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44、ただいま入院中(2)
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ミカは私の横たわるベッドの仕切りカーテンをシャッと閉めてから、「どうぞ」と声を掛けた。
「エレノアの様子はどうだ?」
ドアの開く音と、聞き知った声。フィルアートだ。
「順調よ。さっき目を覚ましたわ」
軍医が王族に敬語を使ってない。二人は親しいのかな?
「そうか。会えるか?」
「まだダメよ。背中が生肉むき出しの状態だから」
ひぃっ。
ミカの言葉に、自分の背中が見えなくてホント良かったと安心したのも束の間。
フィルアートは思案するように二秒ほど沈黙し、
「俺は気にしないぞ?」
「しなさい!」
してよ!
ミカの肉声と、私の心の叫びが同時にツッコんだ。
今の私は上半身裸な上、皮膚すら纏ってないんだからね!
この王子様、ほんっとデリカシーがない。
「もう、何度来てもそうそう容態に変化はないわよ。明日には退院させるから、今日は大人しく自分の仕事をしてなさい」
何度も来てたのか。
「……わかった」
軍医の苦言に、落胆したフィルアートの声が同意する。
「では、これだけ見舞いに」
私は首を伸ばして、カーテンの隙間から外を覗く。ようやく見えたのは、フィルアートの手にある小さな紫色の花束。
あ、可愛い。
と思ったら、
「魔法菜園でマンドレイクの花が咲いていたので」
えっ! マンドレイクって、あの叫ぶ不気味な人参モドキでしょ?
「あんた、見舞い花のセンスが壊滅的ね」
ミカが呆れたため息をつく。
さすが、デートコースに食人植物博覧会を選ぶ御仁だ。
……そして、怪奇植物の花は、その場で軍医から突き返されてました。
「ほら、治療の邪魔だから、さっさと帰りなさい!」
背中を押して追い出そうとするミカに「わかったわかった」と答えながら、フィルアートはベッドの方を振り返る。カーテンの細い隙間から、一瞬だけ琥珀の瞳と視線が合ったような気がした。
「養生してくれ、エレノア。また明日」
「はい。お見舞い、ありがとうございます」
一応、心配して見に来てくれたのね。隊長の責任感かもしれないけど……悪い気はしないな。
王子様を追い出して静かになった病室で、ミカが「さてと」と呟いた。
「私は別の診察に行くけど、いい子で休んでいてね」
カーテンに顔だけ入れて、軍医が言う。
「なにかあったら枕元のベルを鳴らして」
「はい」
腕が動けば頑張ります。
じゃあね、とひらひら手を振り、ピンク頭が去っていく。
ドアの閉じる音を聴きながら、私はうつらうつらと目を閉じる。
カーテンを閉められる前に確認したけど、ここは四床のベッドがある大部屋で、入院患者は私だけ。
広い部屋の静寂は、痛いくらいに孤独な私を包み込む。
怪我で体力を消耗している私は、簡単に睡魔の誘惑に身を任せて……。
……。
……どれくらい、眠っていたのだろう。
「みゅぅ」
小さな声とふわりと空気が流れる気配に、私は目を開けた。
視界の端に映ったピンクの肉球を思わず二度見する。
……夢かな?
俯せのまま見上げると、そこには……。
羽のある白い仔虎を抱いて私を覗き込む、銀髪の少年の姿があった。
「エレノアの様子はどうだ?」
ドアの開く音と、聞き知った声。フィルアートだ。
「順調よ。さっき目を覚ましたわ」
軍医が王族に敬語を使ってない。二人は親しいのかな?
「そうか。会えるか?」
「まだダメよ。背中が生肉むき出しの状態だから」
ひぃっ。
ミカの言葉に、自分の背中が見えなくてホント良かったと安心したのも束の間。
フィルアートは思案するように二秒ほど沈黙し、
「俺は気にしないぞ?」
「しなさい!」
してよ!
ミカの肉声と、私の心の叫びが同時にツッコんだ。
今の私は上半身裸な上、皮膚すら纏ってないんだからね!
この王子様、ほんっとデリカシーがない。
「もう、何度来てもそうそう容態に変化はないわよ。明日には退院させるから、今日は大人しく自分の仕事をしてなさい」
何度も来てたのか。
「……わかった」
軍医の苦言に、落胆したフィルアートの声が同意する。
「では、これだけ見舞いに」
私は首を伸ばして、カーテンの隙間から外を覗く。ようやく見えたのは、フィルアートの手にある小さな紫色の花束。
あ、可愛い。
と思ったら、
「魔法菜園でマンドレイクの花が咲いていたので」
えっ! マンドレイクって、あの叫ぶ不気味な人参モドキでしょ?
「あんた、見舞い花のセンスが壊滅的ね」
ミカが呆れたため息をつく。
さすが、デートコースに食人植物博覧会を選ぶ御仁だ。
……そして、怪奇植物の花は、その場で軍医から突き返されてました。
「ほら、治療の邪魔だから、さっさと帰りなさい!」
背中を押して追い出そうとするミカに「わかったわかった」と答えながら、フィルアートはベッドの方を振り返る。カーテンの細い隙間から、一瞬だけ琥珀の瞳と視線が合ったような気がした。
「養生してくれ、エレノア。また明日」
「はい。お見舞い、ありがとうございます」
一応、心配して見に来てくれたのね。隊長の責任感かもしれないけど……悪い気はしないな。
王子様を追い出して静かになった病室で、ミカが「さてと」と呟いた。
「私は別の診察に行くけど、いい子で休んでいてね」
カーテンに顔だけ入れて、軍医が言う。
「なにかあったら枕元のベルを鳴らして」
「はい」
腕が動けば頑張ります。
じゃあね、とひらひら手を振り、ピンク頭が去っていく。
ドアの閉じる音を聴きながら、私はうつらうつらと目を閉じる。
カーテンを閉められる前に確認したけど、ここは四床のベッドがある大部屋で、入院患者は私だけ。
広い部屋の静寂は、痛いくらいに孤独な私を包み込む。
怪我で体力を消耗している私は、簡単に睡魔の誘惑に身を任せて……。
……。
……どれくらい、眠っていたのだろう。
「みゅぅ」
小さな声とふわりと空気が流れる気配に、私は目を開けた。
視界の端に映ったピンクの肉球を思わず二度見する。
……夢かな?
俯せのまま見上げると、そこには……。
羽のある白い仔虎を抱いて私を覗き込む、銀髪の少年の姿があった。
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