異世界での異生活

なにがし

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116話 減刑されるのを祈る

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 キャシーはこの男の往生際の悪さに呆れた。だが、この行為はキャシーにとって都合がよかった。このまま気の毒な被害者として周りに同情され、すべての罪をこの男に擦り付けようと考えていた。

「二人共、援護します」

 新たに二人の男が部屋に来て、キャシーを焦らせた。でも、ナイフが喉にある以上どうにもできない。恥ずかしいが耐えるしかないと覚悟した。しかし、片方の男を見た瞬間、冷静でいられなくなる。

──G級ヤスオォォ。お前かぁぁぁ。

 この男が余計な事さえしなければ、今頃はきたるべき優雅な日々に期待し、胸躍らせ幸せな時間を過ごしていた。

──こいつだ。こいつがすべてをダメにした。

 キャシーはヤスオを殺意に満ちた目で凝視した。そんなキャシーとは裏腹にヤスオは、鼻の下を限界まで伸ばし、だらしなく半開きの口からは、キラキラと光るものが流れ落ち、下から上へ舐めるような視線で凝視してきた。
 そんなヤスオの視線に、キャシーの殺意は吹き飛び、今の自分の姿を思い浮かべた。

──い、嫌だ。こいつだけは、こいつだけには、肌を晒したくない。ほんの少しでも見られたくない。いやだ、いやだ、いやだ……ブチッ。

 キャシーの中で何かが切れた。激しい動悸が起こり、死の恐怖を上回る羞恥心が襲い、落ち着いてはいられなくなった。

「いっやぁぁぁぁぁ。身体がけがれるぅぅ。何か着させてぇぇぇぇ」

 その後は覚えていなかった。気がつけばベッドの布団に潜り込み、服を着ていた。その後、衛兵団に連れて行かれ尋問を受ける。色々言い訳を考えていたが、ヤスオに肌を晒したショックから立ち直れず、どうでもよくなっていた。

話していて、ムカついたのか、チャーフィーは眉間にシワを寄せていた。

「…」「…」

 マークとマチルダは、口を金魚のようにパクパクしている。被害者だと思っていたキャシーが、実は主犯だった。驚いて言葉を失っていた。

「それで、レン。レンはどうした?」
「それに、ついては頭を抱えている」

 いつまでも、帰って来ない母親を家で待ち続けるレンを見かねた衛兵が、食べ物を買い付け家の前に置き、扉にノックをしてその場を去る。いわゆるピンポンダッシュを行った。扉を開けたレンは、母親からの差し入れだと思い込み、美味しそうに食べていた。この衛兵の行動は独断によるもので、命令違反にあたる。処罰しなければならないのだが、チャーフィー個人的には、よくやったと褒めたい。何とかできないかと考えてはいるが、落としどころが見つからず、処罰できずにいた。

 夕方頃には、捕縛した女がレンの母親キャシーと分かり、急ぎ使いを出しレンを保護して、とりあえずスペランザ教会の孤児院に預けた。

「それでは、商会を見張ったもう一人の男と、老婆の誘拐に関与した男、それに人さらいの生き残りは、どうしたのですか?」

 マークとマチルダは、まだ頭の整理ができず、ただヤスオの質問に、うなずくしかできなかった。チャーフィーは、畳みかけるヤスオの質問に、たじろいでいた。

「ヤスオ殿。落ち着いてくだされ。ちゃんと昨日のうちに対応していますから」

 キャシーに雇われた男は、オーデフラウ誘拐に関与し、西の森に放置するのを手伝った。そのままキャシーに雇われ続け、エンベデ商会へ冒険者と偽って専属になっていた。その後、マリナが戻った事を聞くと、見張る必要がなくなったので、その日のうちに専属冒険者を辞めた。ゴロツキに戻った男は、酒場で姫団長2人をトシマと言ってしまい、股間を潰されそのまま捕縛される。その男は、姫団長のおかげで何かに目覚めたようで、取り調べを担当した衛兵を口説き誘惑し、衛兵達を震撼させていた。

 次に、人さらい一味の男だが、キャシーに状況を伝えたのち情報料を受け取り、次の日にはエヌコートに旅立ったので、行方が分からない。それにより、エヌコートの人身売買組織への、捜査も滞っていた。ただ、人身売買組織の一員がいなくなったので、しばらくレスボンでの人身売買は行われないだろう。あとは、エヌコートの衛兵団に連絡し、捜査をしてもらうしかないのだが、期待できない。エヌコートでは、人身売買は違法ではないからだ。

「うおーい、うおい、うおい、うおい」

 突然、マークが泣き始め、3人は何事かと驚いていた。マークは顔を覆う事なく、子供のように大粒の涙をこぼす。おっさんのクシャクシャの顔を見せつけられ、女性陣は悪寒が走り、何とも言えない表情をした。

「衛士長、何事か?」

 たまらず、マチルダが涙の理由を聞いた。ヤスオは手拭いを持ってくるとマークに差し出した。

──ブゥゥゥゥゥ。

 涙を拭い、鼻をかむ。マークは、お決まりをやり遂げ落ち着くと、さらにそれを返却しようとした。これにはヤスオも対応に困ったが、人差し指と親指でつまんで受け取り、マークに悟られぬよう部屋の隅にある箱にそうっと入れた。女性陣の哀れんだ視線を浴びながら、手を洗う。何度も、何度も。

「それで、マルシャンはどうなるのだ?聞けば、我が子を奪われ言いなりになって罪を犯した。捕まれば我が子のために命を投げ出そうとした。それなのにその子は妻と愛人の子で、我が子ではなかったのであろう。さらに妻と愛人によって母まで殺され、気の毒過ぎる」
「それかぁ。確かに気の毒だ。私なら、キャシーとクランジャンを斬り刻んでいる。だが、4人の誘拐は重罪だ。何とか酌量の余地はないかと検討しているのだが、なかなか。私個人が減刑を進言しても難しいだろう」
「ならば、わしも助言いたそう。同じ男として、悔しい気持ちはよく分かるからの」
「私は女だから我が子が他人という経験は、ないかも知れん。だが、気の毒なのは分かる。というかひど過ぎる。だから、私も助言しよう。3人で罪を軽くしてもらおう」
「異論はないけど、マチルダ、我が子の前に、相手がみつかるの?」
「チャーフィー、それは、そなたも同じであろう」
「私には、抱き締め合った殿方がおりますから」
「あれは、か、し、つ、だ。勘違いしていると、後で恥をかくぞ」
「少なくとも嫌いな相手に抱きつく事はない。抱きつかれた事もない人は不安だろうな」
「ぐぬぬぬぬぬぬ」
「2人共、よさぬか。そろそろ失礼しよう。これ以上はお邪魔のようだ」
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