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第22章 性的虐待の疑いで児童相談所の調査を受ける

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 二日間に亘った入学試験が終わった三月四日の夕刻、札幌から室蘭に向かうバスの中に合格を確信した僕が座っていた。美智子とのことで、入試直前の大切な時期に勉強に集中できなかったので、一抹の不安を抱えての受験であったが、ほぼ完璧に解答欄を埋めることができ、間違いなく合格圏内に滑り込めた。心配して待っているだろう静香に早く朗報を伝えたい、静香の喜ぶ顔を見たい、今夜はご褒美のセックスをしてもらおうと、はやる気持ちを抑えてバスに乗っていた。
 合格を見越して室蘭の家の売却先も決めており、不合格は許されない状況であったので、正直ほっとしていた。転居先の家はまだ手当していなかったので、いつ札幌に探しに行こうか、離婚申入れの手紙を鉄男に早く出すように静香を強く促さなければなどと、今後のスケジュールに思いをめぐらせているうちに室蘭についた。
 家の玄関に入るなり、「スンヒ(純姫)、上手くいったよ」と告げた。静香の満面の笑みが帰って来ると思っていた僕は、様子が変なのに気付いた。「良かったわね。上手くいくと信じていたわ」と言う静香の声がどこか上の空であった。何かあったようだ。夕食の用意もされていなかった。何もしないで、僕の帰りをひたすら待っていたようだ。重大なことが生じたようだ。
 着替えてから「どうしたの。困ったことが起きたの?」と聞くと、今日起きたことを語り始めたが、その大要は次のとおりであった。
 今日の十時時頃児童相談所の職員が『お聞きしたいことがある』と突然尋ねて来た。養子縁組の際には、児童相談所に相談に乗ってもらうなどお世話になり、その後も、児童相談所に何度か報告したり、指導を受けたりした。児童相談所の職員が自宅に様子を見に来たことも一度あった。しかし、それは最初の二,三年間だけで、その後は児童相談所と接触することはなくなっていた。しかも、日程調整もない突然の訪問だったので静香は大変驚いた。
 訪問の理由は、虐待の通報があったからだということだった。『養母が養子に性的虐待を行っているようだ』という内容だった。最初、匿名の投書で具体性に欠ける内容だったので、嫌がらせやいたずらの可能性が高いと判断して、対応をとらなかったが、今回、同様の内容の顕名の通報であったので、話を伺いに来たということだった。
 児童相談所の職員の問いに対して、静香は僕との性交渉を躊躇なく即座に否定したという。通報内容に具体的な証拠は一つもなく、『あやしい』というあいまいな推測を超えるものでなかったようで、静香がきっぱり否定すると、それ以上の執拗な追求はなかったということだった。ただ、家族の状況や夫の不在期間、不在理由などの質問があり、さらに僕に面接して、事実の確認をしたいという要請があったという。明日にも僕を児童相談所に出向かせることを約束し、児童相談所の職員にお引き取り頂いたとのことであった。
 
 養母と養子が性交渉を持つのは、犯罪を構成するということらしい。道徳的な観点から非難を受けるのは分かるが、犯罪なのだろうか?他人に迷惑をかけてもいないのに、二人が愛し合うことが何故犯罪なのだろうか?どんな罪になるというのか?しかも、犯罪者は静香で、僕は被害者であるようだ。
 僕は虐待など受けていない。脅迫や強要されて性交しているわけではない。僕は、僕の意思で、僕が望んで静香とセックスしており、静香とのセックスは楽しく、満ち足りており、至福の時間だ。何故、これが虐待なのだ。そもそも性的暴力、性交の強制は、男が女に対して行うもので、女から男への強姦、性的虐待などあり得ない。僕たちの関係を犯罪と認定するのは不合理だ、間違いだと僕は強く思った。
 しかし、僕は先月誕生日を迎え十八歳になったが、それ以前は法律上児童だ。静香との性交渉を認めると、静香が児童福祉法の淫行罪に問われる可能性があるようだ。罪に問われなくとも、社会倫理にもとるあるまじき行為として、糾弾されるのは必至だ。児童相談所が職権で僕らを引き離す恐れもある。児童相談所の調査に対しては、完全否定で臨まなければと思った。また、速やかに出頭した方が良い印象を与えることができると考えて、翌日中に児童相談所に出向くことにした。
 その夜、風呂からあがり、静香を抱こうとすると、「だめよ」と断られた。性的虐待と言われたことに相当ショックを受けたに違いない。受けた打撃は深刻のようだ。僕は静香を落ち着かせようと、
「明日は上手く説明するから、心配いらないよ。安心して」と言った。
「私は葵ちゃんにいけないことをしていたのかしら」
「そんなことないよ。僕が望んだことだよ。僕がお願いして、始まったことじゃないか」
「でも、断るべきだったのかも。私は葵ちゃんの保護者よ。保護者が、無知に付け込んで、無垢な子供をもてあそんだということにならないかしら」
「僕はもう高校生だよ。無知でも無垢でもないよ。高校生はセックスしてはいけないの?僕は身も心も十分セックス出来る程度に成長しているよ」
「私は養母で、葵ちゃんは私の子供よ。男と女として愛し合うことは、してはいけないこと、許されないことだったのではないかしら」
「スンヒ(純姫)は確かに僕の育ての親だけど、血のつながりはないし、幼い時は子供として慈しみ大切に育ててくれた。だから、高校生になって男と女の関係になっても何の問題もないと思うよ。綺麗で、いつまでも若々しく、自分を犠牲にして僕につくしてくれるスンヒ(純姫)に、僕が恋心を抱くのはむしろ自然だと思う。僕の気持ちを受け入れてくれたスンヒ(純姫)に僕は感謝している。僕はスンヒ(純姫)が恋人なのが、うれしくて、誇りに思うし、幸せだ」
「ありがとう、葵ちゃん。うれしいわ。私も葵ちゃんが大好きよ。いつまでも、いつまでもそばに居てほしい。離したくないわ。離れたくないわ。でも、葵ちゃんと私は歳が離れすぎているわ。葵ちゃんには、もっとふさわしい人がいるかもしれないと思う」
「そんなことない。僕には臈長けたスンヒ(純姫)ほど魅力的なひとはいないよ。経験を積み重ねた女性が持つ、洗練された美しさと気品がスンヒ(純姫)にはある。若いっていうことは、稚拙で深みがなく、未熟だということだから、若ければ良いというものではないよ」
「私は葵ちゃんが可愛くて、夢中になり、自分を抑えられなかった。私こそ未熟で大人になりきれていない人間なので、無辜の葵ちゃんを罪に巻き込んでしまったのだわ。自分の情欲のために、恣に幼けない葵ちゃんを弄び、純真でうぶな葵ちゃんを私は汚ししてしまった」
「僕は初体験の相手がスンヒ(純姫)で良かったと思っている。スンヒ(純姫)はセックスがどんなに素晴らしいものか教えてくれた。どう体を使えばいいのか、女はどうしてほしいのか、女が陶酔すれば男の快感がどれほど高まるのか、全てスンヒ(純姫)が教えてくれた。性愛がどんなに楽しく、輝いているものなのか、スンヒ(純姫)が教えてくれた。僕はラッキーだったと思っているよ」
 僕は静香を引き寄せてキスをした。今日はセックスすることを諦めていたが、キスをしているうちに抑えられなくなり、静香の胸をはだけて、乳房を取りだし吸いついた。乳房を揉みしだきながら、吸い続けていると、次第にバストが盛り上がり、張りが増し硬くなり、乳首がせり上がってきた。男性器をフェラチオするように、勃起した先端を根元まで深く咥え、口をすぼめて吸うと、僕の喉の中で乳頭がぐんぐん大きくなった。
 静香が「あうん。だめよ。葵ちゃん、だめよ」と弱々しく言いながら、嗚咽の声を漏らし始めた。その声を聞きながら、僕はほおばっていた乳首を口からだして、手で上下にこすり、さきっぽをなめ、側面に吸いつく。静香はひっくひっくとしゃくり上げながらむせび泣いている。小さなペニスとなった静香の乳首を再び口に含み、口唇に引っ掛けて上下に動かすと、静香は「うぅ」と声を上げ、僕にしがみついた。しがみついたまま暫く小刻みに震えていたが、やがて静かになった。
 僕が静香の下腹部に手を伸ばすと、その手を押さえて「いったから、もういいの。止めて。このまま寝たいわ。お願い」と涙声で言った。僕は静香の目尻に溜まっていた涙を指で拭ってから、静香の右手を僕の下腹部に導いた。静香は僕を握ってくれた。僕はそれで満足して、握ってもらったまま眠りに就いた。
 
 児童相談所は東室蘭駅の東口にあり、S高校も近いので、まずS高校に立ち寄り、受験結果の報告をしてから、児童相談所を訪れることにした。高校の担任の清水先生は、体育の教師で、細かい口出しはしない鷹揚なタイプであったが、気遣いもある人で、生徒の信頼が厚かった。
 昼食後に家を出て、職員室で清水先生に『上手くいったこと、自信があること』を伝えると、「そうか、よかった。金田のことは全く心配していなかった。楽勝だと信じていたぞ」と先生は言ってくれた。午前中に受験結果の報告をすでに済ましていた数人の同級生の状況などの雑談を終え、辞そうと席を立って戸口まで行きかけたところで、先生に呼び止められた。
「口止めさているので、本当は言ってはいけないんだが、実は、この前、児童相談所の方が来校して、お前のことを色々聞いて帰ったんだが、何かあったのか?」
「どんなことを聞いたのですか」
「学業成績や学校での様子だが、精神状態を調べてるようだった。成績はトップで、精神的も安定していて、生活態度に何の問題もないと伝えておいたが、児童相談所は何故調べているのか。何か聞いていないのか?」
「実は、これから児童相談所に行くところです。養親と上手くいっているか調査しているようです。養父母とトラブルになっていると誤解しているようです。トラブルなんか何もないので、これから説明に行ってきます」
 先生は、児童相談所から何も聞かされていないらしく、
「養父がお前を苛めたり、暴力を振るったりということはないんだな。何でも相談に乗るから、いつでも来い」と的を外れた質問をしてきた。
「養父は二年前に北鮮に帰って、家にはいません。誰にも苛められていません。大切に育ててもらっています」
「ああ、そうだったな。今は母親と二人で暮しているんだったな。問題はないんだな」と念押ししてから、先生は僕を解放してくれた。
 
 僕は孤児だったので、金田家の養子になる以前から、児童相談所に何度もお世話になっており、児童相談所の一時保護所で一か月以上寝泊まりしたこともあった。だから、相談所の先生達がどんな人で、何を考えているかも分かっていたので、児童相談所での面談に落ち着いて受け答えできた。
『養母と性交渉があるのではないか』というダイレクトの質問はなかったが、女性の課長と男性職員の二名から、養母との生活振りについて細かく聞かれた。僕は『大切に育ててもらっており、自分の意思に反する虐待など受けていなし、今は幸せだ』ときっぱりと言った。事前に高校の担任から僕のことを聞いており、問題はなそうだと判断していたらしく、僕が明確に否定すると、それ以上のしつこい質問はなく、納得してくれたようだった。
 僕は通報者が誰か気になっていた。美智子に最後に出した手紙から、聡明な美智子は『その人』が静香と気づいたはずだ。美智子が通報などするはずはないと思うが、では誰が僕と静香の関係を知っているのか?静香が誰かに言うはずもないし、やはり美智子が関係しているのだろうか?それとも、僕たちを観察していた、近所の誰かがあやしいと気づいたのか?
 日曜日には目が覚めてからも、僕たちは愛し合ったので、午前中も厚手のドレープカーテンを閉め切って過ごすことが多かった。そのことが近隣の人の注意を惹いた可能性はある。外では、親子の親愛の情を超えるような振る舞いはしないように気をつけていたが、家の中では、キスしたり、体を触ったり、抱き合ったりしていたので、昼間にレースのカーテンの隙間から近所の誰かに覗かれた可能性もある。あるいは、日常の些細なやり取り---口調、しぐさ、目線---などから、母と息子の以上の濃密な匂いを嗅ぎ取った、鋭敏な隣人がいたのだろうか?
 教えてはもらえないと思ったが、美智子ではないことを確認したかったので、敢えて誰が通報したのか聞くことにした。
「通報したのはどんな人ですか。教えて下さい」と尋ねると、
「誰が電話してきたかは、規則で言えないことになっている」と男の職員が返答した。
「高校生か、そうでないか教えて下さい。僕を嫌っている、同じ学校の生徒のいやがらせだったのでしょうか。僕を憎んでいる同級生がいるとしたらショックです」と食い下がると、男の職員が「それも言えない」と言いかけるのを制して、女性課長が、「年配の女性で、高校生ではないから安心して」と教えてくれた。
 どうやら近所のおばさんが通報したようで、美智子ではないことが分かりほっとした。
 最後に、高卒後の生活に聞かれ、大学の学生寮に入るつもりだと答えた。札幌で静香と一緒に住むと答えるのはまずいような気がして、とっさにそう答えた。札幌の児童相談所にケース移管され、継続調査の対象とされたら面倒なことになるので、よい判断だったと思う。
 帰りは、女性課長と男の職員が玄関まで送りに出てくれ、女性課長が、「良いお医者さんになってね」と励ましの言葉をかけてくれた。
  
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