交通量調査物語

がしげげ

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2、交通量調査員、ここに誕生

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交通量調査の求人内容はこうだった。

・交通量カウント調査
・初心者歓迎  ※研修あり
・(1週間後の)7時から19時までのうち実働8時間
・お手当ては9000円(当日の交通費・研修に係る交通費は含みます。)
    ※お仕事終了時に現金でお支払します。
    ※当日は勤務地の最寄り駅までお越し下さい。
・勤務地は大阪府内若しくは兵庫県内
・18歳以上限定

なるほど…
なんとなく怪しさ?ブラックさ?は感じるものの、危ない仕事では無さそうだ。
それに、8時間労働で9000円なら時給換算で1000円越え。
バイトもしていなかった僕にとっては充分にありがたい額だった。
1つ引っ掛かったのは交通費。
研修場所は自転車で、最悪徒歩でもいける場所だったが、どこになるか分からない勤務地までの交通費を含むとなると…
実質の給料は8000円として考えるべきだ。

ただ、それでも欲しい…

僕は帰宅してすぐに求人元に電話した。

「もしもし、ご連絡ありがとうございます。ロードリサーチです。」

感じの良い若い女性。

「前田 敦 と申します。交通費調査の求人に応募したいのですが…」

「ありがとうございます。前田 敦様、最寄り駅を教えていただけますか?」

まず聞かれたのは最寄り駅だった。

「京橋駅です。」

「少々お待ちください。」

何が、かは分からないが、どこかその待ち時間に違和感を感じた。

「そのエリアはまだ空きがありますので、是非ご協力をお願いいたします。」

その後、簡単な必要事項を聞かれ、研修の日時が指定された。

後日…

研修当日は天気の良い日だった。
6月の梅雨時期には珍しい快晴。
こんな中で交通量調査したら暑そうだ。
日中ということもあり、道ですれ違う人達の中にはおそらく同い年の新社会人もいる。
昔からの地元ではないものの、知り合いに出会わないかが心配だった。

まだ始まったばかりかもしれないが、新社会人になれた友人たちは着実にキャリアを積んでいる。
一方で僕はどうだろう。
目先の9000円のために今から研修を受けるのだ。
自分の人生において、この歩みはどっちの方向に向かっているのか…
そんな研修までの道のりは、虚しさとの闘いだった。



研修会場のあるビルに着いた。

名前の知れた大手会社も入った、立派なビル。
エレベーターは30階まである。

ファーストフードのチェーンも、お洒落なカフェも、コンビニも揃ったビルのロビーには、スーツ姿のビジネスマンとOLが行き交っていた。

ロングTシャツにジーパンの僕は完全に浮いている。

15階に向かうため、エレベーターホールに着くと、同じように私服姿の人が何人か居た。
髪の毛ボサボサの年配男性、生乾きの臭いを放つ20代後半ぐらいの男性、重量級の年配女性。

面接会場に間違わずに着きそうだという安心感と共に、どこか悲しさを感じた。

「交通量調査面接会場→」に従って歩いていくと、会場となる部屋に辿り着いた。

小学校の教室半分くらいだ。
正面にはホワイトボードが置かれ、それに向かい合わせる形でパイプ椅子が20脚ほど並べられていた。

椅子の上には何やらテキストのようなものが置かれていた。

席について数分後、研修の時間となった。

「おはようございます!」

タイトなスーツにしっかりネクタイを締めたビジネスマンが入室してきた。

「ロードリサーチの大島です。よろしくお願いします!では、早速研修を始めたいと思います!」

研修は始まった。

大島氏の説明はホワイトボードとテキストを使ったもので、正直分かりやすかった。
おそらく、ビジネスマンとしてやり手なのだろう。
堂々とした大きな声、テキストを読み上げるのではなく前を向いての説明、プレゼンテーションとはこういうものだと感じた。

自分にもこんな力があれば、入社面接も怖くないだろうな…と考えていた。

しかし、この大島氏。
「堂々と」はいいのだが、所々で威圧感を感じる。
不自然な程に、口調を強めてくるのだ。

若干鬱陶しいなぁと感じていたその時…

「前田さん!大丈夫ですか!?」

はい…??

「ちゃんと聞いてましたか!?」

注意されてしまった…
確かに、正直別の事を考えていたため、一瞬話を聞いていなかったのだ。

「話が聞けないなら出ていってもらって結構ですので!」

おいおい、そこまで言われるか…?

ただ、その場の雰囲気もあり一応、謝った。
「すみません。話を聞かせて下さい。」

「次は無いので注意してください !」 

無事、研修は再開した。

主に「安全面」「姿勢面」 「手順面」に関しての内容で、交通量調査が初めての僕には「手順面」の説明内容は新鮮だった。

カチカチっとボタンを押すと1、2、3のように、表示される数字が増えていくカウンターを使い、交差点の車の台数をカウントしていく調査内容。

そして、10分ごとにその数字を専用用紙に転記していくといった内容だった。

予想通り簡単。

しかし、説明後の練習で僕は前言撤回せざるをえなくなった。

使用するカウンターは1つではなく、6個繋がったものだった。
大島氏の話によると「6連カウンター」と呼ぶらしい。

1、乗用車
2、小型貨物車
3、バス
4、大型貨物車
5、2輪車
6、この時は使用せず…

たった1方向で使用するボタンが6つ。
1人の調査員が観測する方向は多いときで2桁なんてこともあるらしい。

練習用の交差点映像が流れ出した。

この時は6方向だったが、5つの車種を方向別にカウントするのは、人生史上トップクラスの難しさだと感じた。

交通量調査、難しすぎる…

答え合わせでは、そこまでの誤差が出ていなかったため、なんとか合格したものの、研修前と後とでは交通量調査へのイメージがガラッと変わっていたのは言うまでもない。

そしてついに…

僕は「交通量調査員」になれたのである。
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