異世界での異生活

なにがし

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24話 姉様に出会う

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「どこですか?」
(もっと下を見て。わたしの体は小さいからね)

 犬のように両手両膝を地面につけ、草花をかき分け探した。小さい体?妖精か?そう思い、空を飛んでいる可能性も視野に入れ、注意深く見渡す。

「どこですー?」
(もっと下)

 腹ばいになり、ほふく前進で探す。

(いない?)
「見当たりません」
(嘘だからね。いるはずないよね)
「ちょっとー。だったらどこにいるのです?」

 ヤスオは、額に血管が浮かび上がらせ、あぐらをかいて座り込む。

(わたしも、よく分からないのよ。多分、ヤスオの頭の中かな?)

 頭の中?この人はなにを言っているのか。変な人だと思ったが、面白いのでとりあえず付き合うことにした。

「マジですか。勝手に俺の頭に、住みつかないでくださいよ」
(ごめんね~。外に出たい気持ちはあるのだけど、わたしの体、死んで埋葬されちゃって、行き場がないのよ~)

──はて?死んで埋葬。

 少し前にその言葉を耳にしたような気がする。先日葬儀をして埋葬したのは、アリアドネ様…。

「まさか、アリアドネ様ですか?えぇぇぇぇぇぇ??」

皆がアリアドネの生存を信じて、どこかにいると思っていた。でもまさか自分の頭の中にいたとは。ヤスオは驚き頭を抱えた。

(ピンポンピンポーン。見事言い当てたヤスオには、アリ姉さんの魔法講座を受ける権限が与えられます。おめでとー、パチパチパチパチ)
「わーい、やったーってそれは本気で嬉しいです」

 “ピンポン”の正解音を異世界にいてどうして知っているのか聞きたいが、そんな事より今までどこにいたのかが気になる。

「今まで、どうしていたのですか?」
(ドウシタも、コウシタも、ずぅっとここにいたわよ)

「俺が、この世界にきた時からですか?」
(そう。ヤスオが私の服着て、シンシアにぶたれて、何のプレイかと思っちゃったわ)

「わー。やめてください。早く忘れたい俺の黒歴史を言わないでください。そうなら、早めに話しかけて下されば良かったのに」

 みんなが心配しているのに、なにも語りかけなかったことに、やや苛立ちを覚えた。

(ずぅっと話しかけていたのだけど、ヤスオには聞こえてなくて。それで、さっきやっと話ができる方法を見つけたのよ。実は私も、驚いているのよ)
「その割には、スムーズに嘘が出てきたようですけど。それで、その方法というのは何だったのです?」
(その前に自己紹介と今のわたしの状況を説明させて。少し長くなるかも)
「はい、聞きましょう」

 なぜだか真剣な表情で正座をして、両手を膝の上に置いてしまうヤスオ。企業の面接でも受けているようだ。

(コホン。私の名前はアリアドネ。この世界での肉体を失い、ヤスオの頭に住みついた神様です。ヤスオとは見たもの、聞いたもの、触ったもの、食べたもの、嗅いだもの五感すべてが私にも伝わってくる感覚共有しています。ただ、私の思い通りに動かせる体の部位はないので、何もできません。当然、私には口がないので話すこともできません。以上)

「え?もう終わりですか」

(じゃあ、もう少し。今までは頭の中でずぅぅと話しかけていたのだけど、伝わらなくて。さっきは、思わず呟いたの。そしたら通じた。つまり今までの私は口がないからって思っていただけだった。今は、口はないけど喋っているの。わかる?)

「えぇぇ、はい。なんとなく。では、俺も喋らなければアリアドネ様と会話できないという事なのかな?」
(そういう事じゃないかな。だって私、ヤスオの考えていること分かんないもん。あと、私のことはアリ姉でいいわ)

「ん?という事は、俺がアリ姉様と話している姿って独り言をブツブツ言っている変な奴になるのでは?」
(そうなのだけど、あなた普段からブツブツ言っているじゃない。変わんないわよ。今朝だって…)
「あー分かりました。そうでした。俺はそういう奴でした」

 両手を振り回し慌ててアリアドネの話を止めた。確かに傍から見ればおかしな奴だ。

(それでヤスオ、薬を作る気ない?)
「先ほどもそう言っていましたが、なぜ薬にこだわるのですか?」
(私が、それで生計を立てていたから。薬を作ってはアントの夢に納品してその収入で生活していたの。冒険者での収入はすべてアントの夢で管理していて、大きな買い物をする時以外は、使ったことないのよね。だからとりあえず薬作れたら、自立できるでしょ)

 今までまったく見えなかった自立への道が、突然開けた。それはとても嬉しいことだが、それ以上に、諦めていた魔法が使えるかもしれないことに口元が緩む。
 だが、まだ使えたわけではないので、頬を叩き気合を入れ直す。

「なるほど。素晴らしいアイデアです。自立への見通しが、見えたかもですね。でもその前に収納魔法を覚えたいです」
(あら、分かっているじゃない。調薬の魔法を覚えるには、まず収納魔法を覚えなきゃならないの)
「へ?それは、調薬魔法の基本が収納魔法という事ですか?」
(そう。なぜだかは聞かないでね。私だって知らないから。まぁ物に対して何かする繋がりかなんかじゃないの)

 そのうち詳しく教えてくれるそうだが、収納魔法は補助属性、補助魔法8位の魔法で使用魔力が3のレベルの低い魔法だ。対して調薬魔法は、同じ補助魔法の5位の魔法で使用魔力は倍の6と中ランクの魔法なのだとか。いきなり上位の魔法が使える事はなく、ランクの低い魔法から順番に覚えないといけない。だから、収納魔法が基本になる。…らしい。

「はぁ。分かりました。では、収納魔法をお願いします」
(その前に)
「はい?」
(お腹空かない?)
「確かに」

 ヤスオは、遅い昼食を取ることにした。荷物袋から前の日に買ったバターロールパンを出して頬張った。

(ちょっとぉ。朝と同じじゃない。なにか他に、ないのぉ?)
「朝はバターをぬった食パンです。同じではありません」
(両方ともバター味じゃない。もっといろんな味を、楽しませろー)

 ヤスオは口にものが入れば話すことはできないが、アリアドネは話すことができた。食べ始めてから、終わるまで延々と文句を言われイライラがたまった。

(さて、まず手の平に意識を集中させる。そうすれば、手の平に魔力が集まってくるので、そこで呪文を唱えれば魔法が発動する。以上よ)

昼食を済ましたらアリアドネの授業が始まった。だが、昼のバターロールパン事件で、ヤスオの気分は最悪だった。

「あー、出た、出た。天才肌の人の教え方だ。それで、できれば苦労しませんよ。舐めないで欲しい。俺は、生活魔法すらできなかった男ですよ」

 情けないほどの自虐である。
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