聖女の私は勇者に失恋した直後に魔王に拐われました

灯倉日鈴(合歓鈴)

文字の大きさ
14 / 22

14、聖女の手紙

しおりを挟む
「ああ、美味しかったぁ!」

 いっぱいお肉食べてお腹がはちきれそう。
 ロック達ファステ村青年団主催のバーベキューパーティーは、本当に楽しかった。
 みんなが笑顔で、充実しているって感じだった。

「魔王は、国王様とお話して、どうするつもりなの? この国を支配したいの?」

 魔王城に帰った私は、彼に尋ねてみた。

「人を治めるのは人だ。余ではない。余は人の王と話し、人の王が自身の民草の声に耳を傾けるようになればいいと思うておる」

「王様が国民に?」

「そうだ。余は税制を悪いものだとは思わぬ。力なき大勢の者が金品を預け、大きな者が大勢の利益の為に使うという制度は理にかなった物だ。ただ、使わねばならぬ時に使われず、搾取だけするのは如何なものかと」

 ……それは、水害の時に援助もせず、税を取り立てたことを言っているのだろう。
 全員がってわけじゃないけど、自分の利益ばかりを優先する悪辣な貴族は多い。そして、そういう人達ほど、強い権力を持っている。
 魔王は権力者ばかりに優位なジャスティオ王国の制度に口を出そうとしている。
 ……部外者の魔王に自国の政治を引っ掻き回されたら堪らない。それに、もし魔王に屈して税制度の改正を求めるなんて事態になったら、貴族達への国王の面子は丸つぶれだ。
 そりゃあ、国王は対話に応じないわよね。
 でも……約束だから、やるしかない。

「協力は一度だけよ。私は国王に手紙を書く。返事がなかったら諦めて」

「解っておる。無事にそなたを人の里に返すことも約束する。だが、我軍を引くこともせぬ」

 ジャスティオ王国の三分の一は、すでに魔王軍の占領下だ。穏便に対話が取り付けられなければ、魔王は武力で『対話せざるを得ない状況』を作る気だ。
 そうなる前にきっと……魔王は勇者と戦うことになる。

(ジェフリー……)

 つい昨日、フラれた恋人を思い出す。
 私のこと、心配してくれてるかな?

「……私は結婚まで待ってっていっただけなのに、簡単にヤラせてくれる方を選ぶなんて……」

「どうした? 聖女。独りでブツブツ申して」

 思い出して怒りを再燃させる私を、魔王が不思議そうに覗き込んでくる。

「な、なんでもない!」

 いけない。今は王国(+勇者)と魔王軍の全面戦争を回避しなくっちゃ。

「じゃあ、私は手紙を書くわね」

「うむ、頼むぞ。書き上がったらバルトルドに渡すがいい。半日で届けてくれる」

 へえ、王都からモンストル山脈までは馬車で一週間は掛かるのに。

「手紙の中身は確認しないの?」

 私がまったく別の内容を書いたら、どうするつもりなんだろ?
 尋ねる私に、魔王は薄く笑った。

「そなたを信じておるぞ、聖女」

「……!」

 そんなこと言われたら……下手なことできないじゃない。
 私は今朝目覚めた部屋に戻って、手紙を書いた。
 途中、メイドのセレレが夜食の紅茶とクッキーを持ってきてくれたりで、至れり尽くせりだった。

「じゃあ、お願いね」

「御意」

 書いた手紙を執事に渡すと、彼は翼猫に姿を変えて飛び立っていく。
 かなり夜遅いけど、魔族は夜の方が力が漲るし、日常的にあまり寝なくてもいいんだって。便利ね。
 でも、人間の私は一日連れ回されて疲れた。
 さっさと寝ちゃおう。
 ……と思ってベッドに入ったんだけど。

「うう、眠いけど、なんか寝つけない」

 体力は限界なのに、気分が高揚してる時ってあるよね。今日は情報量が多すぎて、頭の整理が追いつかないみたい。

「子守唄、歌いましょうか」

 うだうだと寝返りを打つ私に、羽耳のメイドが訊いてくる。

「私の歌を聴くと、みんな寝ちゃうんですよ。船が沈んじゃうくらい」

 ……そうか、セレレの正体はセイレーンか。
 船は困るけど、ベッドに沈むのは問題ないよね。

「うん、お願い」

 鈴の音のような綺麗な歌声を聴きながら、私は目を閉じる。
 私の手紙で、人族と魔族の諍いが終わればいいな、と思いながら。

 ……だけど。

 その期待は、最悪な形で裏切られた。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームのヒロインが純潔を重んじる聖女とか終わってません?

ララ
恋愛
私は侯爵令嬢のフレイヤ。 前世の記憶を持っている。 その記憶によるとどうやら私の生きるこの世界は乙女ゲームの世界らしい。 乙女ゲームのヒロインは聖女でさまざまな困難を乗り越えながら攻略対象と絆を深め愛し合っていくらしい。 最後には大勢から祝福を受けて結婚するハッピーエンドが待っている。 子宝にも恵まれて平民出身のヒロインが王子と身分差の恋に落ち、その恋がみのるシンデレラストーリーだ。 そして私はそんな2人を邪魔する悪役令嬢。 途中でヒロインに嫉妬に狂い危害を加えようとした罪により断罪される。 今日は断罪の日。 けれど私はヒロインに危害を加えようとしたことなんてない。 それなのに断罪は始まった。 まあそれは別にいいとして‥‥。 現実を見ましょう? 聖女たる資格は純潔無垢。 つまり恋愛はもちろん結婚なんてできないのよ? むしろそんなことしたら資格は失われる。 ただの容姿のいい平民になるのよ? 誰も気づいていないみたいだけど‥‥。 うん、よく考えたらこの乙女ゲームの設定終わってません??

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

聖女解任ですか?畏まりました(はい、喜んでっ!)

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
私はマリア、職業は大聖女。ダグラス王国の聖女のトップだ。そんな私にある日災難(婚約者)が災難(難癖を付け)を呼び、聖女を解任された。やった〜っ!悩み事が全て無くなったから、2度と聖女の職には戻らないわよっ!? 元聖女がやっと手に入れた自由を満喫するお話しです。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

捨てられた聖女、自棄になって誘拐されてみたら、なぜか皇太子に溺愛されています

h.h
恋愛
「偽物の聖女であるお前に用はない!」婚約者である王子は、隣に新しい聖女だという女を侍らせてリゼットを睨みつけた。呆然として何も言えず、着の身着のまま放り出されたリゼットは、その夜、謎の男に誘拐される。 自棄なって自ら誘拐犯の青年についていくことを決めたリゼットだったが。連れて行かれたのは、隣国の帝国だった。 しかもなぜか誘拐犯はやけに慕われていて、そのまま皇帝の元へ連れて行かれ━━? 「おかえりなさいませ、皇太子殿下」 「は? 皇太子? 誰が?」 「俺と婚約してほしいんだが」 「はい?」 なぜか皇太子に溺愛されることなったリゼットの運命は……。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

孤島送りになった聖女は、新生活を楽しみます

天宮有
恋愛
 聖女の私ミレッサは、アールド国を聖女の力で平和にしていた。  それなのに国王は、平和なのは私が人々を生贄に力をつけているからと罪を捏造する。  公爵令嬢リノスを新しい聖女にしたいようで、私は孤島送りとなってしまう。  島から出られない呪いを受けてから、転移魔法で私は孤島に飛ばさていた。  その後――孤島で新しい生活を楽しんでいると、アールド国の惨状を知る。  私の罪が捏造だと判明して国王は苦しんでいるようだけど、戻る気はなかった。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

処理中です...