悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう

序章

第19話 俺の弱点

ユキの叫び声が耳に届くが、俺はあえて微動だにしない。

　オークは数秒で俺の前に迫る。

　だが、俺はその瞬間を待っていた。

　俺は目の前にいるオークの動きをしっかりと見据え、静かに口を開く。

「オークよ、今俺は機嫌が良い。もし何もせずにここから去るなら、命は取らん。俺も別に、ギルドから討伐の依頼を受けてるわけじゃないからな」

　だが、オークは俺の忠告を無視し、咆哮を上げて斧を俺に振り下ろす。

「グガァァァァ！！！！！」

　その怒号は、まるで俺の言葉に対する答えのようだ。

「それが、お前の答えか――第3級魔法《フェニックス・フレイム》！」

　俺は瞬時に足元から跳躍し、空中で片手を掲げ、そこから溢れ出す炎をオークに向けて解き放つ。

　炎は熱風を伴ってまっすぐに突き進み、巨大なオークの胸に直撃する。

　轟音と共に炎がその巨体を包み込み、すぐにオークの咆哮が苦しみに変わった。

「グェアアアアアアア！？」

　オークは両手で体を叩き、必死に炎を消そうとする。

　だが、俺の《フェニックス・フレイム》はそんな生半可な動きでは消えない。

　逆に、その行動が火勢をさらに煽り、炎はオークの全身を支配していく。

　巨体が燃え上がる様は、まるで炎の鳥が舞い降りたようだ。

　オークの動きがどんどん鈍くなり、ついには膝をつき、もがく力も失っていく。

　そして、ゴウッと大きな炎のうねりを最後に、オークはそのまま倒れ込んだ。

（なんだ、この程度か……見た目だけは恐ろしかったが、実際はそこまででもなかったな）

　俺が肩をすくめると、森の静けさが再び戻る。

　そして、その静寂を破るように、ユキたちが俺の元に駆け寄ってきた。

「い、今の魔法、凄すぎるでしょ！？　何がどうなってるの！？　あんな巨大なオークを一瞬で倒すなんて！」

「こ、こいつは驚いたぜ」

「わ、私も負けられないよ～！」

　ユキとゴウは驚愕した表情をして俺を見ている。
　
　それに対してルンは俺に対抗心を燃やしているのか、俺の周りをグルグルと走り回っている。

「こんなの大したことないさ。それよりも、俺はユキ達の連携の方が驚きだったぞ」

　俺は微笑みながら、ユキ達の戦いぶりを思い返す。

　ユキ達はまだ新しいパーティーなのに、思った以上に連携が取れていた。

「でも、私たちの連携が完璧じゃなかったから、アレンの方にオークが行っちゃったんだよ……」

「ああ、まだまだ俺たちは未完成だ」

「うん、アレンがいなかったら冒険者達を救えなかったよ～」

　そう言ってユキ達はその場で反省会を始め、次の戦いに向けて真剣に対策を練り始める。

　次に向けて改善をしていこうとする姿勢は素晴らしいものだ。

　こうやってパーティーは強くなっていく。

「これからは俺も戦闘に加わるからな、隙は無くなるさ」

「うん！　ま、まあ、アレンの魔法を見てたら、正直パーティーがなくてもオークを倒せそうだったけどね」

「いや、そんなことは……」

　そんな会話をしていると、突然ルンが俺に向かって走り寄り、そのまま勢いよく抱きついてくる。

「負けないからね～！」

「お、おお！？」

　ルンが俺に抱き着いてきたので、俺は仰け反ってしまう。

　急に抱き着かれてしまったので、俺は恥ずかしくて倒れてしまいそうだ。

　何せ前世では、女の子なんかに抱き着かれた事なんてないので、緊張してしまう。
　
　そんな感情を隠しきれず、俺は心臓がドキドキして、顔が熱くなるのを感じる。

「もしかして～恥ずかしいの～？」

　ルンが顔を覗き込んで、からかうように笑っている。

「な、何！？」

　どうやらルンは、俺に女性の耐性が無いことを見抜いてしまったらしい。

　横ではユキとゴウがニヤニヤと俺を見ている。

「私も抱き着いちゃおうかなー！」

「や、やめろユキ！　俺は今、ルンに抱き着かれてて！」

「全く、羨ましいぜアレン！」

「こ、これのどこが羨ましいんだ……！」

　俺は悲鳴を上げながらその場で硬直してしまうが、この状況に少しだけ嬉しい気持ちを抱いていた。

（これが、仲間か）