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20 未発見の敵空母
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レキシントン攻撃隊に続いて、サラトガ攻撃隊のF4Fワイルドキャット十二機、SBDドーントレス二十四機による空襲が開始された直後、一航艦を驚愕させる報告が舞い込んできた。
「千代田六号機より緊急入電! 『我、敵艦上機ノ大編隊ト遭遇。警戒サレ度』! 以上です!」
回避運動のために傾斜する赤城艦橋に、伝令の通信兵が飛び込んできてそう告げたのだ。
「おい、千代田六号機は何度線を担当していた!?」
草鹿参謀長が、どこか焦燥の滲んだ声で尋ねる。
米空母部隊を発見した羽黒機が担当していたのは、一〇五度線である。
「六〇度線です」
航空乙参謀の吉岡忠一少佐が答える。航空作戦全般の指揮は甲参謀である源田実の担当であるが、索敵計画など作戦上の細かな調整については、乙参謀の役割だったのである。
「これは、未発見の米空母部隊がいると見るべきか?」
険しい顔で、南雲忠一中将が呟く。
「可能性は高いでしょう」
源田実の顔も、心なしか強ばっていた。彼は二派にわたる攻撃隊を発進させた時点で、この海戦の勝敗は決したも同然であると思っていたのだ。
五航戦にはミッドウェー攻撃隊が帰還次第、第三次攻撃隊を編成させる計画であったが、第三次攻撃隊は残敵掃討をするだけになるだろうと楽観的に考えていた。
その、ある意味で自分本位ともいえる情勢判断が覆されたのである。
「千代田六号機から、他に報告はないか?」
草鹿が通信兵に問うが、その答えは無情であった。
「はい。いいえ、報告は先ほどのもので以上です」
恐らく、敵編隊と遭遇して緊急電を打った直後、撃墜されたのだろう。それでも、撃墜される直前、貴重な情報をもたらしてくれた搭乗員たちの献身に報いなければならなかった。
「第五、第八戦隊および千代田の水偵は出払っています」だが、吉岡少佐は苦く告げる。「残っているのは、第三戦隊の九五式水偵のみです」
零式水偵に比べて、九五式水偵は旧式である。速度も遅く、航続距離も短い。だからこそ、黎明の二段索敵にも参加させていなかった。
新たな米空母部隊の存在を確認させるには、あまりに心許ない機体である。
「いえ、五航戦がまだ九七艦攻を残しているはずです!」
そこに、源田の鋭い声が飛んだ。
「五航戦に、空襲終了後、直ちに九七艦攻を索敵機として発進させるように命じて下さい!」
日本の空母は、アメリカの空母と違って搭載する航空機を一度に発進させる能力を持たない。常用七十二機、補用十二機という搭載能力を持つ最新鋭の翔鶴型ですら、一度に発進させられるのはその半数の三十六機程度でしかないのだ。
このため、ミッドウェー攻撃に九九艦爆と九七艦攻を発進させても、まだ格納庫内には何機かの機体が残っているはずであった。
「うむ、そうだな」
源田の意見はもっともだと思い、南雲は頷く。このような状況でも源田の頭は冴えていると、南雲は安堵にも似た気持ちを覚えていた。
「ただちに五航戦に信号、千代田六号機の索敵線に沿って新たな索敵機を発進させるのだ」
実際、翔鶴と瑞鶴の格納庫には数機の九九艦爆と九七艦攻が残っていた。
赤城から信号が届くと、瑞鶴に座乗する原忠一少将は翔鶴、瑞鶴に各二機の九七艦攻の発進を命じた。
ミッドウェー攻撃に参加しなかった機体は、帰還した攻撃隊の機体が損傷・喪失などで使用出来なくなった際の予備としてすでに整備が終えられていたので、発進準備にはそれほどの時間を要さなかった。
千代田六号機が消息を絶った六〇度線の前後を飛ぶよう、搭乗員たちにそれぞれの飛行長からの命令が伝えられる。
その中に、菅野兼蔵飛曹長の九七艦攻があった。操縦手は後藤継男一飛曹、電信員は岸田清次郎二飛曹である。特に岸田二飛曹は、まだ十九歳の若者であった。
菅野は、飛行甲板での最後の打ち合わせの際、翔鶴飛行長・和田鉄二郎少佐にこう語ったという。
「大丈夫ですよ。必ず、我々が残りの米空母を見つけてご覧に入れますから」
艦隊陣形の関係で航空戦隊の最後尾に位置する翔鶴、瑞鶴の二艦は、米軍機の来襲方向とは正反対の方向に存在していた。これにより、レキシントン攻撃隊、サラトガ攻撃隊による空襲による混乱から距離を取ることが出来ていた。
そのため、四機の索敵機の発進はサラトガ攻撃隊による空襲の終結後、極めて迅速に行われた。
ミッドウェー攻撃隊が帰還する前に、四機の九七艦攻は北東の空に消えていったのである。
「千代田六号機より緊急入電! 『我、敵艦上機ノ大編隊ト遭遇。警戒サレ度』! 以上です!」
回避運動のために傾斜する赤城艦橋に、伝令の通信兵が飛び込んできてそう告げたのだ。
「おい、千代田六号機は何度線を担当していた!?」
草鹿参謀長が、どこか焦燥の滲んだ声で尋ねる。
米空母部隊を発見した羽黒機が担当していたのは、一〇五度線である。
「六〇度線です」
航空乙参謀の吉岡忠一少佐が答える。航空作戦全般の指揮は甲参謀である源田実の担当であるが、索敵計画など作戦上の細かな調整については、乙参謀の役割だったのである。
「これは、未発見の米空母部隊がいると見るべきか?」
険しい顔で、南雲忠一中将が呟く。
「可能性は高いでしょう」
源田実の顔も、心なしか強ばっていた。彼は二派にわたる攻撃隊を発進させた時点で、この海戦の勝敗は決したも同然であると思っていたのだ。
五航戦にはミッドウェー攻撃隊が帰還次第、第三次攻撃隊を編成させる計画であったが、第三次攻撃隊は残敵掃討をするだけになるだろうと楽観的に考えていた。
その、ある意味で自分本位ともいえる情勢判断が覆されたのである。
「千代田六号機から、他に報告はないか?」
草鹿が通信兵に問うが、その答えは無情であった。
「はい。いいえ、報告は先ほどのもので以上です」
恐らく、敵編隊と遭遇して緊急電を打った直後、撃墜されたのだろう。それでも、撃墜される直前、貴重な情報をもたらしてくれた搭乗員たちの献身に報いなければならなかった。
「第五、第八戦隊および千代田の水偵は出払っています」だが、吉岡少佐は苦く告げる。「残っているのは、第三戦隊の九五式水偵のみです」
零式水偵に比べて、九五式水偵は旧式である。速度も遅く、航続距離も短い。だからこそ、黎明の二段索敵にも参加させていなかった。
新たな米空母部隊の存在を確認させるには、あまりに心許ない機体である。
「いえ、五航戦がまだ九七艦攻を残しているはずです!」
そこに、源田の鋭い声が飛んだ。
「五航戦に、空襲終了後、直ちに九七艦攻を索敵機として発進させるように命じて下さい!」
日本の空母は、アメリカの空母と違って搭載する航空機を一度に発進させる能力を持たない。常用七十二機、補用十二機という搭載能力を持つ最新鋭の翔鶴型ですら、一度に発進させられるのはその半数の三十六機程度でしかないのだ。
このため、ミッドウェー攻撃に九九艦爆と九七艦攻を発進させても、まだ格納庫内には何機かの機体が残っているはずであった。
「うむ、そうだな」
源田の意見はもっともだと思い、南雲は頷く。このような状況でも源田の頭は冴えていると、南雲は安堵にも似た気持ちを覚えていた。
「ただちに五航戦に信号、千代田六号機の索敵線に沿って新たな索敵機を発進させるのだ」
実際、翔鶴と瑞鶴の格納庫には数機の九九艦爆と九七艦攻が残っていた。
赤城から信号が届くと、瑞鶴に座乗する原忠一少将は翔鶴、瑞鶴に各二機の九七艦攻の発進を命じた。
ミッドウェー攻撃に参加しなかった機体は、帰還した攻撃隊の機体が損傷・喪失などで使用出来なくなった際の予備としてすでに整備が終えられていたので、発進準備にはそれほどの時間を要さなかった。
千代田六号機が消息を絶った六〇度線の前後を飛ぶよう、搭乗員たちにそれぞれの飛行長からの命令が伝えられる。
その中に、菅野兼蔵飛曹長の九七艦攻があった。操縦手は後藤継男一飛曹、電信員は岸田清次郎二飛曹である。特に岸田二飛曹は、まだ十九歳の若者であった。
菅野は、飛行甲板での最後の打ち合わせの際、翔鶴飛行長・和田鉄二郎少佐にこう語ったという。
「大丈夫ですよ。必ず、我々が残りの米空母を見つけてご覧に入れますから」
艦隊陣形の関係で航空戦隊の最後尾に位置する翔鶴、瑞鶴の二艦は、米軍機の来襲方向とは正反対の方向に存在していた。これにより、レキシントン攻撃隊、サラトガ攻撃隊による空襲による混乱から距離を取ることが出来ていた。
そのため、四機の索敵機の発進はサラトガ攻撃隊による空襲の終結後、極めて迅速に行われた。
ミッドウェー攻撃隊が帰還する前に、四機の九七艦攻は北東の空に消えていったのである。
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