最後のメッセージ

寄賀あける

文字の大きさ
5 / 12

しおりを挟む
 ただでさえ乗車客の少ない路線だ。それでなくとも午後の中途半端な時間帯、席はまばらに埋まるだけだ。

 一通り車内を見渡したものの、その客の殆どが自分と同じ高校生と見て取ると、シュウは座ることをせず乗車口に立って外を眺めることにした。

 追い立てられるように過ぎる景色は、本格的になってきた梅雨の曇天に縁取られ、いささか精彩に欠ける。群れて咲く黄色い花だけが鮮やかな彩りを添えていた。

「ねぇねぇ、あのコでしょう?」
囁き交わす声につい振り向くと、セーラー服の一団がキャアと小さい悲鳴をあげて、中の一人を小突いた。小突かれたセーラー服がチラリとシュウを見る。

 慌てて視線をはずすと、電車はゆっくりと速度を落としプラットホームに滑り込むところだ。降りる予定の駅ではなかったが、ドアが閉まる寸前、構わずシュウはそこで降りた。

 この後の展開は何度か経験している。おずおずと近寄ってくる女の子たち、何も答えられず困惑する自分、そしてやっとの思いで話せないことを伝えれば、サッと女の子たちの顔色が変わる。そして泣き出した一人を周囲が慰めてこう言う。運が悪かったのよ……

 そして二度と近付くものかという雰囲気を漂わせながら、彼女たちはシュウをそこに残したまま消える。そう、悪運に取り付かれないように。

 走り去る電車を見送りながら、シュウはユリエのバイト先がこの近くだということを思い出していた――

(母さん、相変わらず?)
ノートに走り書きする。

「変わりようがないよ」
ユリエが答える。

 タイミングよく、ユリエが上がる時間に会えた。ここじゃあなんだから……誘われるままに、近くの喫茶店に入った。

「家になんか閉じこもってないで、パートにでも出てみたらいいのにね。そりゃあパパがよくしてくれるから、生活に困るわけじゃないけど――でもさぁ、パパは大丈夫なの?」
かねのこと? 僕には何も言わないな)

「進学のこととかは?」
(合格したら医学部だろうが行かせてやる、だってさ)

「なによ、シュウ」
ユリエが軽く目を見開いてシュウを見る。
「医学部、目差してるの?」

(まさか!)
クスクスと笑い合ったあと、ふとユリエが真顔に返る。
「だけどシュウの場合、大学を卒業したあとどうするか、そっちのほうが重要だよね……」

 それには答えず氷が溶け始めたコーヒーを啜る。ガムシロップもミルクも入れていない液体は中途半端に苦い味がした。

「たまにはうちにも遊びにおいでよ」
別れ間際のユリエの言葉に、シュウは苦笑いしながら首を振った。

「ママもね……」
そんなシュウにユリエは慈しむような目を向ける。
「本当はシュウのこと、愛しているのよ」

 それはない――

 シュウの顔から表情が消えるのを悲しく見詰めるユリエだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

甘い束縛

はるきりょう
恋愛
今日こそは言う。そう心に決め、伊達優菜は拳を握りしめた。私には時間がないのだと。もう、気づけば、歳は27を数えるほどになっていた。人並みに結婚し、子どもを産みたい。それを思えば、「若い」なんて言葉はもうすぐ使えなくなる。このあたりが潮時だった。 ※小説家なろうサイト様にも載せています。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

工場夜景

藤谷 郁
恋愛
結婚相談所で出会った彼は、港の製鉄所で働く年下の青年。年齢も年収も関係なく、顔立ちだけで選んだ相手だった――仕事一筋の堅物女、松平未樹。彼女は32歳の冬、初めての恋を経験する。

処理中です...