聖女の私は勇者に失恋した直後に魔王に拐われました

灯倉日鈴(合歓鈴)

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21、それから

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 こんにちは、皆さん。
 聖女兼勇者のアリスです。
 私が勇者とバレてから、一年が経ちました。
 今の私が何をしているかというと……。

◆ ◇ ◆ ◇

「陛下、西領地の穀物の採れ高予測の算出ができました」

「じゃあ、今度は有識者に適正な税率を計算してもらって」

「陛下、先日の台風で北地区の堤防が決壊して……」

「すぐに軍の土木班を派遣して。医官も多めに連れて行ってね」

「陛下、辺境村の学校建設の予算ですが……」

「年間二百回もある晩餐会を十分の一にして予算を回して! 重要な会合以外は社交費ガンガン削るからね!」

 あー! もー! やることが多すぎる!

「もうやだ、田舎に帰りたい……」

「お疲れ様です、女王様」

 私の突っ伏した執務机の端に、良い香りの紅茶が置かれた。

「セレレ……」

 羽耳のメイド姿に、ほんわり癒やされる。

「あーん! セレレ、疲れたよぉ。ベッドで溶けるほど眠りたい!」

「子守唄、歌いましょうか?」

「歌って欲しいけど、今はダメ。この書類片付けないと」

 前が見えないほどうずたかく積まれた書類にうんざりするけど、これが私の選んだ道だから。……押し付けられたともいうけど。

 ――一年前、聖剣と魔王を連れて王都に帰還した私は、当時のジャスティオ国王に面会を求めた。

 魔王の望んでいた対話がやっと実現できる! と思った矢先。
 国王が逃げた。
 よっぽど魔族が怖かったのか、魔王に一切会うことなく、退位を表明して地方の別荘に引きこもってしまったのだ。
 しかも、勇者に王位を譲るという書状を残して!

 ……そんなわけで、真の勇者だった私が女王になっちゃった次第です。

 本当は魔王にジャスティオ王国の王も兼任してもらおうと思ったんだけど、

「人の国は人が治めるべき」

 と断られました。
 ……魔王はちょっと融通が利かない。

「女王陛下、東地区の人口推計持ってきましたよ」

 資料を手にロックが入ってくる。彼は私が補佐官としてファステ村から引き抜いてきた。
 純朴な若者に、私は思わず懇願する。

「ねえ、ロック。国王やらない? 青年団を上手く回してきたじゃない」

「……王国全土と辺境村の青年団を一緒にされても……」

 元ファステ村青年団団長は引きつる。
 ……ちぇっ、ダメか。
 私が平民出身だから、有能な人は出自に関係なくガンガン採用している。そして……魔族もね。
 魔王の統治できる範囲で、人里で生活したい魔族はこの国で受け入れることにしている。人より腕力の勝る魔族は、人を襲う魔物の討伐にも参加してもらってる。
 歴史が歴史だから、人魔共存はまだまだ難しいけど、少しずつ解り合えたらいいと思う。

 忙しいけど、充実した日々。

 だけど、ちょっと寂しいのは……。

「魔王、どうしてるかな?」

 彼がイプソメガス山の居城に帰ってしまったこと。
 たまに顔を出してくれるんだけど、これ以上人族の政治に口を出したくないって人だからね。

「逢いたいな……」

 ぽそっと零すと、セレレがあれ?と首を捻る。

「言ってませんでしたっけ?」

「なにを?」

「今、来てますよ。魔王様。女王様の仕事が一段落するまで待つって、貴賓室に……、あ、アリス様!?」

 私は一も二もなく執務室から駆け出した。
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