孤独を癒して

星屑

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第1章 出会い

4.結生の過去とこれから  *翼視点

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「それじゃあ、質問していくぞ」

「はい」

「まずは、1日何食食べている?」

「えっと…知っていると思いますけど、中学の時に両親が死んで、そのあとの中学生活は三食食べていたかな?高校はほとんど二食だったと思います。たまに一食だったけど」

「理由を聞いてもいいか?」



やはり結生は三食しっかり食べられていなかったようだ。

今後は出来る限り俺が改善していきたい。



「料理は…苦手ではないからできるんですけど、色々忙しかったり、やることも多くて…、食べるところまで気力がわきませんでした…」



そう言ってから、結生の体へ回している俺の腕をギュッと抱き抱えてからまた話し始めた。



「この学校に転校してきた1番の理由が、高1の秋頃にあった合同授業の時に、アルファ3人組に発情促進剤を飲み物に入れられたことが原因…です」



思わずギュッと腕に力が入ってしまった。

少しでも安心して話せるように、ゆっくり優しく結生の頭を撫でる。

安心してくれたのか、ふっと結生が体の力を抜いたのが分かった。



「幸い、すぐ気づいて保健室に行ったから大事にはなりませんでしたけど、それがトラウマで食べることが怖くなりました。
自分が料理したものなら食べられますが、外食とか、人が作ったもの、何が入ってるのか分からないものは、食べたり飲んだりできません…」



そこまで話して、結生が俯く。

当時のことを思い出してしまったのかもしれない。

結生の気を逸らすために、俺は結生の体の向きをクルッと変えて、お互いに向き合う形にする。

結生は突然のことに驚いているが、それに構わずギュッと抱きしめる。

優しく頭を撫でて、少しでも落ち着くようにと背を撫でる。



「ああー、それで点滴が嫌なのか。起きたら勝手に点滴されてるし、知らないものがどんどん体の中に入っていたら、そりゃ怖いよな。知らなかったとはいえ、ごめんな」

「いえ。翼がいてくれたのでパニックを起こさずにすみました」



結生はギュッと俺に抱きつきながらも、大丈夫だと言ってくれる。



「こりゃ、三食自炊だな。この先いつ他人の料理が食べられるようになるかも分からないしな。
うーん、もしかして…他人に触られるのも苦手か?できるだけ人に接触したくないと思ってる?」

「はい。あまり他人に触られたくありません」



えっ。

それじゃあ俺があんまり触るのも良くないか。

できれば四六時中ずっと触っていたいけど、結生に嫌われたくないし、無理させたくもない。

そうっと頭と背中を撫でていた手を離すと、不満そうな顔をしながら結生が見上げてきた。



「なんで辞めちゃうの?」

「え?だって結生はあまり他人に触られたくないんでしょう?」

「………は別」

「え?」

「翼は別!」



不覚にもキュンとしてしまった。 
俺は別ってなんだ?

可愛い過ぎるだろう。
俺には触ることを許してくれるなんて。



「ふふ、ありがとう。嬉しいよ。俺には許してくれるなんて」



蕩けるような笑みを浮かべながら結生にそういうと、カァーッと結生の顔が真っ赤になっていく。

真っ赤になった顔を見られたくないのか俯いているが、それでも律儀にコクンと頷いている。

恥ずかしくなってしまったようで、額をグリグリと俺の胸元に押し付けている。

耳が真っ赤で分かりやすい。

本当に可愛い。



「甘いなぁー。そろそろいいか?」

「もう!蒼馬、可哀想でしょう。もう少し空気を読んであげて!」

「ハハッ、わりぃ。でも進まないから続けるぞ?
で、本来なら他人に触られたくないのに、翼になら触られるのは平気ってことだよな。それなら、翼が料理したものは食べられるんじゃないか?
少しずつ試してみるといいぞ。
翼なら栄養バランスとかも考えて作れるだろうし」

「そう……ですね。俺も翼なら大丈夫だと思います。翼の料理、食べてみたいな」



最後は俺を見上げながら言うので、自然と上目遣いになる。

上目遣いを自然にやってて本当に可愛い。

天使か、天使なのか。



「結生のためならいくらでも作るよ」



嬉しそうに結生がはにかむので、自然と頭を撫で撫でしてしまう。



「あー、それと、睡眠は取れているか?見たところ、あまり眠れていないように見える。
一度に多大なストレスを抱えたから、その影響で不眠症になったりしたんじゃないか?」

「……はい。あまり眠れてないです。
だから…翼と会えて安心したんだと思います。すぐに寝てしまったので」

「ふふっ。良い匂いのフェロモンがするから、安心して眠くなっちゃったんだね」

「ふふ、はい。翼の側にいると心地が良くて、微睡んでしまいます……」

「あー、分かる。僕も蒼馬の側にいるとすっごい安心するから。
疲れている時とかフェロモンの匂いが安心して、眠りやすいんだよね」



ふふっ。と慎が結生に同意する。

確かに結生のフェロモンの匂いは安心する。



「あ!あと、すまない。この話は繊細な話になっちまうんだが……。
できれば、これから如月の主治医にもなるから、把握しておきたい」

「はい」

「発情期はきたか?」

「……っ!」

「本当に答えたくなかったら答えなくていい。ただ…話してもいいと思ったなら、できれば話して欲しい」



結生は少し考え込み、少しして……俺の瞳を意志のこもった目で見つめてきた。



「はい……まだ…一度もきてないんです」



このことを話すのは勇気のいることだっただろう。

伝えてくれてありがとう、という気持ちを込めて、ギュッと結生を抱きしめる。

ほとんどのオメガは、13歳から16歳の間に初めての発情期がくることが多い。

だが、もちろんそれには個人差があるので、もう少しあとにくる人もいないわけではない。

結生は、自分はまだきてないということに、少しコンプレックスを抱いているのかもしれない。

というよりも、不安なのかもしれない。

このまま発情期がこなかったら、自分は出来損ないのオメガなのではないか、と。



「如月くん、そんなに不安がらなくて大丈夫だよ。最近分かったことなんだけどね、オメガはランクが高ければ高いほど、発情期が訪れるのが少し遅いんだ」

「え?」

「理由としては、ランクが高いアルファは総じて独占欲が強い。
高ランクのオメガの運命は高ランクだから、番になるオメガの強烈なフェロモンを他の雄に嗅がせたくないっていうただの独占欲かな?」

「そんなことが…」

「うん、まぁそれは一説で、本当は高ランクのオメガの初めての発情期の時期が正常で、ランクが低いオメガの方が繁殖本能が働いて早まっているんじゃないか、とも言われているよ」

「そんな話初めて聞いた」

「まぁ、一般には知られていないことかもしれないね。
Sランクの如月くんは、そろそろくるんじゃないかな?運命に出会って精神的に落ち着くと思うし、体調も整えられていくと思うから、心と体が整った時に、初めての発情期がくると思うよ。
僕も蒼馬と出会ったあとに発情期がきたからね。
だから、そんなに不安そうにしなくて大丈夫だよ」

「ありがとうございます……」



慎の話を聞いて安心したのか、結生はホッとした顔をしている。



「他にも不安に思ってることとか、聞きたいことがあったら、僕達に聞いてね?
より正確に答えることが出来ると思うから」

「はい、そうします」

「それじゃあ、今日はこんなとこか。あ、番寮に移動することは事務の方に伝えといてやるよ。このまま事務の方に行って、書類を全部書いちまえ。そうすれば、今日から一緒に住めるぞ」

「ありがとう、そうする」

「ありがとうございます」



そうして結生が寝ていたベッドを出ると、ソファのところに座って待っていた4人が来る。



「はじめまして!僕の名前は神楽 椿だよ!こっちは僕の運命で番の天羽 渚!よろしくね!」

「よろしくな!」

「俺の名前は神鷹 陽だ。こっちは俺の運命で番の橘 樹。よろしく」

「よろしくお願いします」

「はじめまして。如月 結生です。よろしくお願いします」



一通り自己紹介は終わったので、俺らのこのあとの動きを伝える。



「俺らはこれから事務の方に行く。番寮の使用の申請とか番の申請をしてくる。お前らはどうするんだ?」

「僕達は…どうしよっか?別に授業に出なくても良いしねー」

「え?授業に出なくても大丈夫なの?」

「ああ、学年で成績上位10名は授業の出席が免除されるんだよ。もちろん出てもいいんだけど…出なくても問題はないんだ。その間に好きなことをしたり、自分で勉強したりかな」

「そうなんだ…知らなかったな」

「結生は免除だよ?」

「え?」

「結生くん、転入試験で満点だよね?あの試験結構難しいからねー。成績上位者に該当するから免除だよ。担任も言っていたし。次のテストの時に上位者の順位が変わるだろうねー」

「中等部の頃から上位10名は順位が変わってないからな。面白いことになりそうだ」

「陽は性格が悪いなー。ふふっ、まぁ気持ちはわかるけど」

「?」



結生は意味がわからないと思うので、教えてあげる。

注意しておいたほうがいいだろうし。



「結生、今までの成績上位者は、俺、陽、椿、樹、渚、ベータの男、アルファの女、オメガの女、ベータの女、オメガの女だったんだけど、10位のオメガの女がうるさくて…。
俺らはあまり関わらないようにしているんだけど、向こうからしつこく来るんだよ。
成績が上位だからって有頂天になっているのか、それを笠に着て傲慢になっているんだよね。結生も気をつけておいてね」 

「あの子、僕も嫌いだよー。同じオメガだけど、仲間意識が全然芽生えないもん。第一印象から悪かったよねー」

「僕も、あの人は苦手だよ。同じオメガだから助けてとか言って、自分の仕事を押し付けようとしてくるんだよね。
他の人にも似たようなことをしているみたいだし、クラス内であの人のことを友達だと思っている人はいないよ」

「樹が言うなら絶対だよねー!いいとこのお嬢さんだか知らないけど、学園では成績が一番だからね。僕たちに絡もうとせずに、大人しくしてればいいのに。
結生くんも絡まれたら僕達に言ってね?仕返しするから!」

「ありがとう。でも俺もそれなりに対処できると思うし……。でも気をつけておくね」

「まぁ、基本俺と一緒にいるから大丈夫だと思うけど、俺がいない時は椿とかと一緒にいてね?」

「まっかせてー!!」

「うん、ありがとう椿くん。これからよろしくね」



俺の友人が結生の友達になれそうで良かった。

知り合いがいない場所では不安だろうし、俺に直接言いずらいことを相談できる友人がいれば俺も安心できる。

できるだけ結生には抱え込んでほしくない。







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