北極星(ポラリス)に手を伸ばす

猫丸

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第三章 ルコス村

26.3年後

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 それから3年の月日がたった。リュカがヴァレルと別れて約4年。
 リュカの子供はマチアスと名付けられた。結局、リュカはパトリスと一緒に暮らしている。時々年の離れた夫夫ふうふに間違えられることもあった。
 信じられないくらい穏やかな日々で、このまま10年が過ぎて住民権が得られるんじゃないかと思うことすらあった。

 パトリスはマチアスを我が子のようにかわいがってくれる。
 ある日は、まだ何もわかっていない子供マチアスに薬草の見分け方を教え、口に運びそうになって慌てていた。
 ある日は「いいか、マチアス。 魔力を放出する時は、この手のひらに魔力を貯めるイメージをするんだ。 ほら、こうやって……って、うわっ、マチアス、手がよだれでべっちゃりじゃないか!?」なんて会話をしている。
 子供が喜ぶような話のネタは持っていないが、話しかけるのが楽しいらしい。

 そんな日常を送りながら、毎晩北極星を眺め、ヴァレルの幸せを祈る。もう王都に戻っていると思っていても、北極星を眺めるのがクセになっていた。
 首にかけた青黒白の石の並んだネックレスに触れれば、最後の日々のことが思い出されて身体が熱くなる。
 
 隣で眠るマチアスに口づけた。リュカと同じ黒髪だが、成長するにつれ、少しずつ目元や鼻筋、口元がヴァレルに似ていくマチアス。
 このネックレスにこの子の色を追加するとしたら、何色だろうか。そんなことを考えながら、頭を撫でる。濃い青と茶色が混ざったような複雑な色合いの瞳は今、幸せそうに閉じている。
 
 一番会わせてあげたい父親ヴァレルには会わせることができないけれど、リュカだけでなく、周りからの愛情もたっぷり受け取り、すくすくと育っていることにほっとした。
 
 だが、それと同時に、あれだけ愛を伝えてくれたヴァレルに、居場所を連絡をしていないという罪悪感も常に抱えていた。
 穏やかな日々の中で、もしかしたらもうエロアは自分を探していないかもしれない、と思うこともある。
 ならば、連絡してもいいだろうか?子供が生まれたことだって伝えたい。
 だが、万が一探していたら?次エロアに見つかったらマチアスまでどうなるかわからない。パトリスが言うには、マチアスもリュカと同じ魔力の色をしているという。マチアスが自分の身を守れるまでは、絶対に守らなくてはいけない存在。それが今唯一リュカにできることだった。

 今日もリュカは日記を書いていた。
 それは愛しい相手へ綴る手紙のようだった。遠く離れている相手へ、相手への想いと子供の成長を伝えるように。それはマチアスが生まれてからずっと続く、リュカの日課。
 そして北極星を見ながらネックレスに触れ、ヴァレルの幸せを願う。
 どこにいても一番に最初に願うのはヴァレルの幸せ。いつかリュカを忘れて、だれかと幸せになってくれてもいい。もう十分すぎるくらいの愛をもらったから……。

 
 ◇
 
 
 季節が少し寒くなり始めた。パトリスはギルドと役場の人と三人で朝から何やら深刻な顔をして話をしていた。
 リュカは寝てしまったマチアスを背中におぶりながら、ノアに調薬を教えていた。

 4年経っても北の方の魔獣の被害状況は良くならず、むしろ被害地域が拡大していると風の噂で聞いた。
 ノアは一度もルコス村に戻ることなく、バヤールに残っている。以前に比べると、身長も伸び、しっかりとした体つきになっていたが、ハンナやノアの両親がまだ北へ来ることを許していなかった。
 
 それでもノアはいつでもルコス村へ戻れるよう、毎朝剣のトレーニングをしてから薬草を収穫しに森に入っているのをリュカは知っていた。そして午後、もしくは夕方、収穫した薬草をここに売りに来て、そのまま調薬や治療の勉強をして夜遅くに帰った。
 ノアに魔力はないが、魔力を込めなくても作れる薬はたくさんある。現地に行ったときのためにノアは必死で学んでいた。基本的なものはもうリュカが教えなくてもできるレベルになっていた。

「幸せそうに寝がやって」

 ノアはリュカの背中ですやすや寝ているマチアスのほっぺを、ニコニコしながらツンとつついた。
 その手は傷だらけだった。剣の練習か、薬草採取か。

「ノア、これつかって」

 リュカの魔力の入った傷薬をあげる。店では売っていない魔力入りの薬。こんな田舎の薬屋で魔力入りを売って目立って良いことなんて一つもない。

「ありがと。 これ効くから助かる」

 ノアは遠慮せずににっこり笑って受け取った。

「あ、そうだ。 これあげる」

 そう言ってノアがカバンから出しのは、青と茶色が混ざった複雑な色合いの丸い石。真ん中に穴が空いていて、紐が通せるようになっている。

「この間、ジョルジュさんの手伝いで隣町へ行った時に、それ見つけて。 青だけの石が多かったんだけど、それ、茶色が程よく混ざってるからマチアスの目に似ていると思ったんだ。 ルーさん、よくその首のネックレスの石いじってるからさ、ふと思いだして」

「ノア~~~!! 君ってばなんていい子なんだ~~~!! 傷薬、もう一個あげるっ!!」

「いいって!! いつも世話になってるし!!」
 
 マチアスの石が欲しいと思いつつ、この町ではなかなかピンとくるものが見つけられずにいたのに、思わぬところからの贈り物にリュカの目の奥が熱くなった。
 
 ◇

 起きたマチアスをノアに預け、石に紐を通していると、パトリスがギルドと役場の人との話を終えて調薬室に現れた。リュカとノアも休憩にする。
 
「え? 北の調査隊が治療に来る?」

 リュカの膝の上で新しく加わった石をいじっていたマチアスだったが、ノアがテーブルに置かれたクッキーをつまむと、意識はそちらに向き、食べたがって手を伸ばした。「お前にゃまだ早い」と、笑いながらも小さく割ってマチアスに分けてあげるノア。
 ノアも家族と離れて淋しいのだろう。マチアスを弟のようにかわいがってくれていた。

「うん。 寒くなってきたし、ここなら温泉で身体温められるって。 役場の人の話だと、調査隊から直接打診があったみたい。 魔獣被害ももう5年近くになるし、隊を引かせるにも引かせられなくて、とりあえず負傷者をバヤールで治療するから、その薬が欲しいって。 医療班も数人同行するみたいだから薬の提供がメインだけど、簡単な治療はできる限り手伝ってもらえると助かるってさ」

「負傷者……ノアのご両親は大丈夫なの?」

 深刻な顔をして聞いているノアにリュカは聞いた。
 
「手紙送ってもほとんど返ってこないからわからないけど……とりあえず、ハンナおばさんのところに死亡の連絡は来てないから生きてはいると思う。 ルコス村どころか、魔獣は周辺地域まで活動範囲を広げているらしいから……。 だから逆に調査隊とか兵士が滞在しているルコス村はまだマシなのかも……」

「あぁ、僕も聞いたけど……そんなに被害が広がっているの?」
 
 ヴァレルはもう奉仕活動を終えて王都へ帰っているはずだからきっと大丈夫だろう。アルシェやギー、第2次隊のメンバーはどうしただろうか?さすがにもう3次、4次、その次と交代しているだろうか。マチアスを抱きしめる腕に力が入る。

―――― どうかみんな無事でいて……。

 
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