した。

「ジェシカ准将閣下。8年前の大尉ご昇格試練以来です。大きくなられ見違えました。諸外国でのご実績は、リーゼンハルト殿下より、最小限の情報伝達としております。ロシュ、」
「は?」
「階級章と、略式勲章を」
「はっ」

 と、ロシュは、私に階級章と、略式勲章を差し出した。

「ランクが不明な勲章がいつくかございましたので、適宜振らせて頂きました。ご了承下さい。」
「はい。」

 そう言って、私が受け取ると、

「閣下以上で、手続き終了となります。」
「ありがとう。」

 そう言って、私は、発令部にから出てきた。

「ロシュ、あれはやばい。」
「は?」
「彼女は、本当の天才だ。」
「はい?」

 ロシュは、上司の引きつった顔から出てきた言葉に、の意味が理解できなかった。

「あの勲章は多分控え目な感じだろう。だから、各国の最高勲章に絞って出してきている。一度調べたが、彼女が通った国は怖いくらい発展している。大きな政治問題も解決している。共通するのは彼女の存在だ。これは発令部しか知らないし、部長は、リーゼンハルト殿下の親派だ、予備役になるんだし、見てみない振りをする様に、名目上は、リーゼンハルト殿下の実績として扱われるからな。」
「はっ。」
「後、私を連れ出す時は相手の名前を必ず言うように、ジェシカと言ったら、絶対に出て行かなかった。」
「何故です?」
「8年前、俺が大尉だった頃、昇格の為に、朝練で大尉を10人抜きした少女がいた。6歳の少女だ。3秒で伸されたんだ。そんな、少女に会いたいと思うか?」
「あっいえ。」
「そう言う事だ。」

 ロシュは、政治的にも物理的にも、彼女に関わってはならないと理解した。

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 私は、階級章を付け直し帝国中央学院に向かった。

 正門から入り学院長室に向かうと、会議中との事だったので、階級章を笠にスケジュールを確保し、自分の研究室で待たせてもらうことにした。アイルお兄ちゃんに預かって貰ってる研究室だ。私も鍵は持ってるので、部屋に入ると、整理整頓がされていて、家具もちゃんと揃っている。私が以前手配した家具商会の最高クラスのものを、丁寧に使ってくれている。
 私は、お茶セットを出して、ソファーに座ってゆっくりしながら、アイルお兄ちゃんの執筆中の論文を読んでいた。論文は、私がやり始めた構成の論文で、今主流になりつつあるものだ。

 ふーん。『品種改良に関する魔法の援用』まさかの農業分野か。よく読むと、小麦、大麦、大豆それぞれについて品種改良の技法を背景に、神聖魔法、精霊魔法、属性魔法で可能性の高いものを並べて、その効果、可能性について議論したものだ。アイルお兄ちゃんは、属性魔法しか使えないので、他は論文の引用になっている。

「良い出来てあるがね。」

 そう、小声で呟いたタイミングで、扉が開き、私と同い年位の少女が入ってきた。

「なっ、」
 
 変な声を出している。

「わな、な、な、な、あなたは、」

「あなたって、私はジェシカよ、あなたは、」

「わ、私は、クレスよ。アイル先生のゼミ生よ。」

 まともに答えてみた、お兄ちゃん、女の子連れ込んでいるのか?からかってみようかな。

「あなたも鍵持ってるのね。何本渡てるのかしらね。」
「えっ、あわわ、アイル先生は、そんな人じゃ。」

 まぁ、そんな器量、お兄ちゃんに無いけどね。

「そんな人って、どんな人なの?」
「優しくて、かっこよくて、頭も良くて…」
「それで、」
「何でも出来て、しっかりいてて、強くて、って、あなた、アイル先生の何なのよ。」

 うっとりしたり、怒ったり、忙しい子だったり

「あー。うー。お兄ちゃん(ハート)かな?」
「お兄ちゃん。って、私にとってもお兄ちゃんみたいな存在だけど、」
「お兄ちゃんみたいな存在って、」

 クレスが墓穴を掘り始めている。たのしー。

「ゼ、ゼミの先生だけど、このゼミまだ実績無いから、私しかいなくて、何でも見て、教えてくれるから、お兄ちゃんみたいって、」
「そうなの。あの解説男子がね。」
「そんな、アイル様を悪く言わないで下さい。」
「悪く?悪く言ったつもりは無いが、アイルに惚れているのか?」
「悪いですか。あなたこそ。」

 ガチャ。

 間の悪い所に入ってくるのは、やっぱりアイル。

「よっ。」
「は?・・・・はー?」

 私を見て、アイルは、固まっていた。

「アイル先生、この方が、アイル先生をお兄ちゃんってどう言う。」
「クレス。ジェシカは、妹だ。」
「えっ。」

 クレスがびっくりした顔をしている。可愛いね。

「だから言っただろう。お兄ちゃんって。」
「ジェシカ。8年ぶりか。いつ戻ってきたんだ?」
「昨日だよ。お兄ちゃんが実家に帰らないのって、」

 じーっと、クレスを見つめた。

「いやいやいや。」
「お兄ちゃん、手を出すのは、クレスが卒業してからにしてよね。」
「え、あー。」

 アイルお兄ちゃん顔赤く染めるなよ~。

「ジェシカさん。私は、クレス・リゾナンドと申します。よろしくお願い申し上げます。」
「リゾナンド公?」
「姪になります。」
「そうですか。リゾナンド公爵家には以前お世話になったので。お兄ちゃん、責任もてるの?リゾナンド公爵家よ。」
「はい?生徒だよ。」
「今はね。まあ良いわ。何かあってもハーバードお兄ちゃんに頼めば何とかなるでしょう。」
「はっ?ハーバード公に?」

 そう、ハーバードお兄ちゃんは、今は、ハーバード公と呼ばれていて、結構な権力を使える。

「クレス様。改めて、私は、ジェシカ。この愚兄の妹で、帝国中央学院教授で、この研究室の持ち主です。」
「えっ、アイル先生」
「クレス、前に言ったろ、研究室は借り物だって、この研究室は、ジェシカのものを借りてる。家具もね。」

 そう、全て私のものだけど、どうせだから、アイルお兄ちゃんに好きに使ってもらって良いと思っている
 
「でも、アイルの才能は本物よ。例えば、机の上の原稿読ませて貰ったけど、良い内容だったよ。後は、精霊魔法使いが揃えばね。完璧だしね。」
「精霊って神聖魔法は?」

 クレス様がびっくりした顔をしている。

「えっ、クレス様が使えるわよ。」
「は?」

 クレス様は知らなかったみたいだ。ダブル加護で、ファーストはリゾナンド様の関心だからな。セカンド加護から、普通は見えない。グリーン様の加護はあるのになぁ。

「だから、この論文じゃ無いのかな?アイル先生?」
「はぁ、言うなよ。おませジェシカ。」

 アイルお兄ちゃんの攻撃を片手で止めて、

「とりあえず、毎朝トレーニングしましょうか?アイル先生。」
「はー。クレス付き合え。」
「はっはい。」
「トレーニングって、ジェシカは明日からどうするんだ?」
「教授になって、禁断の生徒との恋愛、ってのも良いけど。」
「おい。」

 私は、アイルをジトー目で見ると、アイルは目を逸らした。

「まぁ、15になってからかな?」
「えっ、ジェシカさんて今おいくつなの?」
「今14歳。」
「私と同じ、私は市民学校に行って2年飛び級して、来月から中央学院2年生だけど。」

 いきなり、クレスが私に馴れ馴れしくなってきたので、

「私のゼミ生になる?」
「えっ、いや、私はアイル先生の、」
「冗談よ。単位欲しかったら言いなさい。ほぼ、全科目の単位あげられるから。」
「はぁ、どういう。」
「今にわかるわ。」

トントン
 扉を叩く音がした。

「はい。」
「ジェシカ教授。学院長がお呼びです。」
「はい。」

 やっと、学院長の会議が終わった様だ。

「じゃ、戻ってくるの?」
「あぁ、多分。」
「じゃあ、待ってるね。」
「クレス様、アイルお兄ちゃんをよろしくね。」
「いえ。」
「おい、ジェシカ。」

 私は、顔を赤くしている2人を後に研究室を出た。

「アイル先生。ジェシカさんて、」
「8年前テキスト改定があっただろ。」
「はい、覚えてます。全面改定で、教育課程が刷新されましたからね。」
「あのテキストを一人で書き上げたのが、ジェシカだ。」
「えっ、」

 クレスは、固まった。
 
「リーゼンハルト殿下付きの護衛騎士隊長として、8年で少尉から准将まで上し詰めた騎士でもある。」
「へっ。」

 クレスは、もっと固まった。

「でも、僕には単なる生意気な妹だけどな。それでお願いだが、リゾナンド公に色々報告してるだろうが、報告する為だけでなく、君自身でも見たことを考え、分析し、判断して報告して欲しい。」
「全て知って。」
「あぁ。ハーバードも、知っている。ジェシカは、どうか知らないがな。」
「それでいて、私を。」

 クレスは、少し涙目だ。

「まずは、ハーバードからの親書だ。」
「はい?ハーバード公から、何故アイル様が。」
「少し待って、」

 アイルは、電話をかけ始めた。携帯型の最新機だ。

「あっ、兄さん。今大丈夫?」
「あっ、例の。……そうそう、クレス。」

 アイルは、クレスに携帯電話を差し出した。

「クレス、ハーバードと繋がっている。」
「えっ、でも、ハーバード公は国外でしょ。電話って、国内しか、しかも無線。」

 そう、帝国内は、現在帝国全土にネットワークを張り巡らせた帝国電話商会が独占している。事になっている。しかも、都市間は有線で基地局にアクセスしないと繋がらない仕組みだ。

「あぁ、実はほぼ全世界の国の電話ネットワークは、既に繋がっているんだよ。しかも、無線でね。帝国で、知ってるのは、リーゼンハルト殿下経由で、皇帝陛下や、皇子殿下達にはお渡ししてるが、それだけだ。後は、僕達兄妹のみかな。とりあえず出てくれ。」

 クレスは、電話に出てみた。

「クレスさんかな?」
「はい、はじめまして、クレスです。」
「ハーバードです。よろしく。」
「よろしくお願い申し上げます。」
「ところで、アイルにスピーカーに繋げて貰ってくれるか?」
「はい。」
「アイル先生。ハーバード公がスピーカーに繋いでと。」
「はいはい。」

 アイル先生は、魔導具をいくつか出して、携帯電話と、線を繋いだ。

「兄さん繋いだよ。」
「ありがとう。」
「クレスさん。君は、リゾナンド公の妹のシーモアさんの娘さんと言うことで間違いないかな?」
「はっはい。」
「お父様は、リルミッツ侯爵閣下かな。」
「はい。」
「クレスさん。君がリゾナンドの家名を名乗っていると言うことは、」
「はい。私はリゾナンド公の養子となってます。」
「アイル、あれを」
「はい。」

 クレスが尋問を受けた様に硬くなった。

「この箱は?」
「同型の電話とマニュアルが入ってます。」
「えっ。」
「どうぞ。リゾナンド公にお届け下さい。」
「良いのですか?」
「大丈夫です。話はついてます。皇帝陛下は、帝室と、4公、各国との機密回線でのネットワーク構築を望まれております。帝国の実質的な世界支配の為に。」
「貴国はそれで良いのですか?」
「基本は共存共栄。それが為せるので有れば我が国は、協力しますよ。ではまた。」
「ありがとうございました。ハーバード公。」

プチッ

「てことで、よれしくね。クレス。」
「分かりました。」

 クレスは、涙目になっている。

「どうした?」
「アイル先生。私はもう。」

 クレスの目から涙がスーッと流れた。

「私は、そうです。アイル先生、ハーバード公を探るために、リーゼンハルト殿下の情報をとる為に、このゼミに入りました。私は、私は、もう、バレてしまって、ここには入れない。こうこれ無いんですね。」

 泣きながら、訳わからなくなってきている。でも、アイルは、困って頭をグシャグシャにしながら、

「何言ってるの?クレスは、僕の生徒なんだから、欠席するなら事前連絡ね。」
「えっ、でも、騙して。」
「僕は何か騙されたの?」
「いえ、でも」
「研究室の人数を決めるのは僕の権利、成績が良い限り、好きな研究室を選べるのは君の権利。君をただ権利を行使してるだけだよ。後、僕の唯一のゼミ生が居なくなるのは、僕も困るし。」
「えっ。」

 クレスの涙目は、止まり、優しいる笑顔でアイルをみた。

「心配しなくても何も変わらないから、あっでも、ジェシカは居座るかもしれないけど、」
「居座るって、元々彼女の研究室では?」
「あっそうだね。」
「うふふふふ」
「わはははは」

 そう言って。2人は、いつもの関係から、また少し近くなっていった。

-----------------------------------------------------------------------------------------------------

「学院長入ります。」
「ジェシカ教授か、どうぞ。」

 学院長室を開けると、3人の男性が立って迎えてくれた。

「おかえりなさい。ジェシカさん。」

 笑顔で迎えてくれたのは、アレックス子爵。私の初恋の人だ。

「海外でも活躍だったらしいな。」

 ツンデレ皇子と化しているリーディング殿下だ。二人ともイケメンに育っている。たまりませんなー。

「わしも出世したが、出世が早過ぎんか?」
 今は学院長になった、ドルーマン准将閣下だ。


「皆さま、ただいま帰りました。」(ニコッ×5)

 皆んなに挨拶すると、皆んな笑顔で迎えてくれた。

「とりあえず、座ろうか。」

 准将が言うと、ソファーに座った。向こうに3人、私は1人、向こうの中心は殿下だ。

「ジェシカ准将。君の活躍は後にして、この後、誰に着く予定だ?」
「へ?誰って?」
「今、帝国内は、皇太子派、皇弟派、リーディング殿下派、アーサー殿下派等に分かれている。一応、リーゼンハルト殿下派もあったが、ほぼ解散状態で、半数は皇太子派、半数はアーサー殿下派に移った状態だ。」

 これって、ゲームの世界と同じで、派閥抗争なっただ中なのね。

「うーん。今の状況を説明してくれませんか?」

 3人は顔を見合わせて、アレックスさんが説明を始めてくれた。

「昨年、リーゼンハルト殿下が、ベルーフ王国の王太子になったタイミングで、皇太子殿下が、正式に皇太子になられたのは知っていると思うが、」
「はい。それで終わったのでは?」

 皇位継承の争いは、大抵後継者つまり皇太子を決めればおさまるものだ。

「あぁ、そう思ったが、ベルーフ王国の王太子になられたリーゼンハルト殿下が、帝位継承権を破棄されなかった。それで、リッチモンド皇弟殿下が、リーゼンハルト脅威論を言い出したんだ。」
「リーゼンハルト脅威論?」

 あんなリーゼンハルト殿下が脅威?

「曰く、リーゼンハルト殿下は、強力な海軍を帝国内に保有したまま、外国の王となる。魔法王国と言われるベルーフ王国が加われば帝国に打撃を与えられる程度になろう。それに、外交で大きな成果をあげたリーゼンハルト殿下が各国を取りまとめれば、帝国の脅威となるのは必定。帝国軍の強化と、軍権の拡大をと。」
「うーん。領土を残してるのって、アーサー殿下に残したいからだから、4年後の中央学院卒業と共に解消するよね。」
「アーサー殿下に?何故?」
「アーサー殿下が良い嫁さんを捕まえられないと思ってじゃないかしら。」
「そんな理由なの?」

 多分、弟思いのリーゼンハルト殿下であればそんな感じだろう。

「リーゼンハルト殿下に聞けば分かるじゃない?」
「リーゼンハルト殿下は、もうベルーフ王国だから聞けないんですよ。」
「でも、リーディング殿下。」
「ああ、ジェシカさんの言う通りだ。兄上には、領土をアーサーに継がせて、ジェシカお前をアーサーの嫁さんにして、2人仲良く暮らさせたい。と言う夢しかないらしいぞ。」

 リーディング殿下が無茶言い出している。多分電話で聞いただろうが、私がアーサー殿下のお嫁さんなんて。

「はぃ?私がアーサー殿下の?」
「兄上は、アーサーにそれだけの器量があればなと笑っておられた。アーサーには絶対言うなと。」
「はぁ。」

 リーゼンハルト殿下もふざけてるんだろうな。

「まぁ、リーゼンハルト脅威論は建前で、本音は、軍事、軍権の拡大が目的だ。」
「そうでしょうね。代替わりする前に権益を確保しておかないと、リッチモンド殿下としてはジリ貧ですからね。」

 ルイ殿下が皇帝になられれば、当然、皇叔父になるので、今より遠い関係となり、権力は衰える。それまでに、基盤を固めようと言う事だ。

「それで、リーディング殿下。ジェシカ准将に殿下の派閥について欲しいんですか?」
「正直、ジェシカさんは、リーゼンハルト派の生き残り扱いで良いかと思う。リーゼンハルト派として、私やアーサーの間を泳いでいれば、害はないかと。」
「でも、殿下それでは、殿下が」
「僕は、一旦死んだ身だし、」
「ですが、」

 何かリーディング殿下が遠慮されている様だ。確認しておかないと。

「アレックス子爵、事情をお聞きかせ願えますか?」
「はい、実は、リーディング殿下の派閥には、将官が1人もいないんです。その為、何かあった時に、軍を指揮する内戦指揮権を有する者がおらず、反撃即反乱扱いになるんです。」
「それで、私に?」

 基本的に、皇子たるもの、軍は自分で指揮するのだが、軍務を補佐する軍務補佐官が着く。これは、兼務ありで、有事の際のみ、その任にあたる。各皇子は、自身で任命出来るかわりに、自力で承諾して貰わないといけない。軍務補佐官は、未成人皇子に対しては、軍務代理人になり、内戦等では指揮官となる。指揮官がいない軍は軍として認められない為、未成人皇子の下で、軍務補佐官がいない場合、内戦時に部下が戦えば私闘となり、軍に逆らう反逆者として扱われる。その事を言っているのだろう。その様な事情から、軍務補佐官は発令部で、登録する決まりとなっている。登録したものを攻撃すれば、最悪内戦としての宣戦布告になるから気をつけないといけない。

「そうです。通常将官の誰かを登録しておけば良く、成人皇族は不要ですが、現状未成年の殿下で、名前だけでも貸してくれる将官がいないので、」
「ドルーマン准将閣下は?」
「私は、立場上、誰にも付けない。」
「そうですか。」
「アーサー殿下は?」
「アーサーには、アーサーの母方のラワン・サーベラス侯爵が、名前だけ貸してくれている。リーディング殿下の母上である、セリーヌ・ハイムサーディシュ様は、4公爵家である、ハイムサーディシュ公爵家の出、4公爵家は、帝国成立以来、後継者争いには手を出さないこととの約定があり、また、近しいもの達は当然ルイ皇太子につくので、なり手がいないのです。」

 アレックスが、嵌められて、反逆罪にならない様にしないとね。リーディング殿下嵌められそうだし。

「そうなの。アーサー殿下が拗ねないなら良いわよ。名前だけだし、私を知ってる人は、数える程だし、この後一生軍服着る気無いから、普通バレないでしょう。」
「そうか、ありがとう。アーサーはどうにかする。」
「そう、素直で良いんですよ。」

 そう、アーサー殿下は、面倒なので、交渉は、お任せである。

「で、ジェシカ准将。私に用って何かな?」
「あっ、そうそう。私って学校とか入れるんですか?」

 そうそう、本題を言ったら、皆んな目が点になっていた。

「は?一応、帝国中央学院は、卒業した者は入れないし、騎士学院は、将官は入れない。今年齢的には、来年度予科3年だったな。予備学院は、卒業資格を持ってるからダメだが、中央学院の予科は、そこら辺のルールがまだ整備されてなく、私と、2人以上の教員の推薦が有り、年齢的にOKであれば、入れる。つまり、私、アイル君、ジェシカ准将自身の推薦で入れる。1年だけだが、入るか?来年度以降は、中央学院の生徒として所属出来る様に科目取得者の聴講生制度を作っておく。その代わり、授業はやってもらうがな。」
「授業って来年度からですか?」
「そうだ、予科でなく本科のな。ゼミもやってもらう。ゼミ生は、特別に成績順でなく、個人的に選んで構わない。」
「それは、リーディング殿下と、アレックス子爵を私の研究室に?」
「そう、私の研究室だったけど、良いだろう。」
「ジェシカさん。アーサーも、同学年だから、アプローチがあったら相手してやってくれ。」
「わかりました。同期として、仲良くしますね。」

 こうして、来年度からの予科3年に通うこととなった。
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