悪役貴族に転生した俺、前世のスキルが残っているため、勇者よりも強くなってしまう

1章

第50話 世界を作り直すだと？ カイル視点

　クロドと僕の間にある微妙な緊張感が漂っている。

　僕の胸の内に渦巻く憎悪と、クロドの目的が一致しているのは明らかだったが、その裏に潜む思惑は、互いに完全には掴みきれていないようだ。

　クロドはその冷徹な視線で僕を値踏みするかのように見つめる。

　まるで僕がただの駒であり、アレンを殺すための道具であるかのような目つきだ。

　だが、僕にはそんなことどうでもよかった。

　僕の中に燃え盛る復讐心は、理性や疑念を超えて、アレンを殺すという一点に収束している。

「カイル君の『剣聖』スキル、まだ完璧には使いこなせていないようだな？」

　クロドの言葉は、僕の心の奥底にある弱点を抉るかのように響く。

　確かに、僕は未だにこのスキルの全貌を理解しきれていない。

　『剣聖』——それは戦場を支配し、相手の動きを見切り、刃を振るうことを極限まで高める力を持つスキルだ。

　しかし、僕はまだその力の半分も引き出せていない。

「……だから、今の実力では無理だと言ったんだよ」

　僕は吐き出すように言い放った。

　悔しい気持ちと焦りが交じり合い、声が少し震えたのが自分でも分かる。

　それを見て、クロドはさらに満足そうに笑った。

　クロドの笑顔には不気味な温度のなさがあり、まるで僕の内面を透かして見ているかのようだ。

「安心しろ、カイル君。俺はその力を引き出す方法を知っている。だが、それには少しばかり君の協力が必要だがね」

　クロドが言う「協力」という言葉の響きには、何か嫌な感じがした。

　しかし、今はそんな感情を捨て去るべきだ。

　アレンを倒すことができるなら、僕はどんな犠牲を払っても構わない。

　いや、むしろそれ以外のことには興味がなかった。

「何をすればいい？」

　僕はまっすぐクロドを見据えて聞いた。

　自分の内に湧き上がる決意と、絶対に引かない覚悟を目に宿して、彼に尋ねる。

「ふふふ、実に良い目をしているよ。君ならきっと、俺の右腕となり共に戦ってくれるだろう」

　クロドが手を差し出す。

　握手の形をとっているが、その手には冷たい圧力と、一切の温情が感じられなかった。

　だが僕は、それを気にせず彼の手を取った。

　その瞬間、彼の手が冷たく、まるで死んだ人間のような温度であることに気づく。

　けれども、それもすぐに意識から追いやる。

「……それで、クロド殿下の『目的』って何なんだ？」

　手を握りながら問いかける。

　僕が口にする「目的」という言葉には、ただアレンを殺したいという単純な欲望以上の、何か大きな計画があるように感じられた。

　クロドは一瞬僕の顔を見つめた後、ようやく口を開く。

「簡単なことだよ。俺はこの腐った世界を作り直す。それにはあいつ、アレンが邪魔なんだ」

　クロドの言葉に、僕の心がざわめいた。

　腐った世界、という言葉が引っかかる。

　彼の目に映っているものは、僕が見ている世界とは全く違うのかもしれない。

　いや、それはもしかしたら——アレンも同じ視点で見ていたのかもしれない。

「……世界を作り直す、ね」

　僕はその言葉を口に出して反芻する。

　クロドの目には、確かに強い信念が宿っていた。

　それがアレンを殺したいという執念を超え、さらなる目的に向かって突き進む理由となっているのだろう。

　クロドと手を組むことで、僕もその一端に触れることができるのだろうか。

　アレンを倒す、その一点だけで結びついている僕たちの関係。

　しかし、その奥には、お互いにまだ隠された真意があるに違いない。

「僕も力を貸そう」

　僕はクロドに向かって、決意を込めて言った。