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番外編
第51話 故郷からの悲痛な叫び
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ライオネル様と結婚し、ヴァルテンベルク公爵夫人となってから、早数年の歳月が流れた。私たちの間には、アレクサンダーとソフィアという二人の愛らしい子供たちも生まれ、公爵邸はいつも賑やかな笑い声に包まれている。ガルディア王国は、ライオネル様の賢明な統治と、私のささやかな助言もあって、平和と繁栄を謳歌していた。それは、まさに私が夢見ていた、愛と喜びに満ちた日々だった。
けれど、そんな幸せな日常の中に、ある日、一通の手紙が影を落とした。差出人は、私の故郷であるエスタード王国に残してきた、老侍女のマーサだった。
マーサからの手紙は、以前も時折届いていた。そこには、彼女の近況や、私の健康を気遣う言葉などが綴られていたが、今回ばかりは、その内容がいつもと全く異なっていたのだ。
震える手で封を開け、便箋に目を落とした私は、そこに書かれていた言葉に息を呑んだ。
『アリアナお嬢様……いえ、ヴァルテンベルク公爵夫人様。ご無沙汰しております。マーサでございます。この手紙が、無事にお手元に届くことを祈るばかりです。お嬢様がガルディアへ行かれてから、エスタードは……私たちが愛した故郷は、日に日にその輝きを失っております。レオンハルト殿下の失政は続き、貴族たちは相変わらず私利私欲に走り、民の暮らしは困窮を極めております。
今年は、長雨と日照り不足で凶作となり、多くの地域で深刻な飢饉が発生いたしました。蓄えも底をつき、街には餓えた人々が溢れ、子供たちは栄養失調で次々と命を落としております。追い打ちをかけるように、不衛生な環境からか、疫病まで流行り始めてしまいました。
かつては活気に満ちていた王都も、今ではまるでゴーストタウンのようです。店はシャッターを下ろし、道端には力なく座り込む人々。治安も悪化し、夜盗や強盗が横行しております。
わたくしのような老婆は、ただ日々の無事を祈ることしかできません。ですが、未来ある子供たちが、こんなにも理不尽な苦しみの中で死んでいくのを見るのは、あまりにも辛く、悲しいことでございます。
お嬢様に、このような暗いお知らせをすることをお許しください。ですが、このエスタードの惨状を、誰かに伝えずにはいられなかったのです……。どうか、お嬢様はお元気で、お幸せにお暮らしください。それが、老婆の唯一の願いでございます』
手紙を読み終えた時、私の目からは大粒の涙が溢れ落ちていた。マーサの文字は、いつものようなしっかりとしたものではなく、弱々しく震えている。彼女自身も、きっと苦しい生活を送っているに違いない。
(なんてこと……エスタードが、そんなことに……)
エスタードが凋落しているという話は聞いていた。けれど、これほどまでに悲惨な状況に陥っているとは、想像もしていなかったのだ。飢饉、疫病、治安の悪化……まるで、地獄のような光景が目に浮かぶ。
私が今、こんなにも幸せな生活を送っている一方で、故郷の人々は、想像を絶する苦しみの中にいる。その事実に、私の胸は罪悪感で押し潰されそうになった。私がエスタードを捨てたから、こんなことになってしまったのだろうか。いや、それは違う。原因は、レオンハルト殿下や、腐敗した貴族たちにあるはずだ。
けれど、そう分かっていても、私の心は重く沈んだままだった。マーサの悲痛な叫びが、私の耳から離れない。
その夜、私はライオネル様に、マーサからの手紙のことを打ち明けるべきかどうか、ずっと悩んでいた。彼は、エスタードに対して厳しい態度を取っている。こんな話をすれば、彼を困らせてしまうかもしれない。でも……。
(私に、何かできることはないのかしら……。たとえ僅かでも、故郷の人々を救う手立ては……)
私は、眠れぬ夜を過ごしながら、何度も何度も自問自答を繰り返した。そして、夜が白み始める頃、ようやく一つの決意を固めたのだった。
けれど、そんな幸せな日常の中に、ある日、一通の手紙が影を落とした。差出人は、私の故郷であるエスタード王国に残してきた、老侍女のマーサだった。
マーサからの手紙は、以前も時折届いていた。そこには、彼女の近況や、私の健康を気遣う言葉などが綴られていたが、今回ばかりは、その内容がいつもと全く異なっていたのだ。
震える手で封を開け、便箋に目を落とした私は、そこに書かれていた言葉に息を呑んだ。
『アリアナお嬢様……いえ、ヴァルテンベルク公爵夫人様。ご無沙汰しております。マーサでございます。この手紙が、無事にお手元に届くことを祈るばかりです。お嬢様がガルディアへ行かれてから、エスタードは……私たちが愛した故郷は、日に日にその輝きを失っております。レオンハルト殿下の失政は続き、貴族たちは相変わらず私利私欲に走り、民の暮らしは困窮を極めております。
今年は、長雨と日照り不足で凶作となり、多くの地域で深刻な飢饉が発生いたしました。蓄えも底をつき、街には餓えた人々が溢れ、子供たちは栄養失調で次々と命を落としております。追い打ちをかけるように、不衛生な環境からか、疫病まで流行り始めてしまいました。
かつては活気に満ちていた王都も、今ではまるでゴーストタウンのようです。店はシャッターを下ろし、道端には力なく座り込む人々。治安も悪化し、夜盗や強盗が横行しております。
わたくしのような老婆は、ただ日々の無事を祈ることしかできません。ですが、未来ある子供たちが、こんなにも理不尽な苦しみの中で死んでいくのを見るのは、あまりにも辛く、悲しいことでございます。
お嬢様に、このような暗いお知らせをすることをお許しください。ですが、このエスタードの惨状を、誰かに伝えずにはいられなかったのです……。どうか、お嬢様はお元気で、お幸せにお暮らしください。それが、老婆の唯一の願いでございます』
手紙を読み終えた時、私の目からは大粒の涙が溢れ落ちていた。マーサの文字は、いつものようなしっかりとしたものではなく、弱々しく震えている。彼女自身も、きっと苦しい生活を送っているに違いない。
(なんてこと……エスタードが、そんなことに……)
エスタードが凋落しているという話は聞いていた。けれど、これほどまでに悲惨な状況に陥っているとは、想像もしていなかったのだ。飢饉、疫病、治安の悪化……まるで、地獄のような光景が目に浮かぶ。
私が今、こんなにも幸せな生活を送っている一方で、故郷の人々は、想像を絶する苦しみの中にいる。その事実に、私の胸は罪悪感で押し潰されそうになった。私がエスタードを捨てたから、こんなことになってしまったのだろうか。いや、それは違う。原因は、レオンハルト殿下や、腐敗した貴族たちにあるはずだ。
けれど、そう分かっていても、私の心は重く沈んだままだった。マーサの悲痛な叫びが、私の耳から離れない。
その夜、私はライオネル様に、マーサからの手紙のことを打ち明けるべきかどうか、ずっと悩んでいた。彼は、エスタードに対して厳しい態度を取っている。こんな話をすれば、彼を困らせてしまうかもしれない。でも……。
(私に、何かできることはないのかしら……。たとえ僅かでも、故郷の人々を救う手立ては……)
私は、眠れぬ夜を過ごしながら、何度も何度も自問自答を繰り返した。そして、夜が白み始める頃、ようやく一つの決意を固めたのだった。
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