79 / 105
79 両軍邂逅
しおりを挟む
前衛の五月雨が敵艦隊を視認して三分後、彼女の姿が星弾によって夜の海上に鮮やかに照らし出された。
「いかん!」
五月雨駆逐艦長・松原瀧三郎少佐は米艦隊に先制されたことに、呻き声を上げた。
直後、五月雨に周囲に無数の水柱が立つ。
この時、彼女にとって幸いだったのが、この時期の米軍のレーダーがまだまだ発展途上の段階にあり、探知精度が低かったことである。
各艦に搭載されているのは対空用に開発されたSCレーダーであり、対水上索敵レーダーであるSGレーダーは、その初期型がようやくごく一部の艦艇に配備され始めたところであった。射撃管制レーダーであるMkシリーズも、まだ配備は始まっていない。
そのため、米駆逐隊や巡洋艦部隊の放った砲弾はことごとくが外れ、水柱を立てて海面を掻き回すだけに終わった。
それでも、基準排水量一七〇〇トンの船体は激しく揺さぶられる。
五月雨は救援に駆け付けた村雨と共に、煙幕を展開しつつ第四水雷戦隊主力と合流すべく反転していったのだった。
旗艦・愛宕に座乗する近藤信竹中将は五月雨から敵艦隊発見の報告を受けると、掃討隊に突撃命令を下した。
まずは四水戦によって敵の護衛艦艇を排除し、主隊による砲撃戦に持ち込もうとしたのである。
愛宕以下七隻の艦艇からは、すでに吊光弾を搭載した弾着観測機が発進している。
主隊と前衛隊との距離は十キロ。
五月雨は距離一万五〇〇〇メートルにて敵艦隊を視認したというから、主隊と敵艦隊との距離は二万五〇〇〇メートル程度と考えられていた。
もちろん、これは主隊の先頭を進む愛宕と敵艦隊の前衛と思しき部隊との距離である。そのため、艦隊最後尾にある日向の二二号電探は未だ敵艦隊を捉えられていない。
なお、二二号電探は試験では標的艦であった伊勢を約三万五〇〇〇メートルで捕捉している。一方、伊勢に搭載された二一号電探は対空電探ではあったが、試験にて日向を距離二万メートルにて捉えていた。
だからこの時、両艦の電探は敵艦の艦影を未だ探知出来ていなかったのである。
やはり、電探の活用よりも指揮官先頭という伝統と席次による序列を優先した艦隊陣形による失策であった。
「ジャップ駆逐艦、反転していきます」
ワシントン艦橋では、レーダー室からの報告に一息ついていた。
緒戦の東南アジア戦線ではジャップ艦隊に夜戦で翻弄されていたが、レーダーを装備した今ならばジャップ艦隊と互角以上に戦える。
そんな雰囲気が、ワシントン艦橋に流れ始めていたのである。
「撃ち方止め!」
敵艦反転の報告を受けて、グレン・デイビス艦長が命じた。
星弾の射撃が中止され、海上は再び暗闇に包まれた。ジャップ駆逐艦がいた辺りには未だ煙幕が漂っており、視界は悪い。
「次は、ジャップの本隊が出てくるだろうな」
一方、海戦が始まったことを受けてリー少将とスプルーアンス少将は堅固な装甲に覆われた司令塔に移っていた。
「ああ、前衛、水雷戦隊、戦艦部隊、ジャップも我々と同じような艦隊陣形をとっていることだろう」
リーの言葉に、スプルーアンスが頷いた。
「ジャップ前衛を退けたことは幸先が良い。スミス少将にはこのままジャップ水雷戦隊も撃破してもらおう」
スミス少将の巡洋艦部隊は、アストリア以下六隻の重巡から成っている。合計で、五十五門の八インチ砲を備える、強力な部隊である(ペンサコラのみ十門。他はすべて九門)。
少なくとも、ジャップ艦隊の護衛を排除するには十分な戦力であろう。
だが直後、そのように考えていたリーの下に、思いがけない報告が舞い込んできた。
「フェルプス、敵艦からの射撃を受けています! 前衛の隊列、乱れていきます!」
「行くぞ、アメ公。帝国海軍駆逐艦乗りの真骨頂を見せてやる」
駆逐艦夕立の艦橋で、駆逐艦長・吉川潔中佐はそう呟き、不敵な笑みを浮かべていた。
「いかん!」
五月雨駆逐艦長・松原瀧三郎少佐は米艦隊に先制されたことに、呻き声を上げた。
直後、五月雨に周囲に無数の水柱が立つ。
この時、彼女にとって幸いだったのが、この時期の米軍のレーダーがまだまだ発展途上の段階にあり、探知精度が低かったことである。
各艦に搭載されているのは対空用に開発されたSCレーダーであり、対水上索敵レーダーであるSGレーダーは、その初期型がようやくごく一部の艦艇に配備され始めたところであった。射撃管制レーダーであるMkシリーズも、まだ配備は始まっていない。
そのため、米駆逐隊や巡洋艦部隊の放った砲弾はことごとくが外れ、水柱を立てて海面を掻き回すだけに終わった。
それでも、基準排水量一七〇〇トンの船体は激しく揺さぶられる。
五月雨は救援に駆け付けた村雨と共に、煙幕を展開しつつ第四水雷戦隊主力と合流すべく反転していったのだった。
旗艦・愛宕に座乗する近藤信竹中将は五月雨から敵艦隊発見の報告を受けると、掃討隊に突撃命令を下した。
まずは四水戦によって敵の護衛艦艇を排除し、主隊による砲撃戦に持ち込もうとしたのである。
愛宕以下七隻の艦艇からは、すでに吊光弾を搭載した弾着観測機が発進している。
主隊と前衛隊との距離は十キロ。
五月雨は距離一万五〇〇〇メートルにて敵艦隊を視認したというから、主隊と敵艦隊との距離は二万五〇〇〇メートル程度と考えられていた。
もちろん、これは主隊の先頭を進む愛宕と敵艦隊の前衛と思しき部隊との距離である。そのため、艦隊最後尾にある日向の二二号電探は未だ敵艦隊を捉えられていない。
なお、二二号電探は試験では標的艦であった伊勢を約三万五〇〇〇メートルで捕捉している。一方、伊勢に搭載された二一号電探は対空電探ではあったが、試験にて日向を距離二万メートルにて捉えていた。
だからこの時、両艦の電探は敵艦の艦影を未だ探知出来ていなかったのである。
やはり、電探の活用よりも指揮官先頭という伝統と席次による序列を優先した艦隊陣形による失策であった。
「ジャップ駆逐艦、反転していきます」
ワシントン艦橋では、レーダー室からの報告に一息ついていた。
緒戦の東南アジア戦線ではジャップ艦隊に夜戦で翻弄されていたが、レーダーを装備した今ならばジャップ艦隊と互角以上に戦える。
そんな雰囲気が、ワシントン艦橋に流れ始めていたのである。
「撃ち方止め!」
敵艦反転の報告を受けて、グレン・デイビス艦長が命じた。
星弾の射撃が中止され、海上は再び暗闇に包まれた。ジャップ駆逐艦がいた辺りには未だ煙幕が漂っており、視界は悪い。
「次は、ジャップの本隊が出てくるだろうな」
一方、海戦が始まったことを受けてリー少将とスプルーアンス少将は堅固な装甲に覆われた司令塔に移っていた。
「ああ、前衛、水雷戦隊、戦艦部隊、ジャップも我々と同じような艦隊陣形をとっていることだろう」
リーの言葉に、スプルーアンスが頷いた。
「ジャップ前衛を退けたことは幸先が良い。スミス少将にはこのままジャップ水雷戦隊も撃破してもらおう」
スミス少将の巡洋艦部隊は、アストリア以下六隻の重巡から成っている。合計で、五十五門の八インチ砲を備える、強力な部隊である(ペンサコラのみ十門。他はすべて九門)。
少なくとも、ジャップ艦隊の護衛を排除するには十分な戦力であろう。
だが直後、そのように考えていたリーの下に、思いがけない報告が舞い込んできた。
「フェルプス、敵艦からの射撃を受けています! 前衛の隊列、乱れていきます!」
「行くぞ、アメ公。帝国海軍駆逐艦乗りの真骨頂を見せてやる」
駆逐艦夕立の艦橋で、駆逐艦長・吉川潔中佐はそう呟き、不敵な笑みを浮かべていた。
12
あなたにおすすめの小説
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
現在1945年夏まで執筆
米国戦艦大和 太平洋の天使となれ
みにみ
歴史・時代
1945年4月 天一号作戦は作戦の成功見込みが零に等しいとして中止
大和はそのまま柱島沖に係留され8月の終戦を迎える
米国は大和を研究対象として本土に移動
そこで大和の性能に感心するもスクラップ処分することとなる
しかし、朝鮮戦争が勃発
大和は合衆国海軍戦艦大和として運用されることとなる
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる