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番外編
第53話 最後の使者、最後の望み
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ライオネル様とエスタードへの支援について話し合ってから、数週間が過ぎた。その間、ガルディアの情報部からも、エスタードの国内情勢がさらに悪化しているという報告が、次々と寄せられていた。もはや、国家崩壊寸前と言っても過言ではない状況だった。
(レオンハルト殿下は……一体、どうしていらっしゃるのかしら……)
あの傲慢でプライドの高かった彼が、この絶望的な状況を前に、何を思っているのだろうか。そんなことを考えていた矢先のことだった。
エスタード王国から、ガルディアに対し、正式な使節団が派遣されてきたという知らせが舞い込んできたのだ。
「エスタードからの使節団……? この時期に、一体何の目的で……」
ライオネル様は、執務室でその報告を受け、訝しげに眉を寄せた。私も、嫌な予感が胸をよぎる。まさか、また以前のような不当な要求を突き付けてくるつもりなのだろうか。それとも……。
数日後、エスタードの使節団が、公爵邸の応接室に姿を現した。その顔ぶれを見て、私は息を呑んだ。以前のような、居丈高で、華美な装飾を身に着けた貴族たちの姿はどこにもない。そこにいたのは、皆、やつれ果て、その目には深い絶望と疲労の色を浮かべた、数名の年配の貴族たちだった。彼らの服装も、みすぼらしいとは言わないまでも、明らかに質素なものに変わっている。
使節団の代表を務めるのは、アルブレヒト・フォン・ゼーブルック伯爵と名乗る、白髪の老人だった。彼は、エスタード国内でも比較的良識派として知られ、かつては宮廷内で穏健な発言を続けていたが、レオンハルト殿下の側近たちによって疎まれ、要職からは遠ざけられていた人物だと記憶している。
ゼーブルック伯爵は、深々と私たちに頭を下げると、震える声で口を開いた。
「ヴァルテンベルク公爵閣下、並びにアリアナ様……。この度は、かくも突然の訪問、誠に申し訳ございません。我々エスタード王国は……もはや、申し上げる言葉もございません……」
その声は、悲痛な響きを帯びていた。彼らは、もはや国家の代表としての体面を保つ余裕すらないのだろう。
「……して、本日のご用向きは?」
ライオネル様が、静かに、しかし威厳を込めて尋ねた。
ゼーブルック伯爵は、おずおずと懐から一通の封書を取り出し、それを恭しくライオネル様に差し出した。
「こちらを……レオンハルト王太子殿下からの、親書にございます」
ライオネル様は、無言でその親書を受け取り、封を切って中身に目を通し始めた。私も、隣からそっとその内容を覗き見る。
そこに書かれていたのは、レオンハルト殿下の、これまでの人生で見たこともないような、弱々しく、そして必死な筆跡だった。
『ヴァルテンベルク公爵閣下、並びに……アリアナ嬢へ。
この手紙を、どのようなお気持ちでお読みになるか、想像もつきません。私が、これまで貴殿がたに対し、どれほど無礼で、愚かな行いを繰り返してきたか……今更ながら、その罪の重さに打ち震えております。
我がエスタード王国は、私の度重なる失政と、貴族たちの腐敗により、今や崩壊の危機に瀕しております。民は飢え、病に倒れ、街には希望の光も見えません。全ては、私の不徳の致すところであり、万死に値すると思っております。
ですが……このまま、私が愛する故郷と、罪なき民を見殺しにすることは、どうしてもできません。
つきましては、誠に虫の良い話とは承知の上で、ヴァルテンベルク公爵閣下の寛大なるご支援を、そして……アリアナ嬢の、その類稀なる知恵をお借りしたく、こうして筆を執った次第でございます。
もはや、私には何のプライドもございません。ただ、民を救いたい。その一心でございます。
どうか……どうか、このエスタードに、最後の救いの手を差し伸べてはいただけないでしょうか。
エスタード王国第一王子 レオンハルト』
手紙を読み終えた私の胸には、何とも言えない複雑な感情が渦巻いていた。あの傲慢だったレオンハルト殿下が、ここまで打ちのめされ、プライドを捨てて助けを求めてきている。その事実は、驚きであると同時に、ほんの少しの……いや、これは憐憫とは違う。もっと別の、何か人間的な感情を呼び起こした。
ライオネル様は、黙って親書を読み終えると、静かにゼーブルック伯爵に視線を戻した。
「……レオンハルト王子の覚悟は、理解した。だが、我々が援助を行うには、相応の条件があることも、お伝えしておかねばなるまい」
その言葉に、ゼーブルック伯爵は、僅かな希望の光を見出したかのように、顔を上げた。
エスタードからの、最後の使者。彼らが持ってきたのは、最後の望みとなるのか、それとも……。私たちの決断が、今、試されようとしていた。
(レオンハルト殿下は……一体、どうしていらっしゃるのかしら……)
あの傲慢でプライドの高かった彼が、この絶望的な状況を前に、何を思っているのだろうか。そんなことを考えていた矢先のことだった。
エスタード王国から、ガルディアに対し、正式な使節団が派遣されてきたという知らせが舞い込んできたのだ。
「エスタードからの使節団……? この時期に、一体何の目的で……」
ライオネル様は、執務室でその報告を受け、訝しげに眉を寄せた。私も、嫌な予感が胸をよぎる。まさか、また以前のような不当な要求を突き付けてくるつもりなのだろうか。それとも……。
数日後、エスタードの使節団が、公爵邸の応接室に姿を現した。その顔ぶれを見て、私は息を呑んだ。以前のような、居丈高で、華美な装飾を身に着けた貴族たちの姿はどこにもない。そこにいたのは、皆、やつれ果て、その目には深い絶望と疲労の色を浮かべた、数名の年配の貴族たちだった。彼らの服装も、みすぼらしいとは言わないまでも、明らかに質素なものに変わっている。
使節団の代表を務めるのは、アルブレヒト・フォン・ゼーブルック伯爵と名乗る、白髪の老人だった。彼は、エスタード国内でも比較的良識派として知られ、かつては宮廷内で穏健な発言を続けていたが、レオンハルト殿下の側近たちによって疎まれ、要職からは遠ざけられていた人物だと記憶している。
ゼーブルック伯爵は、深々と私たちに頭を下げると、震える声で口を開いた。
「ヴァルテンベルク公爵閣下、並びにアリアナ様……。この度は、かくも突然の訪問、誠に申し訳ございません。我々エスタード王国は……もはや、申し上げる言葉もございません……」
その声は、悲痛な響きを帯びていた。彼らは、もはや国家の代表としての体面を保つ余裕すらないのだろう。
「……して、本日のご用向きは?」
ライオネル様が、静かに、しかし威厳を込めて尋ねた。
ゼーブルック伯爵は、おずおずと懐から一通の封書を取り出し、それを恭しくライオネル様に差し出した。
「こちらを……レオンハルト王太子殿下からの、親書にございます」
ライオネル様は、無言でその親書を受け取り、封を切って中身に目を通し始めた。私も、隣からそっとその内容を覗き見る。
そこに書かれていたのは、レオンハルト殿下の、これまでの人生で見たこともないような、弱々しく、そして必死な筆跡だった。
『ヴァルテンベルク公爵閣下、並びに……アリアナ嬢へ。
この手紙を、どのようなお気持ちでお読みになるか、想像もつきません。私が、これまで貴殿がたに対し、どれほど無礼で、愚かな行いを繰り返してきたか……今更ながら、その罪の重さに打ち震えております。
我がエスタード王国は、私の度重なる失政と、貴族たちの腐敗により、今や崩壊の危機に瀕しております。民は飢え、病に倒れ、街には希望の光も見えません。全ては、私の不徳の致すところであり、万死に値すると思っております。
ですが……このまま、私が愛する故郷と、罪なき民を見殺しにすることは、どうしてもできません。
つきましては、誠に虫の良い話とは承知の上で、ヴァルテンベルク公爵閣下の寛大なるご支援を、そして……アリアナ嬢の、その類稀なる知恵をお借りしたく、こうして筆を執った次第でございます。
もはや、私には何のプライドもございません。ただ、民を救いたい。その一心でございます。
どうか……どうか、このエスタードに、最後の救いの手を差し伸べてはいただけないでしょうか。
エスタード王国第一王子 レオンハルト』
手紙を読み終えた私の胸には、何とも言えない複雑な感情が渦巻いていた。あの傲慢だったレオンハルト殿下が、ここまで打ちのめされ、プライドを捨てて助けを求めてきている。その事実は、驚きであると同時に、ほんの少しの……いや、これは憐憫とは違う。もっと別の、何か人間的な感情を呼び起こした。
ライオネル様は、黙って親書を読み終えると、静かにゼーブルック伯爵に視線を戻した。
「……レオンハルト王子の覚悟は、理解した。だが、我々が援助を行うには、相応の条件があることも、お伝えしておかねばなるまい」
その言葉に、ゼーブルック伯爵は、僅かな希望の光を見出したかのように、顔を上げた。
エスタードからの、最後の使者。彼らが持ってきたのは、最後の望みとなるのか、それとも……。私たちの決断が、今、試されようとしていた。
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