異世界での異生活

なにがし

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3.転移

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「あら、母さん。どうしたの?こんな時間に。」

 建物の奥に来客用の受付がある。
そこに肘をつき暇そうにしている女性が、入ってきた客に声をかけた。

「わたしを母と呼ぶのは、やめな。見た目どおり姉と呼んでおくれ。」

 アリアドネは、眉間にしわを寄せて不愉快そう。

「はいはい。で、アリ姉さん、何か御用?冒険者の受付時間は過ぎていますけど。」

 その女性は、青い瞳、銀色の髪を腰まで伸ばし、冒険者組合の制服を着ていた。

「随分素っ気ないねー、シンシア。もう少し愛想よくできないのかい?まぁいい。部屋を頼むよ。」

宿泊を受け付けるために、受付にいたわけだが思わぬ宿泊願いにシンシアは驚いた。

 「アリ姉さん、今日は家に帰らないの?どうして?」

 アリアドネは持っていた荷物を床におろし、カウンターに寄りかかった。
心なしか、立っているのが辛そうに見える。

「じつはエヌコート近くの森で、地竜に襲われてね。突然のことに、不覚をとっちゃってさ。以来、どうも調子が悪くて。」

 シンシアはさらに、驚き立ちあがる。

「アースドラゴンが出たのですか。よく無事でしたね。」

 アリアドネは頭を掻きながら、でも少し得意げだ。

「寝込みを襲われてねー。いきなり食べようとしてきたから、飛んで避けたら避けた先が奴の手の中でさー。そのまま握られて数時間。いやー苦しかった。」

 シンシアの顔が引きつってきた。

「よく‥無事‥でしたね。」
「苦しくて高度な攻撃魔法が使えなくてさー。水球魔法で何とか対応したよ。」

 シンシアの視線が少しずつ遠くを見つめていく。
アリアドネは完全に鼻が伸びていた。

「奴の腹の中、水で満たしてやったらゲロゲロ吐きながら逃げていったよ。あははは。所詮トカゲよ。わたしの知能の方が上だったみたいだな。」

 両手を腰に置き鼻高々に振る舞う。シンシアは頭を抱えた。

「そんな逃げ方できるの、アリ姉さんだけですから。それで、調子はどう悪いのですか。」

 高い鼻を収め、カウンターに両肘を置き、シンシアの耳元まで口を近づけ小声で話す。

「なんかこう、いまいち、キレが悪いというか。なんか変なのよ。」

 何が言いたいのか分からないシンシア。

「はぁ。」

 アリアドネは顔を少し赤くしながら、続ける。

「それに、でた物も変でさー。」

──何をだしたの?

 と思いながらアリアドネに合わせて小声で話す。

「どう変だったのです。」

 さらに顔を赤くし、話そうとしてはやめ、話そうとしてはやめ。
何度か口をパクパクとして、やっと言葉を絞りだす。

「普通は、透明とか黄色じゃない。やばい時は、赤色がでるって聞いたことがあるけど。」

 ああ、小の話しねとシンシアは理解した。

「何色がでたのです?」

 アリアドネの顔は真っ赤になった。

「ちゃいろ。」

(ちゃ、ちゃ、ちゃ、茶色!そんなの聞いたことない!!)

 シンシアはパニックになりながらも平静を装った。

「それで、そのあとはどうですか?薄くなってきた……とか。」

 アリアドネはシンシアから離れ、両手を前にモジモジする。

「でてない。」
 
 シンシアは素早く部屋の鍵を握り、受付カウンターを飛び越しアリアドネの前にでると、背を向け両手を後ろにかがんで見せた。

「何それ?」

 あきれた顔でアリアドネが聞く。

「おんぶです。お部屋までご案内いたします。それともお姫様抱っこにしたほうが、よろしいですか?」

「ばかねー。わたしはここまで歩いてきたのよ。部屋までも歩けるわよ。気づかってくれるなら荷物を持ってきてちょうだい。」

 腕組みをして、あきれるアリアドネ。

「問題、ないのよね。」

 シンシアは、立ち上がると荷物を持ち部屋に案内した。
本来、宿泊には手続きが必要で料金も前払いなのだが、アリアドネの体調を気遣ったシンシアの配慮で省略された。
 宿泊部屋は2階にあり、階段を歩いている間も心配そうに気遣ってくれた。
そうしたシンシアの配慮がアリアドネは嬉しかった。
 
「シンシア、ありがと。」

 シンシアは少し照れていた。

「食事、何か持ってこようか?」
「いい。もう寝るわ。」
「じゃ、お大事に。何かあったら呼んでね。」

シンシアは静かに扉を閉め、部屋を去った。
アリアドネは、すぐに横になり目を閉じた。

──お姫様抱っこ。してもらえば良かったかな?

 しばらくすると部屋の床から笑い声が聞こえてきた。
部屋の下は食堂になっていて、夜は酒場になる。盛り上がってきたのだ。
 アリアドネは、眠れなかった。緊張の糸が切れたせいか体調が悪くなる一方だ。
理由は分からないが、このまま何もしなければ死ぬような気がした。

──わたしは、このまま死ぬのか?いやだ、まだ帰りたくない。お願い、あなた。わたしを助けて。

 酒場は酔っ払いだらけになり盛り上がりがピークを迎えた頃。
意識を失った。
そして、酔っ払い達が帰宅した頃。
右手がベッドから滑り落ちた。


──コン、コン。

 誰かが部屋の扉にノックしている。

「アリ姉さん、おきています?」

──コンコココンコン、コンコン。

 おちゃめな、ノックだがなんかうるさい。

「アリ姉さん、朝食の準備ができていますよ。食べられますか?」
「あ。はーい。今起きました。後で行きますー。」
(コンコンうるさいから思わず返事しちゃったけど、まずかったかな?それにアリ姉さんって誰だ?)
「姉さん、その声どうしたんですか。男みたいですよ。」
(やばい。やっぱり返事したのは、まずかったか。)
「寝起きの声は凄いのですね。目が覚めたなら食堂にきてくださいよ。」

 そう告げると外の女性は部屋を離れて行く。

──トン、トン、トン‥。

階段を下りるような音がした。

「ここどこだ?」

 起き上がりベッドに座り、辺りを見渡す。
覚えのない光景に動揺した。

「これは、夢か?」

 頬をつまんで、ひねってみる。痛くない。
痛くないように、ひねっているので痛くないのは当然である。
やっぱり、夢かと思いながらベッドから起き上がり部屋の中をうろついた。

「いたー!」

 ベッドの足を蹴飛ばしてしまい、小指に痛みが走る。
目が覚め、夢じゃないと理解すると部屋の窓を覗いてみた。

「え?えー??」

 見慣れない、覚えのない、記憶にない光景が広がっていた。
ベッドに座り込み、これまでの記憶を辿った。

──田中さん、このまま出なければ死にますよ。
(そうだ。俺は医者から余命宣告を受けていた。つまり、俺は死んで、この世界にきた?ということか?)

 立ち上がり、部屋にある鏡を覗いてみる。

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