【闇BL】地獄に咲く薔薇

猫丸

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4.牢獄の狂宴※

 病気になったのかもしれないと思うくらい体調が悪かった。だが、それでも客の前に行くときは湯浴みをし、準備をする。
 茶屋の裏。湯浴み終えて部屋へ戻る時、ふと、こそこそする人影を見つけた。

「公政様……?」
「ひっ、き、錦弥!?」

 公政は飛び跳ねて驚いた。相変わらず、気が小さくうらなりなような人間だが、それでも会いに来てくれたのだ。人目を忍んで。自分を思って。
 錦弥は嬉しくて、公政の胸に飛び込んだ。

「き、き、錦弥……あの……」
「しっ、だれかに見つかるといけないからこっち」

 物陰に隠し、錦弥から口づけをする。呼んでくれなくなった理由などは気にはなったが、相手は武士だ。言えないこと、言いたくないこともあるだろう。
 それでも昼間人目を忍んで、自分に会いに来てくれた。それだけで、胸がいっぱいだった。
 自分に会いに来てくれたのだと、まったく疑っていなかった。


 ◇


 翌日、錦弥は奉行所にひっ捕らえられた。
罪状は『池田公政をそそのかし、献上品の洋薔薇を持ち出したあげく、落として薔薇を傷つけ、高価な鉢を割ってしまった』というもの。
 
 男物の着物を着せられ、上半身を縛られ、むしろの上に座らされた。突棒や刺股などをもった男達に挟まれお白洲しらすが始まった。
 証拠には、陰間茶屋の裏で発見されたという、見たこともない枝と割れた鉢。そして言った覚えのない自白調書。

「あれが洋薔薇……」と思ったが、花は咲いていなかった。 

 裁きの内容も訳がわからない。だが、どんなに「知らない」といってもだれも錦弥の話など耳を傾けてくれなかった。
 そして……

「証人、前へ!」

 その声とともに役人に連れられ来たのは、公政と見知らぬ若い女性だった。

「公政様……」

 公政なら無罪を主張してくれる、ほっとして思わず笑顔になった。だが、公政の口から出てきた言葉は思いがけぬものだった。

「こ、この錦弥にそそのかされ、私はとんでもない罪を犯してしまいました!! 陰間などにうつつを抜かし、殿の信頼を裏切る行為、大変申し訳なくなんとお詫びをしたら良いのか!!」

「公政……さま……?」

 公政は、一切錦弥の方を見ようとはしなかった。
 そして公政の隣にいた娘が言った。

「公政様はこの陰間に騙されていたのです! でなければ、私のような婚約者のいる身でこの様な者にうつつを抜かし、家に内緒の多額の借金、今回のような不祥事をしでかすはずがございません!」

「婚約者……」

 その後も続く婚約者からの錦弥への罵倒。公政はずっと下を向いてだまっていた。
 家柄の良い公政のことだ。婚約者や許嫁がいるであろうことは想像に固くない。もし、身請けられたとしても、慎ましく日陰の存在でいられればよいと思っていた。この地獄から抜け出せれば、多くは望まない。そう思っていた。

 あっという間に終わった初審と判決言い渡しのお白洲。すべて錦弥の責任ということで結審した。
 判決は『江戸中引廻の上、死刑』
 この時代、人の命はとても軽かった。ましてや一陰間の命など。

 洋薔薇や鉢の罪に加えて、名家の次男を誑かした性悪さも罪状に加わった。これ以上被害者を出さないためにも、錦弥は生きていてはいけないのだという。
 見に覚えのない罪で皆が自分を責める。知らぬ者まで自分に死ねという。
 明らかに何らかの忖度が働いている裁判であると誰もが思っていても、それに逆らえる人物は錦弥の周りには誰もいなかった。

 しかも通常であれば、牢屋敷内にある切場で首を切られて終わる所だが、見せしめの意味を込めて江戸中引廻とは……。
 一方、公政は池田及び婚約者の家族により更生させるという、なんとも軽い判決だった。

 そんな判決を錦弥はどこか諦めの気持ちで聞いていた。

 
 ◇


 陰間茶屋から急につれてこられ、すっかり慣れた牢屋の中。本来錦弥の立場であれば、他の犯罪者と一緒に大牢に収容されるところであるが、状況を鑑み、大牢で先に殺されてはかなわぬと、揚座敷あがりざしき(武士等比較的身分の高い者が入る牢)へ入れられていたのは幸いだった。

 上にある小さな窓から満月が見えた。

「はぁ……」
 
 自分は何も知らないと喚いても、誰も話を聞いてくれない。自分の声は誰にも届かない。

「えらい、辛気臭えため息つきやがって。 なんだ、兄ちゃんは何をやらかしたんだ?」

 牢の端で大きく場所を取って寝ていた男が身体を起こし、聞いてきた。がっしりした身体つきの男。髪も乱暴に束ね、不精ひげも生え、荒くれ者の風情をしていた。錦弥より年上だろう。
 世間では『洋薔薇の錦弥』として話題になっていたが、男物の着物を着せられているせいか、男は自分が錦弥だと気づいていない様子だった。もしくは、まさか陰間が揚座敷にいるとは思っていないのかもしれない。錦弥は少し気が楽になった。

「何にも……ただ恋をしただけさ……」

「へっ、そんなもんで捕まりゃしねぇ。 それともそのきれいな顔でとんでもねぇ大物の人妻でもたぶらかしたか?」

 ひひっと男は笑いながら、指で性交を意味する卑猥な形を作った。

「そういうあんたは何をしたんだ?」

「俺? 俺はちいとばかし相手を殴りすぎてなぁ。 いつもだったらすぐ出られるんだが、今回ばかりは親父が『ちったぁ反省しゃがれ』ってんで、子分共も含め、誰も迎えに来てくれやしねぇ」

「ふふ……それはそれは。 よっぽどあんたに手を焼いてたんだね……」

 隣の男の話は楽しかった。錦弥と違い、まっすぐに自由に生きている気がした。思ったことを正直にいい、頭にきたら相手をぶん殴る。己の信念と仁義に従って生きているのだ。

「はは、生まれ変わったらそんな生き方がしてみたいもんだな……」
「は? ここ出たらすりゃぁいいじゃねぇか」
「そうだな……ここを出たら……」

 そのまま黙り込む錦弥。しばらくの沈黙の後に錦弥に訪問者が現れた。

「…………銀次。 あんたには世話になったね……」
「錦弥さん……でも……あんた何もしてないのに……!!」
「もういいんだよ……もういいんだ。 もう疲れちまったんだよ……」

 銀次だけが、最後まで錦弥の無実を訴えてくれた。だが銀次もまた、存在しながら無存在として扱われる男。

「錦弥さん……俺、あんたのこと……」
「ふ……、知ってたよ。 あんたが私のことを好きだったことも、あんたが何度も私のために『乱暴な客を取るな』って、茶屋の主人に掛け合ってくれていたことも。 ありがとね……。 この格子がなきゃ、お礼にあんたと一発してやるところなんだけどね……私にはあんたに返せるものがなにもないから……」
「錦弥っておめぇ……洋薔薇の……?」

 後ろから聞こえてきた問いには笑って返した。
 男は翌日、子分が迎えに来て釈放された。


 ◇


 翌日には刑が執行されるという日、錦弥は別の牢へと移された。死刑囚に最後に与えられる食事の希望を聞かれ、錦弥は湯浴みを希望した。簡単だったが、桶にお湯と手ぬぐいをもらい、身体を清めることが許され、錦弥はほっとした。
 いくら罪人とは言え、かつては『蝶よ、花よ』と謳われた陰間の錦弥。江戸中引廻の際にみっともない姿は見せたくなかった。
 冷たくなった水で丹念に肌を磨き、絡まった髪を丁寧に解く。もう自分に残されたのはこの身体だけ。それも数時間後には失うのだ。ふるっと身体が震えた。
 寒さなのか。この期に及んでもなお、死への恐怖を感じているのか。
 進むも地獄、戻るも地獄、だというのに。

   
「よぅ。 酒でもどうだ」
「あんたは……」

 ただ明日の執行を待つだけと、髪を梳かしながらおとなしく座っていると、同じ牢に入っていた男が現れた。
 
「おめぇが会いたいだろうと思ってな。 こいつも連れてきた」

 そう言って現れた身体のでかい無口な男。
 
「銀次……」
「錦弥さん……」

 銀次は既に泣いていた。
 
「金剛なんて買ったの初めてだぜ。 あと牢を貸し切っての酒盛りもな」

 牢屋で酒盛りが始まった。どうやら牢役人を買収したらしい。
 少し飲めば酔いが回ってきた。男は酒豪らしく、すごい勢いで酒を飲む。終われば子分らしき男が後から後から酒やツマミを持ってきた。
 楽しかった。
 明日死ぬというのにこんなに楽しい事があるのかと思うくらい楽しかった。

「生きたいとは思わないのか?」

 男が聞いた。

「生きていて何になる? やっと楽になれるんだ……」

 男はしばらく沈黙して、そして言った。

「俺は今まで女しか抱いたことがなかったんだが、お前だったら抱いてみたかったなぁ」

「ふん、試してみるか?」

 着物を脱ぎ捨てる。

「綺麗だな……」

 月明かりと蝋燭に照らされた錦弥の裸体見て、男がつぶやいた。散々なぶられ、痣のできていた身体は、皮肉にも捕らえられた日数が経過したことで少し目立たなくなっていた。

 男の着物の合わせを開き、魔羅へと舌を伸ばす。すぐに男の魔羅に血が集まった。裏筋から全体を舐め、陰囊も愛撫し、その大きな剛直を口に咥える。
 男のモノは大きく、男の錦弥の口にも収まりきらないサイズだった。だが幼い頃から仕込まれてきた技術をすべて出す。
 ちらりと横を見ると惚けた銀次と目があった。
 
「銀次。 なにぼーっとしてんだい。 後ろを解すのはお前の仕事だろ?」

 はっと正気に返り、銀次は錦弥の菊門へと手を伸ばした。

「あん……気持ち、いい……」

 銀次の丹念に愛撫する指で、錦弥の魔羅もすぐに立ち上がる。

「こりゃ、やべえな。 すぐに気をやられちまう」

 男が言った。口の中の陰茎はもう暴発寸前に太くなっていた。
 
「ふふ、これだけの身体なんだ。 より先にへばったりはしないだろ? 出していきな。 全部……俺に……お前もだ、銀次」

 今まで使っていた女言葉を捨て、一人称を「俺」と変える。それだけで死への恐怖が少し和らいだ気がした。
 なにも考えず、ただ快楽に身を任せ、酒と性に身を委ねる。その繰り広げられる痴態に子分がごくりとつばを飲み込み、股を抑えた。

「はは、あんたも混じるか?」

 そういって、男の顔を見れば、男もうなずき子分に許可を出した。
 口の中に吐き出された男のものを飲み込み、口角を拭きながら、男の子分のものへと舌を伸ばす。後孔には銀次のイチモツが突き刺さっていた。両手で2つの魔羅を扱きながら、交互に舐めた。
 
「あっ……あっ……銀次、気持ちいいっ……」

「こりゃすげぇ、俺もお前に入りたいな」

「はは、入れてみるか?」

「は? 一緒にか?」

 銀次を下に寝かせ、その上に錦弥が乗る。既にいっぱいになっている穴を押し広げ、男のイチモツが錦弥の体内へと入ってきた。二本の魔羅が収まれば、襞はすべて伸び、裂けそうなくらいギチギチに拡がっていた。身体が裂けてしまいそうな圧迫感に、はふはふと呼吸しながら喘ぐ。
 
「あ……あ……すごいっ……すごいっ……」

 男達の上で腰を振りながら、子分の魔羅を扱く。自分も相手に合わせることなく気をやる。
 銀次が錦弥の体内で吐き出せば、体位を変え、あぐらを組んだ男の上に座り、太くて堅い魔羅で貫かれる。銀次が錦弥に何度も何度も口づけをした。乳首や魔羅、錦弥の全身を愛撫しながら。

「あ……もっと……もっと魔羅をちょうだい……」

 何度精を受け入れたのか、何度吐き出されたのかわからなくなるくらい、大量の精液を浴びながら、自身も尽きるまで射精する。
 これが錦弥の生きてきた全てだった。
 明日には尽きる命。やっとこの地獄から解放されるのだ。湧き上がる複雑な感情をすべて快楽に変え、ただ喘ぐ。
 銀次は泣きながら、錦弥を貪った。

 がたん、と音が聞こえた気がして恍惚とした瞳でそちらに視線を向ければ、腰を抜かした公政がいた。

「なんだい、あんた、会いに来てくれたんだね……。 こっちへおいでよ……」

 途端に戻る女言葉。
 公政は怯え、這いつくばったまま逃げていった。

「おい。 良かったのか?」

「いいんだよ。 これが俺の生き方だ……」

 牢獄での狂宴は明け方まで続いた。
 



 
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