異世界での異生活

なにがし

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71.過去

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「はい。父親から、捜索依頼がでています。名はマーチャント。サンセット通りのロスリコス商会です。」

「ほう、この街で指折りの商会ではないか。ヤスオ、報酬が期待できるぞ。」

 シンシアがお茶を運んできた。マリナには、くし形に切ったリンゴを渡した。

「そんなことより、さらわれた場所が問題なのです。その商会の近くでさらわれたのです。」
「ハハハ。まさか、小鬼が街に入り、この子をさらったと?」
「さらったのは小鬼ではありません。」

 ヤスオはメンガンダルに事の重大さを分かって欲しくて、涙目になりながらも睨みつけた。3人はヤスオが、何が言いたいか分からない。
 メンガンダルには、何故ヤスオがこんな目で自分を見るのか分からない。小鬼から救い出したのに、さらったのは小鬼でない。だったら、誰が…誰?そのヤスオの視線の意図が、メンガンダルに伝った。

「まさか、さらったのは、人なのか?」
「酒樽に入れられ、酒として馬車で、街の外に運ばれたそうです。」
「じゃぁ、マリナが、ぶどう酒って、そういう事。」

 シンシアが、立ち上がり叫んだ。声からも表情からもシンシアの怒りが伝わってくる。イーシアも自身の手の平を殴り、怒りをあらわにした。

「待て、ヤスオ。それを門番が見逃すはずがないだろう。」
「はい。誘拐に門番が加担する事はないでしょう。ですが、袖の下で荷物の確認を省略する人はいませんか?」
「そ、それは、ないとは言い切れぬ。」

 メンガンダルは両拳を握りしめ、顔を真っ赤にして、悔しそうにした。シンシアとイーシアも、怒りの矛先が門番にも向いた。

「その馬車は、角を生やした牛のような奴に襲われ、マリナは逃げ隠れた。そこを、小鬼に見つかり捕まった。他にも4人子供がいたそうですが、その魔物からは逃げきれたようです。」
「それが、事のあらましね。」

 シンシアとイーシアがテーブルを叩き叫んだ。

『組合長。』
「わかった。急ぎ兄上に相談し、人さらい共を根こそぎ捕らえる。それと、馬車を襲った魔物も気になる。」
(おそらく、ミノタウロスね。)
「アリ姉様は、ミノタウロスではないかと言っていますが。」
「わたしもそう思う。だとしたら、この街、初めての事例になる。」

 メンガンダルが言うには、この大陸には、マウンペアと呼ばれる地域があり、そこは悪魔族の支配地域だ。その地域に隣接している、大シン帝国には常に、魔物が侵入し暴れていて、特にミノタウロスには手を焼いている。それが、大シン帝国を蹂躙し、東の国境を越え、エイシア王国に侵入し、国境の街セロースを抜けて、レスボンに侵入したとなれば大事件だ。

「それで、馬車に乗っていた人さらいはどうした?」
「2人いたそうですが、馬と一緒に喰われたそうです。」
「そう。それに関しては、ミノ野郎によくやったと褒めてやりたいわ。」
「ちょっとイーシア。不謹慎よ。」
「だが、もし子供の1人でも喰ったら、ぜってぇ許さねぇ。」
(ふふ、相変わらずね。この子。)

 イーシアの実家はスペランザ教会の近所にあり、小さい商店を営んでいる。兄がいて、店は兄が手伝っていたので、子供の頃はよく教会に遊びに来ていた。シンシアともそこで知り合い、共に学び、訓練し、遊び、喧嘩した。大人になると、店は兄が継いだので、自身は家を出て、冒険者になり、シンシアともう1人と共に3人でパーティーを組んだ。憧れの癒しの魔女様のように、子供達を助ける冒険者になりたくて、日々精進した。だが、自分の勝手な行動で、仲間が重症を負った。命に別状はなかったが、冒険者は引退した。落ち込む2人にアリアドネは、メンガンダルを脅して受付嬢の仕事を斡旋した。
アリアドネは淡々とそう話してくれた。

「わたしは、今すぐ兄上に面会し、このことを伝える。ヤスオはその子を家まで送ってやってくれ。」

 メンガンダルはすぐに出かける準備をした。イーシアは、話が終わったと思いヤスオの今回の活躍を褒めた。

「まったくこの短期間で3人助け出すなんて、ほんと、すごいよ。」
「それが。3人…じゃぁ…ないんだ。」

 メンガンダルとイーシアは、目を見開き、固まる。ヤスオが伝えにくそうにする理由をシンシアは理解した。そして、ヤスオからマリナを奪い、抱き上げた。

「難しい話で疲れたよね。さっきの部屋で、休もうか。」
「うん。」

 マリナを連れて部屋を出ていく。同時にイーシアがテーブルの上を片付け始める。ヤスオもイーシアの意図を察し、手伝った。
 テーブルの上の物が片付けられると、女の子が出現する。

「この子をご存じですか?」
「いや、わたしは、知らん。イーシアはどうだ?」
「あたしも、知らない。この辺じゃ見かけない子だよ。依頼書に似た特徴の子がいないか見てくる。」

 イーシアは急ぎ部屋を出ていく。

「ヤスオ、この子は組合が預かり責任をもって、ご両親に返却しよう。何もかも、やらしたのじゃ、我々のメンツが立たんからな。それでいいか。」
「はい。お願いします。」
「では、すぐに準備をさせるので、終わり次第、呼びに来させる。それまで、その子を収納して、マリナと待っていてくれないか。」
「わかりました。」

 メンガンダルは、ヤスオを置いて部屋を出る。その足で、事務所に寄りアガサに指示を出すとそのまま外出した。ヤスオは女の子を収納すると、部屋を出て宿泊部屋に戻った。シンシアは、ヤスオの姿を見ると、名残り惜しそうに部屋を出て、仕事に戻った。


──コンコン。
「はい。」

 扉が開き、女性が入ってきた。午前の受付に座っていた女性だ。

「失礼します。初めまして。わたしは、クミと言います。準備ができましたので、ご案内いたします。」

 ヤスオとマリナはクミの案内で部屋を出て階段を降りる。階段を降りるとそこにはアガサが控えており、そこからはアガサが案内をするという。クミはマリナを事務所へ連れて行き、あやしていた。アガサは一旦、組合を出ると、横にある訓練場を通り組合の裏口へ案内する。

「あのぅ、アガサさん。ここには受付嬢は何人いるのですか?」
「6人ですが。」
「ということは、さっきのクミさんでコンプリートしたのか。」

 裏口と言っても、正面の扉よりはるかに大きく、しかも観音開きになっていた。
その扉の片方をアガサが開ける。中に入ると、そこは解体場で奥の方でセセ達数人が解体作業をしていた。入ってすぐに、進行を妨げるようテーブルが置かれていた。白く大きめのテーブルクロスが敷かれ、その上に棺が置かれていた。
棺の向こうには、アガサ、シンシア、イーシア、ユキナの4人の受付嬢が並んで立っていた。
ヤスオは棺に近づき、女の子を入れる。

「こ、これ。寝ているだけじゃぁ…。」
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