破滅確定の悪役貴族、【絶対快眠】スキルで最強魔法使いになったので、学園スローライフを満喫する

1章

第41話 フィリアの励まし

エリシアが去った翌日、今度は俺自身の出発が迫っていた。
　
　入学式は盛大に行われるため、その日だけは朝早く邸宅を出る必要がある。

「レオン、もう出るのか？　お前、何か忘れ物はないだろうな？」
　
　兄ロイが俺を呼び止める。

　彼も昔は冷たい態度ばかりだったが、最近は多少口うるさい“兄貴”らしく振る舞ってくれている。
　
「忘れ物はないよ、ロイ兄さん。大丈夫。……じゃあ、行ってくる」

　すると、姉セレスが「やれやれ、変な事件を起こさないで頂戴ね。……まあ、それでもあなたが少しはまともになってくれて嬉しいわ」と微妙に回りくどい言い方で送り出してくれる。
　
　俺は苦笑しつつ「ありがとう。もう昔みたいにはならないから」と返す。

　何よりも、妹フィリアがまっすぐな瞳でこちらを見上げているのがたまらなく可愛い。
　
「お兄さま……がんばってきてくださいね。学園、楽しそうですけど……でも、いろいろ大変ってお父様たちが言っていましたし」
　
「大丈夫だよ、フィリア。困ったことがあったらまた相談する。……それまで留守を頼むな」
　
「はいっ、任せてください！」

　フィリアは小さく握った手に力を込めて笑う。

　その姿に背中を押されるように、俺は使用人たちに見送られながら馬車に乗り込んだ。
　
　これまでの悪役貴族としてのレオンなら「家族なんて鬱陶しい」などと思っていたが、今は素直に感謝できる。

　彼らのおかげで俺はこうして前を向けるようになったのだから。

「それじゃ、御者さん、頼む。学園まで急いでくれ」
　
「かしこまりました、レオン様」

　馬車の車輪が石畳を鳴らし、グランフィード家の門をくぐる。

　いよいよ学園入学式が始まる。
　
　――原作ゲームでは、この学園生活が俺（レオン）の破滅フラグを積み上げる舞台となった。

　しかし今、俺は同じ轍を踏む気はない。
　
　笑顔で見送ってくれた家族のためにも、そして前世の俺の無念を晴らすためにも、堂々と学園でやっていくつもりだ。