蜘蛛の巣

猫丸

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8.※

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 お付き合いし始めて、以前住んでいたアパートは解約した。
 ドアはとっくに直っていたが、一緒にいたいから教えなかったと知朱は言った。
 自分も一緒にいたいから、追求しなかったんだと伊吹も告白して二人で笑った。

 その日は久しぶりに田中との打ち合わせがあった。
 初めて知朱を見た会社の一階にあるあのカフェ。
 居酒屋での出来事があってから田中に会うのは初めてだったで、ちょっと緊張した。
 ただ、電話やメールではやり取りしていたし、知朱と付き合い始めたことも話した。

「よぅ、久しぶり」
 先に来ていた伊吹の席に、コーヒーを持った田中が現れた。

「すみません、ホント色々ご迷惑かけちゃって」
「あぁ、良いって。まぁ落ち着いたみたいで良かったよ。てか、お前雰囲気変わったなぁ」

伸び切っていた髪を切るついでに、隠していた顔を出し、眼鏡を外した。
もともと顔を隠すための伊達眼鏡だったのだ。

「変…ですか?」
「いや、お前きれいな顔してたんだなぁ、と思ってさ。っと、あぁごめん、そう言われんのがイヤだったのか」
「まぁ…」
「でも、そうやって顔出したってことは、多少吹っ切れたんだろ?良かったよ」

 *

「伊吹!姿見えたから来ちゃった」
 田中と打ち合わせをしていると、カフェのスペースを区切る植物の向こうから知朱が顔を出した。

「とも…井雲さん…」
 一応田中の前なので、言い換える。

「いいよ、知朱で。田中くんもお疲れ様。…まだ打ち合わせ中かな?」
「いえ、もうほとんど終わってます」

「そ?そしたら俺ももうすぐ終わるから、ちょっとここでまってて。一緒に帰ろう。
車だからどこかで買い物してからでもいいし、ご飯食べて帰ってもいいな。考えといて」

 あぁ、僕の恋人は本当にかっこいいなぁ、なんて思っていたら、顔を耳元に近づけて囁いた。

「外で見る伊吹も新鮮だな。ホントは今すぐ抱きしめたいけど、人目もあるし我慢しとくよ。今日もかわいいよ」

 真っ赤になる伊吹を田中は生ぬるーい目で見守った。

 *

「ねぇ、あんたが副社長の恋人?」
 打ち合わせが終わり、そのまま本を読みながらカフェで井雲を待っていると見たことのある若い男に声をかけられた。
 あの歓迎会で声をかけてきた…確か名前は外山とやま…だったか。

「えっと…恋人っていうか…」
 井雲にも立場があるので言い淀む。

「雰囲気変わったけど歓迎会の時来てたヤツだろ?」
「ええ…まぁ…」

「まぁ、いいや。副社長が駐車場で待ってるってさ。連れてこいって」
「あ…はい」

 メッセージアプリにはなんの連絡もなかったが、車で来たと言っていたし、顔を知っている外山に連絡を頼んだのだろうか?

「地下駐車場。迷子になるといけないから、車止めてるとこまで連れてくからついて来て」
 外山は少し刺のある言い方で言った。
 あの後、井雲に怒られたと言っていたから、苦々しく思っているのかもしれない、と思って黙ってついていく。


「そこ」
「え…?車、ちが………っ!?」

 驚いて後ろにいた外山を振り返ると、突然、そのワンボックスカーの後部座席が開き、中にいた男に腕を掴まれ車内へと引きずり込まれた。
 外山が後ろから押し込むように伊吹を突き飛ばし、車内へと乗り込んだ。
 抵抗するまもなく腹にパンチをくらい、伊吹は意識を失った。



 意識が戻ったとき、伊吹は全裸で両手を拘束され、脚を開かされた状態で縛られていた。
 車内の後部座席はフラットになり、セミダブルのベッドぐらいの広さの空間になっていた。
 外山ともう一人の男が伊吹の両脇の上にいて、もう一人が運転席と助手席の間から顔を出し、ニタニタ笑いながらこちらを見ていた。
 口にはガムテープを貼られ、声がでない。

「ひゅー♪すっげー美人。外山、また上物連れてきたなぁ。いいの?」
「いいんだよ、このクソオメガのせいで副社長から目ぇつけられて、会社クビになるし、ホント散々なんだよ。マジ、男オメガクソ」
「へぇ、まぁお前そろそろ実家帰らなきゃって言ってたしちょうど良くね?てか、コイツまだつがってねーじゃん。薬でヒートこさせて噛んじゃう?」

「だな。でもまずは無理やり突っ込んで痛めつけてやりたいんだよな。泣き叫ばせてやる」
「はは、お前相変わらず鬼畜だなぁ。まぁそーゆーことであれば…」

 一人の男が伊吹の膝裏を掴み尻を上げ、体重をかけて動きを封じた。
 外山が伊吹の尻たぶを思い切り開き、伊吹の未開の穴を空気にさらされた。

「へぇ、あのクソアルファのちんこでガバガバかと思いきや、キツそうじゃん。こりゃ裂けるね、はは」
「うぅっ!!」

 ヒートでもなく、濡れてもいない状態でいきなり指を突っ込まれて、伊吹は痛みに呻いた。

「え?指一本で?オマエ処女?クソオメガのくせにどんだけ大事にされてんだよ。男オメガなんて股開いてなんぼだろ?それともあのクソアルファ、インポ?」
「大事にしてるオメガ取られて、悔しがるあいつの顔想像するだけで、ゾクゾクするわ」

 外山は痛みに耐えている伊吹の後孔の指を2本、3本と増やし乱暴に出し入れしながら笑っていた。
 伊吹は精一杯の抵抗を示すが、男たちに押さえつけられ、なすすべがなかった。 

――――痛い!!痛い!!痛い!!

 後孔は切れ、血が流れていた。
 伊吹の目からは痛みと嫌悪感と悔しさで涙が溢れてきたが、それは男たちをますます喜ばせるだけだった。

 伊吹の後孔がほぐれていない状態で、外山が自分のペニスに潤滑油を塗り、切っ先を穴に押し付けてきた。

――――嫌だ!!嫌だ!!嫌だ!!!!

 最後の抵抗を示すため、全力で暴れる。

「暴れるなって、くそが!!」

 思い切り顔を張られ、視界が一瞬真っ白になった。
 首を絞められ、完全に抵抗を封じられる。

「ぐぅ…」

――――知朱、ごめん…。

 やっと幸せになれると思ったのに。
 どうしてこうも上手くいかないんだ。
 そんなにオメガであることが悪いのか。
 自分には不幸が絡みついている。
 
 涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃだった。
 段々脳に酸素がいかなくなり、視界に靄がかかる。
 知朱の笑顔が浮かんだ。

――――好きだ。何もあげられるものがないから、せめて初めては知朱にあげたかったな…。

 抵抗する気力を失い、とめどなく涙を流しながら伊吹は目を閉じた。

 

 諦めかけたその時、運転席の男が突然外を見て何か叫んだと同時に、車のドアがガチャガチャいった。
 男たちの視線がドアに集まり、動きが止まる。
 伊吹の首を絞めあげていた手が緩み、体内に空気が入り込んできた。

「かはっ」

 そして、窓ガラスが割られた。

 伊吹にとっては、その一つ一つが映画のスローモーションのようにしっかりと見えた。

 ガラスがドア付近に飛び散り、割れた窓から侵入した手がロックを解除し、心の中で助けを求めていた愛しい人の姿が見えた。
 伊吹を押さえつけていた男を車外へと引きずり出し、思い切り腹に蹴りを食らわせた。
 そしてガラスを踏みつけ車内へと入ってくると、今度は伊吹の股の間にいた外山を殴りつけた。
 座席は全てフラットに倒されていたため、外山は車内の後部のガラスにあたり車は大きく揺れた。
 
 伊吹は割れたガラスとは反対側のドアに身を寄せ、この隙に逃げだそうとドアに手を伸ばすが、手が震えて思うように開かない。
 知朱は伊吹に駆け寄り手足の拘束を外し、抱きしめる。

「伊吹、大丈夫!?ケガない?」
「と、とも…あ…き……」

 ガタガタ震える伊吹に、自分の着ていたジャケットをかけた知朱は、後部座席の隅で殴られうずくまっていた外山を再び睨む。

「よくも!!」

 再び殴りつけ始めた知朱に外から声がかけられた。
「井雲さん、気持ちはわかりますが、そこまでにしておいてください」

 その制服を着た男に声をかけられて外を見ると、パトランプを光らせた警察車両に囲まれていた。
 どうやら先に逃げた男二人は逮捕されたようだった。

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