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16、卒業パーティー(3)

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「くっはー!」

 ビバレッジカウンターで甘めのカクテル(ノンアルコール)を呷って、私は気分爽快だ。

「見た見た? 二人の顔! 屍鬼グールにでも遭ったみたいに怯えちゃって!」

 私は表面上はしとやかに、でもフィルアートにだけ聴こえる声で大はしゃぎする。猫かぶり歴が長いから、こういう擬態は得意なんだから。

 ……事の発端は数日前、フィルアートとのデートから帰ってきた直後のこと。

 部屋に戻った私は、ジルドからの手紙を見つけた。
 その内容は……驚愕のものだった。
 時節の挨拶から始まった手紙には、殺人未遂で逮捕されたエラへの被害届を取り下げて欲しいという文言が綴られていた。
 この国では、犯罪のほとんどが申告罪だ。世間を揺るがす大罪は別だが、基本的に被害者が訴えない限り加害者は無罪放免になる。だから貴族の犯罪は金に明かして示談になるケースが多い。
 つまり、今回は私が事件にしなければ、エラに犯歴は残らないってわけだ。
 ……まあ、私も無傷だったし、同い年の娘さんがいつまでも投獄されているのは可哀想でもある。でも、相手が私じゃなかったら、殺人未遂でなく殺人になった可能性もあるし、簡単に赦すのも良くないんじゃないかな……。なんて思いながら読み進めていくと。
 実は既に、親が大金を積んでエラ嬢は釈放されていると書いてあった。更に、私が被害届を取り下げないのなら、カプリース男爵家に圧力をかけるとも。
 そして最後に、

『エラは僕を想って小さな過ちを犯してしまった。僕のためにそこまでしてくれるエラに、僕は愛をもって応えたい。僕はエラと結婚して、一生彼女を守るよ。エレノア、君は強いから一人でも平気だよね。僕達は真実の愛のために二人で障害を乗り越えてみせるよ!』

 ……と結んであった。
 へえ……。私って、二人の愛を盛り上げるための小道具障害だったんすか……。

 …………ぷちっ。

 理性の糸が切れた私は、兄達にめいっぱい愚痴ろうと居間に飛び込んだ。そしたら、そこにタイミングよくフィルアートがいて、思わず頼んでしまったの。

『騎士団に入るから、私のパートナーとして卒業パーティーに出て!』

 って。
 ……我ながら、恥ずかしい取引を持ちかけたものだ。でも……。
 ちらりと横目で見ると、バーカウンターにしゃもたれ、ウイスキーグラスを傾ける王子様は、ため息が出るほどカッコイイ。
 周りの令嬢達も、声をかけたくってうずうずしているのが見て取れる。
 突き刺さる嫉妬と羨望の眼差し! 鳥肌が立つほどの優越感! 
 私の人選に間違いはなかったね。
 フィルアートだって私の体目当て(語弊)なんだから、こっちも利用するまでよ。
 でも、社交界嫌いって噂だったのに、ここまで完璧な『王子様』に作り込んできてくれたのは驚いたな。しかも、お母様の形見だというネックレスまで貸してくれて。……ちょっと罪悪感が疼くぞ。
 私の視線に気づいたのか、フィルアートはグラスをカウンターに置いて手を伸ばしてくる。

「踊ろう、エレノア」

 ……これは無料オプションかしら?

「ええ、喜んで」

 私は令嬢らしく微笑んで、彼の手を取った。
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