異世界での異生活

なにがし

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78.特命

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 途中拾っておいた薪を出し、火を入れた。

 焚火が出来上がると、湖に向かう。少し浸かると、収納していたものを出し、魔法を使い湖水で清めた。清らかな状態に戻ると、再生魔法をかける。

「こんな年寄りにまで。」

 老婆の姿をした遺体に、ダナエからもらった衣服を魔法で着せ、収納した。もちろん荷札は外してだ。その後、自分自身を清め、衣服が乾くまで食事を摂るなど、時間を潰した。
 洞窟に戻ったのは、深夜になってからだ。ヤスオは眠い目をこすりながら、何とかたどり着いていた。ランタンの灯はついたままなので、中の様子がよく見えた。子供達はすでに寝ていたが、横になり子供達の布団係を務めていたサーチェが起きていた。

「まだ、起きていたのか?」
「いや、ヤスオっちの気配で、目が覚めたさぁね。」
「起こしたか。すまん。」
「気にするなさぁ。ところで食べ物は、ないかさぁ?」
「……。」

 ヤスオは、サーチェに残ったパンすべてを渡した。サーチェは横になったまま、子供達を起こさないよう器用に食べていた。ヤスオはそんなサーチェを横目に、眠りについた。実に2日ぶりの睡眠だったので、よく眠れた。

 翌朝、陽が出始めた頃、ヤスオは子供達に叩き起こされた。もう少し寝たかったが、子供達の早く帰りたい気持ちを察し、起きることにする。朝食を済ますと、いよいよサーチェとの別れ。子供達は、4日間世話になった恩人に何度も抱きつき、別れを惜しんだ。そんな子供達に、サーチェは感謝の気持ちがあるのなら、自分に会ったことは、誰にも言わず一日も早く忘れて欲しいと願う。
 この言葉の意味を子供達は理解し、約束した。子供達は、この4日間を誰にも言わず、墓まで持って行くことを、神に誓った。

「サーチェ、本当に世話になった。子供達を救ってくれて、ありがとう。」
「礼はいらないさぁ。でも、心残りは、1人助けられなかった事さぁ。女の子みたいだったが、残念さぁ。」
「それなら、俺が助け出している。今は、街で悠々としているさ。」
「本当かさぁ。よかった、本当によかったさぁね。」

 サーチェの優しい性格に和んだ。何とか堂々とした生活をできるようになれば、と心から思った。こうして、分かれを惜しみながら、子供達と洞窟を後にした。
 
 早く家に帰してやりたいが、子供達の足に合わせた行軍なので、遅いうえに何度も休憩を挟む。さらに、探知魔法をかけて、何とも遭遇しないようにしたので再三、迂回や待機をさせられ、森を抜けるのに時間がかかった。やっと森を抜けた時の空は、すでに赤みかかっており街道を歩いていると日が暮れてしまった。暗闇の中の進軍に子供達が怯えないか、心配した。だが、その心配をよそに街の方が、いつもより明るくて目標が、はっきり分かり子供達は怯えていなかった。

 その日の南門は、普段とは違っていた。たくさんの光に照らされ輝いていて、まだ、程遠い場所にいたヤスオ達にも、その形がはっきりと見えた。近づくにつれ、光の正体が松明だと分かる。南門には多くの衛兵がいて、そのすべての衛兵が松明を持っていた。

──何か、あったのだろうか?

 さらに、門に近づくと衛兵の一人がヤスオ達に気付く。

「止まれ。何者だ?」
「冒険者のヤスオと言います。遅くなりましたが戻りました。」
「ヤスオだと。そのような冒険者は、記憶しておらんが。」

 衛兵の仕事に門番が含まれる。ゆえに、衛兵達は大抵の冒険者の名前を記憶している。だが、ヤスオは例外のようだ。

──またかよ。なぜ、名前を憶えてくれない。

「G級ヤスオですよ。」
「なに?」

 それを聞くと、他の衛兵達がヤスオ達に近づき取り囲んだ。子供達はすっかり怯え、皆、ヤスオにしがみついた。正面に立った衛兵が道を開くと、奥から一人の女性が近づいてくる。

「4日ぶりだな、G級ヤスオ殿。わたしは衛兵団の団長を務める、チャーフィー・ダ・コメットと言う。して、その子供達は何だ?」

 4日ぶり?4日前と言えば領主にあって、リンチに遭った日。

──そうか、覚えはないが、領主に会った時、横に並んでいた臣下の一人か。

「森で潜んでいた、子供達です。保護してきました。」

 その言葉に衛兵達がどよめく。チャーフィーは下を向き、頭の中を整理していた。

「ではその子達は、ミノタウロスに襲われ、逃げた子達かな?」

──4人全員、保護したのか。

 チャーフィーは、短期での4人保護は不可能と考えていて、全員の生還は無理だと思っていた。定期的に捜索隊を派遣して、全員の帰還は早くて5,6年かかると思っていたのだ。そのため、早くこの問題を解決するには、今回で何人保護できるかが、勝負だと考えていた。

「そうですけど。」
『ウォォォォォォ。』

 衛兵達は、大声を上げ、持っている松明を振りかざし喜んだ。中には、子供の様に飛び跳ね喜ぶ者や、松明をかざしながら、抱き合う者もいた。そして、1人が城壁の上に昇り、狼煙を上げていた。
わずか4日で6人も救出した。この想定外の偉業にチャーフィーは感動を通り越して、呆れる事しかできなかった。

「それで、この騒ぎは、何なのです。」
「そなたの、せいじゃ。」

 昨日、チャーフィーはマリナの元へ自ら赴き、聞き取りを行った。その場には両親も同席し、両親は、娘を排泄物まみれにしたのが、ゴブリンだと初めて知る。その後チャーフィーは、冒険者組合に立ち寄り、捜索依頼が何件、残っているかなど、調査した。その時、ヤスオがもう一人救い出していたことを知る。チャーフィーはそれらの報告書をその日のうちに作成し提出した。

 そして今朝、チャーフィーとマチルダが領主に呼ばれ、謁見した。まず、領主は子供達をおめおめ街の外に出してしまった失態を叱責した。さらに、街の中にいる人さらいの捜査が滞っていることに、激怒した。そして、チャーフィーに近日中に残り4人の子供を救い出すよう特別命令を出した。次に、領主はマチルダにヤスオが面会を断った理由について問う。マチルダはあの日、ヤスオの態度に腹を立て、打ちのめしたことを白状した。領主は自身が招いた客人に対しての無礼に激昂した。

 そして、ヤスオが面会に応じるよう説得することと、すぐに討伐隊を編成して、ミノタウロスを打ち取る特別命令を出した。
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