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10、終わりと始まり
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最後の休憩開始と同時に、僕は先程の公園へ向かった。
彼女はいるだろうか。
篠田さんは…
何かは分からないが、何かを伝え忘れた気がして、僕は無性に彼女に会いたかった。
公園の入り口。
園内を見渡すが、彼女は見当たらない。
先程とは違い、公園の至るところに水溜まりが出来ていた。
おにぎりを食べたベンチも雨で濡れ、何の可能性も感じさせないような冷たさを感じた。
一時は「運命」さえ感じたはずなのに、今では「もう会えない運命」とまで考えてしまう光景であった。
僕はもう病気だったのかもしれない。
無意識にコンビニに向かっていた。
「いらっしゃいませ。」
僕はカッパを着たままコンビニに入った。
何も買うつもりは無いが、目的の場所はあった。
おにぎり売り場だ。
当然彼女はいない。
それでも僕はおにぎり売り場の前まで行った。
売り場の棚にはほとんど残っていなかったのに、昆布とツナマヨが奇跡的に1個ずつ残っていた。
何も買うつもりはなかったはずなのに、お腹はそんなに減ってないのに、お金に余裕も無いのに、僕の手は無意識にそのおにぎりを掴んでいた。
何か少しでも、運命を感じたかった。
何でもいいから、運命としたかった。
コンビニを出た僕は、待機車両のハイエースに向かった。
高橋氏は乗っていなかったが、休憩中の調査員が1人乗っていた。
「お疲れさん。」
「あ、お疲れ様です。」
その調査員はキツめの加齢臭に加え、雨に濡れた服から生乾きの臭いを放っていた。
スマホいじりを始めようかなと思った僕に、その調査員が質問する。
「調査は初めて?」
「そうですね。初めてですよ。」
うんうん、と頷く調査員。
「一般の募集かぁ。」
「一般?」
僕は思わず聞き返す。
「そうそう。裏メンじゃないでしょ?」
「裏メン?」
また聞き返す。
「うん。どっかのグループとかチームに入って、常連枠で調査に入ったりしてると裏メンって呼ばれるよ。」
「そうなんですか。今はどこにも入ってないですねぇ。入った方がいいですか??」
「どうやろ。俺は本業あるからあかんけど、ある程度仕事の召集に応えれるならアリちゃうかな。ちなみに、高橋さんはおすすめ。」
「えっ、そうなんですか??」
高橋氏に誘われていることは言ってないのに、急に名前が出て来て少し焦った。
「高橋さんは人間が出来てるわ。仕事も出来るし、経験も長いし、まともやし…良い意味で業界の人っぽくないというか…」
「峯岸さんて人がグループのボスやけど、高橋さんの方がしっかりしてるよ(笑)」
「そうなんですね~。情報ありがとうございます。」
僕の中で、高橋チームに入る意志が固まりつつあった。
具体的にどういう日常になるのかはイメージが出来ていなかったが、無理なら辞めれば…という考えもあって、不安はあまり感じていなかったのだ。
そして時間は17時。
この調査、最後の2時間だ。
結局、篠田さんには会えないまま僕は調査地点の交差点に戻った。
カチカチカチカチ。
知らないうちに雨は止んでいた。
「お疲れ様です。」
高橋氏だ。
「お疲れ様です。」
「高橋さん、チームに入れてもらっていいですか?」
カチカチカチカチ。
「おっ、もちろんもちろん!」
「声かけた時、どうしても無理なら言って。極力来てくれたらOKです。また、詳しいことは話するけど、とりあえず調査の仕事は私からの誘い以外は入らんといて。」
「あ、それと、一回りぐらい年上やと思うから、タメ口にスイッチするで(笑)」
カチカチカチカチ。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。また後で連絡先教えて。ではでは、残り時間よろしく!」
高橋氏は少し忙しそうに確認作業へと戻った。
カチカチカチカチ。
時刻は調査終了の19時。
日は沈み薄暗い中、いつのまにか増えた交通量。
車のライトで交差点が賑やかに見えた。
調査が終わり、僕はパイプ椅子や手提げ袋を持ってハイエースの方に向かった。
高橋氏や他の調査員がそこにいた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様~。」
僕を含め、開始時に6人いた調査員は4人に減っている。
そうか、2人は早上がりか。
自己中心的な早上がりに改めて腹が立ったものの、人数が減っている原因を自力で解明できたことに少しだけ満足していた。
「はい、お疲れ様です。」
高橋氏から、9000円の入った茶封筒を渡された。
「ありがとうございます!」
やはり嬉しかった。
歳のせいにするには早いが、
涙がでそうなぐらいだった。
「前田さん、というか前田くん。また連絡するわ(笑)」
そう言って高橋氏はハイエースに乗り込み、去っていった。
僕は誰もいない例の公園を一目確認し、帰宅した。
彼女はいるだろうか。
篠田さんは…
何かは分からないが、何かを伝え忘れた気がして、僕は無性に彼女に会いたかった。
公園の入り口。
園内を見渡すが、彼女は見当たらない。
先程とは違い、公園の至るところに水溜まりが出来ていた。
おにぎりを食べたベンチも雨で濡れ、何の可能性も感じさせないような冷たさを感じた。
一時は「運命」さえ感じたはずなのに、今では「もう会えない運命」とまで考えてしまう光景であった。
僕はもう病気だったのかもしれない。
無意識にコンビニに向かっていた。
「いらっしゃいませ。」
僕はカッパを着たままコンビニに入った。
何も買うつもりは無いが、目的の場所はあった。
おにぎり売り場だ。
当然彼女はいない。
それでも僕はおにぎり売り場の前まで行った。
売り場の棚にはほとんど残っていなかったのに、昆布とツナマヨが奇跡的に1個ずつ残っていた。
何も買うつもりはなかったはずなのに、お腹はそんなに減ってないのに、お金に余裕も無いのに、僕の手は無意識にそのおにぎりを掴んでいた。
何か少しでも、運命を感じたかった。
何でもいいから、運命としたかった。
コンビニを出た僕は、待機車両のハイエースに向かった。
高橋氏は乗っていなかったが、休憩中の調査員が1人乗っていた。
「お疲れさん。」
「あ、お疲れ様です。」
その調査員はキツめの加齢臭に加え、雨に濡れた服から生乾きの臭いを放っていた。
スマホいじりを始めようかなと思った僕に、その調査員が質問する。
「調査は初めて?」
「そうですね。初めてですよ。」
うんうん、と頷く調査員。
「一般の募集かぁ。」
「一般?」
僕は思わず聞き返す。
「そうそう。裏メンじゃないでしょ?」
「裏メン?」
また聞き返す。
「うん。どっかのグループとかチームに入って、常連枠で調査に入ったりしてると裏メンって呼ばれるよ。」
「そうなんですか。今はどこにも入ってないですねぇ。入った方がいいですか??」
「どうやろ。俺は本業あるからあかんけど、ある程度仕事の召集に応えれるならアリちゃうかな。ちなみに、高橋さんはおすすめ。」
「えっ、そうなんですか??」
高橋氏に誘われていることは言ってないのに、急に名前が出て来て少し焦った。
「高橋さんは人間が出来てるわ。仕事も出来るし、経験も長いし、まともやし…良い意味で業界の人っぽくないというか…」
「峯岸さんて人がグループのボスやけど、高橋さんの方がしっかりしてるよ(笑)」
「そうなんですね~。情報ありがとうございます。」
僕の中で、高橋チームに入る意志が固まりつつあった。
具体的にどういう日常になるのかはイメージが出来ていなかったが、無理なら辞めれば…という考えもあって、不安はあまり感じていなかったのだ。
そして時間は17時。
この調査、最後の2時間だ。
結局、篠田さんには会えないまま僕は調査地点の交差点に戻った。
カチカチカチカチ。
知らないうちに雨は止んでいた。
「お疲れ様です。」
高橋氏だ。
「お疲れ様です。」
「高橋さん、チームに入れてもらっていいですか?」
カチカチカチカチ。
「おっ、もちろんもちろん!」
「声かけた時、どうしても無理なら言って。極力来てくれたらOKです。また、詳しいことは話するけど、とりあえず調査の仕事は私からの誘い以外は入らんといて。」
「あ、それと、一回りぐらい年上やと思うから、タメ口にスイッチするで(笑)」
カチカチカチカチ。
「よろしくお願いします。」
「こちらこそ。また後で連絡先教えて。ではでは、残り時間よろしく!」
高橋氏は少し忙しそうに確認作業へと戻った。
カチカチカチカチ。
時刻は調査終了の19時。
日は沈み薄暗い中、いつのまにか増えた交通量。
車のライトで交差点が賑やかに見えた。
調査が終わり、僕はパイプ椅子や手提げ袋を持ってハイエースの方に向かった。
高橋氏や他の調査員がそこにいた。
「お疲れ様です。」
「お疲れ様~。」
僕を含め、開始時に6人いた調査員は4人に減っている。
そうか、2人は早上がりか。
自己中心的な早上がりに改めて腹が立ったものの、人数が減っている原因を自力で解明できたことに少しだけ満足していた。
「はい、お疲れ様です。」
高橋氏から、9000円の入った茶封筒を渡された。
「ありがとうございます!」
やはり嬉しかった。
歳のせいにするには早いが、
涙がでそうなぐらいだった。
「前田さん、というか前田くん。また連絡するわ(笑)」
そう言って高橋氏はハイエースに乗り込み、去っていった。
僕は誰もいない例の公園を一目確認し、帰宅した。
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