暁のミッドウェー

三笠 陣

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83 戦艦による夜戦

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「四水戦司令部より入電! 『敵ハ大型巡洋艦六乃至ないし七、其ノ後方ニ戦艦二乃至三ヲ伴フ』!」

 第二艦隊旗艦愛宕の艦橋に、通信室からの報告が入る。

「戦艦の艦型までは、流石に判らんか」

 近藤信竹中将はかすかな落胆と共に呟く。
 しかし、軽巡由良以下、四水戦も敵巡洋艦部隊と接敵、交戦に入ったために、その後方にある米戦艦部隊の艦型を確認するだけの余裕がないのだろう。
 愛宕の前方海面からは、両軍の間で瞬く閃光、海上を照らし出す星弾の吊光、そして殷々たる砲声が届いている。
 未だ愛宕以下の主隊が戦闘に巻き込まれていないだけで、日米両艦隊はすでに砲火を交えているのだ。

「水偵に吊光弾を投下させ、確認させますか?」

「いや、ここで吊光弾を無駄遣いさせるわけにはいかん」

 白石万隆参謀長の問いに、近藤は首を振った。

「それよりも水偵の確認した米戦艦と、本艦との距離は?」

「現在、四万五〇〇〇メートルと推定されます」

「見張り員による視認はまだ出来ぬだろうな」

 いかに帝国海軍の夜間見張り員の視力が優れていようと、水平線の彼方に辛うじて浮かび上がっている敵の艦影を発見するのは困難であろう。
 視認出来るのは、恐らく二万メートルを切ったあたりからだろう。
 帝国海軍の砲術教範では、戦艦の決戦距離は二万メートルから三万メートルと定めている。しかし、三万メートル近い砲戦距離だと命中が著しく低下するという訓練結果が出ていたことから、推奨される決戦距離は二万五〇〇〇メートルとされていた。
 二万メートルを切る砲戦距離というのは、九一式徹甲弾が開発される以前において想定されていた決戦距離である。
 しかも、帝国海軍では高速戦艦である金剛型を除き、戦艦による夜戦は推奨されていない。夜間に戦艦が戦闘に巻き込まれそうになった場合には、煙幕を張って退避の上、翌朝以降に決戦を持ち越すよう、定めているほどであった。
 その意味では、戦前から帝国海軍の主力と目されていた陸奥、そして伊勢、日向を夜戦に投入するというのは、まったく想定外の運用方法であるとすらいえた。
 とはいえ、近藤は艦隊決戦において夜戦を担う第二艦隊の司令長官である。戦前の想定にはない状況ではあったが、陸奥以下三隻の戦艦は、適切に運用すれば夜戦でも十分に戦えると考えていた。
 それに、そもそも夜戦部隊たる第二艦隊における戦艦の存在価値とは、敵の砲火を引き付けて水雷戦隊の針路を啓開することなのだ。
 その意味では、金剛型であろうと、本来は第一艦隊に所属しているべき陸奥であろうと、第二艦隊にとっては敵艦の砲火を引き受けてくれるならばどちらでも良かった。

「水偵には逐一、米戦艦の速力、進行方向を報告させろ。そして、距離三万メートルを切った時点で主隊は面舵に転舵、米戦艦部隊の針路を塞ぐ。奴らを、一航艦に近付けてはならん」
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