氷の公爵は、捨てられた私を離さない

空月そらら

文字の大きさ
44 / 60

第44話 完全な決別

しおりを挟む
ローゼンベルク侯爵夫妻が、ほうほうの体で城を去っていった後、応接室にはアリアとレオルドだけが残された。先ほどの激しいやり取りの余韻が、まだ部屋の空気にはりついているようだった。

アリアは、しばらくの間、呆然と立ち尽くしていた。実の両親に対して、あれほどはっきりと拒絶の言葉を口にしたのは、生まれて初めてのことだった。心のどこかで、罪悪感のようなものも感じていたが、それ以上に、長年の呪縛から解き放たれたような、清々しい気持ちの方が強かった。

(これで、本当に終わったんだわ……)

家族との繋がり。それは、アリアにとって、温かいものではなく、むしろ自分を縛り付け、傷つけるものでしかなかった。その鎖を、今、自分の手で断ち切ったのだ。もう、彼らの顔色を窺い、言いなりになる必要はない。

「……大丈夫か、アリア」

不意に、レオルドが心配そうな声で尋ねた。彼の青い瞳には、アリアを気遣う色が浮かんでいる。

「はい……大丈夫です。少し、疲れましたが……でも、すっきりしました」

アリアは、彼に向き直り、正直な気持ちを伝えた。そして、深々と頭を下げた。

「レオルド様、ありがとうございました。そばにいてくださって、そして、守ってくださって……本当に、心強かったです」

彼がいなければ、きっとここまで毅然とした態度は取れなかっただろう。彼の存在が、アリアに勇気を与えてくれたのだ。

「礼には及ばん。当然のことをしたまでだ」

レオルドは、ぶっきらぼうに答えながらも、その表情はどこか誇らしげに見えた。アリアが自分の力で過去と決別したことを、彼もまた喜んでいるのかもしれない。

「それにしても……君の家族は、少々……度が過ぎるな」

レオルドは、苦々しい顔で付け加えた。アリアがあのような両親の元で育ってきたことを思うと、彼の中で新たな怒りが込み上げてくるのを感じていた。

「……ええ。でも、もう関係ありません。私は、ローゼンベルク家の人間としてではなく、アリアとして、ここで生きていきますから」

アリアは、きっぱりと言った。その顔には、迷いはなかった。瞳には、未来を見据える強い光が宿っている。

その姿を見て、レオルドは改めてアリアという女性の強さと、そしてその魅力に気づかされていた。彼女は、逆境の中で、しなやかに、そして力強く成長していたのだ。

(私が……守らねば)

その思いは、もはや義務感や同情ではなかった。彼女という存在そのものを、愛おしみ、守りたいという、純粋な願いだった。

「……ああ。君の居場所は、ここだ。私が保証する」

レオルドは、アリアの言葉に応えるように、力強く言った。それは、彼からの、改めての誓いの言葉でもあった。

この出来事を通じて、アリアは過去のしがらみを完全に断ち切り、自立した一人の人間としてのアイデンティティを確立した。そして、レオルドとの絆もまた、より一層深く、揺るぎないものとなった。

二人は、互いを支え、守り合う存在として、これから訪れるであろう更なる試練に立ち向かっていく覚悟を、静かに固めていた。家族との決別は、アリアにとって辛い経験ではあったが、同時に、新しい人生を力強く歩み出すための、重要な一歩となったのだった。

しかし、彼らが手に入れた平穏は、長くは続かなかった。王都では、アリアへの嫉妬と憎悪に燃える聖女が、邪悪な企みを実行に移そうとしていたのだ。新たな嵐が、すぐそこまで迫っていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女の私は利用されていた ~妹のために悪役令嬢を演じていたが、利用されていたので家を出て幸せになる~

ゆうき
恋愛
十七歳の誕生日を迎えた男爵令嬢のリーゼは、社交界では有名な悪役令嬢で、聖女と呼ばれる不思議な力を持っていた。 リーゼは社交界に出席すると、いつも暴言を吐き、粗暴な振る舞いを取る。そのせいで、貴族達からは敬遠されていた。 しかし、リーゼの振る舞いは全て演技であった。その目的は、か弱い妹を守るためだった。周りの意識を自分に向けることで、妹を守ろうとしていた。 そんなリーゼには婚約者がいたが、リーゼの振る舞いに嫌気がさしてしまい、婚約破棄をつきつけられてしまう。 表向きでは強がり、婚約破棄を了承したが、ショックを隠せないリーゼの元に、隣国の侯爵家の当主、アルベールが声をかけてきた。 社交界で唯一リーゼに優しくしてくれて、いつも半ば愛の告白のような言葉でリーゼを褒めるアルベールは、リーゼに誕生日プレゼントを渡し、その日もリーゼを褒め続ける。 終始褒めてくるアルベールにタジタジになりつつも、リーゼは父に婚約破棄の件を謝罪しようと思い、父の私室に向かうと、そこで衝撃の事実を聞いてしまう。 なんと、妹の性格は大人しいとは真逆のあくどい性格で、父や婚約者と結託して、リーゼを利用していたのだ。 まんまと利用され、自分は愛されていないことを知ったリーゼは、深い悲しみに暮れながら自室に戻り、長年仕えてくれている侍女に泣きながら説明をすると、とあることを提案された。 それは、こんな家なんて出て行こうというものだった。 出て行くと言っても、リーゼを助けてくれる人なんていない。そう考えていた時、アルベールのことを思い出したリーゼは、侍女と共にアルベールの元へ訪ねる。 そこで言われた言葉とは……自分と婚約をし、ここに住めばいいという提案だった。 これは悪役令嬢を演じていたリーゼが、アルベールと共に自分の特別な力を使って問題を解決しながら、幸せになっていく物語。 ☆全34話、約十万文字の作品です。完結まで既に執筆、予約投稿済みです☆ ☆小説家になろう様にも投稿しております☆ ☆女性ホットランキングで一位、24hポイントで四位をいただきました!応援してくれた皆様、ありがとうございます!☆

【完結】王太子とその婚約者が相思相愛ならこうなる。~聖女には帰っていただきたい~

かのん
恋愛
 貴重な光の魔力を身に宿した公爵家令嬢エミリアは、王太子の婚約者となる。  幸せになると思われていた時、異世界から来た聖女少女レナによってエミリアは邪悪な存在と牢へと入れられてしまう。  これは、王太子と婚約者が相思相愛ならば、こうなるであろう物語。  7月18日のみ18時公開。7月19日から毎朝7時更新していきます。完結済ですので、安心してお読みください。長々とならないお話しとなっております。感想などお返事が中々できませんが、頂いた感想は全て読ませてもらっています。励みになります。いつも読んで下さる皆様ありがとうございます。

婚約破棄されたはずなのに、溺愛が止まりません!~断罪された令嬢は第二の人生で真実の愛を手に入れる~

sika
恋愛
社交界で名高い公爵令嬢・アイリスは、婚約者である王太子に冤罪をでっち上げられ、婚約破棄と同時にすべてを失った。 誰も信じられず国外に逃れた彼女は、名を偽り辺境の地で静かに生きるはずだった――が、そこで出会った青年将軍が、彼女に異常なまでの執着と愛を向け始める。 やがて明らかになる陰謀の真相、そして王都から彼女を探す“元婚約者”の焦燥。 過去を乗り越え、愛を選ぶ彼女の物語は、痛快な逆転劇と甘く濃密な溺愛とともに幕を開ける。

【完結】全てを後悔しても、もう遅いですのよ。

アノマロカリス
恋愛
私の名前はレイラ・カストゥール侯爵令嬢で16歳。 この国である、レントグレマール王国の聖女を務めております。 生まれつき膨大な魔力を持って生まれた私は、侯爵家では異端の存在として扱われて来ました。 そんな私は少しでも両親の役に立って振り向いて欲しかったのですが… 両親は私に関心が無く、翌年に生まれたライラに全ての関心が行き…私はいない者として扱われました。 そして時が過ぎて… 私は聖女として王国で役に立っている頃、両親から見放された私ですが… レントグレマール王国の第一王子のカリオス王子との婚姻が決まりました。 これで少しは両親も…と考えておりましたが、両親の取った行動は…私の代わりに溺愛する妹を王子と婚姻させる為に動き、私に捏造した濡れ衣を着せて婚約破棄をさせました。 私は…別にカリオス王子との婚姻を望んでいた訳ではありませんので別に怒ってはいないのですが、怒っているのは捏造された内容でした。 私が6歳の時のレントグレマール王国は、色々と厄災が付き纏っていたので快適な暮らしをさせる為に結界を張ったのですが… そんな物は存在しないと言われました。 そうですか…それが答えなんですね? なら、後悔なさって下さいね。

義妹がやらかして申し訳ありません!

荒瀬ヤヒロ
恋愛
公爵令息エリオットはある日、男爵家の義姉妹の会話を耳にする。 何かを企んでいるらしい義妹。義妹をたしなめる義姉。 何をやらかすつもりか知らないが、泳がせてみて楽しもうと考えるが、男爵家の義妹は誰も予想できなかった行動に出て――― 義妹の脅迫!義姉の土下座!そして冴え渡るタックル! 果たしてエリオットは王太子とその婚約者、そして義妹を諫めようとする男爵令嬢を守ることができるのか?

公爵令嬢は婚約破棄に微笑む〜かつて私を見下した人たちよ、後悔する準備はできてる?〜

sika
恋愛
婚約者に裏切られ、社交界で笑い者にされた公爵令嬢リリアナ。 しかし彼女には、誰も知らない“逆転の手札”があった。 婚約破棄を機に家を離れ、彼女は隣国の次期宰相に招かれる。 そこで出会った冷徹な青年公爵・アルヴェンが、彼女を本気で求めるようになり——? 誰もが後悔し、彼女だけが幸福を掴む“ざまぁ”と“溺愛”が交錯する、痛快な王道ラブロマンス!

冷酷王太子に婚約破棄された令嬢は、辺境で出会った隣国の将軍に一途に愛される

usako
恋愛
王太子アルノルトの婚約者として完璧に振る舞い続けた公爵令嬢エリシア。しかし、ある日突然、「心から愛する女性ができた」と婚約を一方的に破棄される。王都で笑われ、侮られ、追い出されるように実家を出たエリシアが辿り着いたのは、魔獣が出没する辺境の砦。 そこで出会ったのは、無骨だが誠実な隣国の将軍ライアンだった。彼の不器用な優しさに触れ、少しずつ心を取り戻すエリシア。 一方、王都では彼女を失った王太子が後悔とともに破滅への道を歩み始める——。 冷遇令嬢が愛を取り戻す「ざまぁ」と「溺愛」の王道ストーリー。

聖女は記憶と共に姿を消した~婚約破棄を告げられた時、王国の運命が決まった~

キョウキョウ
恋愛
ある日、婚約相手のエリック王子から呼び出された聖女ノエラ。 パーティーが行われている会場の中央、貴族たちが注目する場所に立たされたノエラは、エリック王子から突然、婚約を破棄されてしまう。 最近、冷たい態度が続いていたとはいえ、公の場での宣言にノエラは言葉を失った。 さらにエリック王子は、ノエラが聖女には相応しくないと告げた後、一緒に居た美しい女神官エリーゼを真の聖女にすると宣言してしまう。彼女こそが本当の聖女であると言って、ノエラのことを偽物扱いする。 その瞬間、ノエラの心に浮かんだのは、万が一の時のために準備していた計画だった。 王国から、聖女ノエラに関する記憶を全て消し去るという計画を、今こそ実行に移す時だと決意した。 こうして聖女ノエラは人々の記憶から消え去り、ただのノエラとして新たな一歩を踏み出すのだった。 ※過去に使用した設定や展開などを再利用しています。 ※カクヨムにも掲載中です。

処理中です...