蜘蛛の巣

猫丸

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 外山はだらしなく下半身を晒しながら車から転げ落ちて土の上に倒れていた。
 うつ伏せで表情は見えない。
 だが、身体を動かし、少しうめいたから意識はありそうだ。

 知朱のジャケットで身体を隠した伊吹に警察官が更に毛布をかけてくれた。
 蘇る恐怖にまだ震えが収まらない。そんな伊吹を抱きしめながら、でも視線だけは外山に向けながら知朱は話し始めた。

「外山、面白い話をしてやろう。

昔、とある金持ちの一人娘のオメガが、とあるアルファの男に恋をした。
だが男には既につがいとなっているオメガの男性がいた。
もちろんその男は断ったよ。

でも、女性の家がその地元ではちょっと有名な…かなり権力を持った家で、二人の男達の生家は逆らえなかった。
結局、男は婿養子に入り、その女性が本妻、男性は日陰の存在になった。
男達が番婚つがいこんだったとはいえ、当時法的に同性同士が婚姻関係を結ぶことは、出来なかったからねぇ。

まぁ、よくある話だろう?

アルファは何人もの番を持てるけど、オメガは相手が死なない限り、番解消はできない。
男は本妻に頼み込んで、なんとかヒートのときだけは会う事を許された。
その男性に会うために、それはもう惨めなくらい本妻の言うことは何でも聞いたらしいよ。

女は奪った側だから、始めはそれで満足して、通うことを許していたんだけど、段々それも許せなくなってね。
実家の力で男を海外勤務にさせたんだよ。

そのオメガの男性はどうなったと思う?
狂って死んだよ。
男の知らないところでね。

ちなみにそのオメガの男性には、その女と結婚する前に産まれたオメガの子供がいた。
オメガの男が死ぬとすぐ、本妻の弁護士が金を払って父親との縁を切らせる契約をさせたんだって。
しかもその子は未成年で身よりもなかったたため、よりによってその弁護士を未成年後見人にたててしまった。

それは予想外だったけどね。
結果、弁護士によってその子供は完全に父親から離された。

まぁもっとも子供の方も、ヒートのときしか来ない父親に対して愛情を持っていたかはわからないけどね。

結局、女の思惑通り全て片付いて、男が海外勤務から戻され、オメガの男性が亡くなったことを知った時には、その親子が住んでいた家には別の人間が住んでいて、子供の痕跡は一切なくなっていたんだよ。

まぁ、探そうと思えば探せたと思うけどさ。ただ、最愛の番をなくしたことによって、すぐに男の方もおかしくなってしまったしね」

「それって…」

 怒りを抑えて淡々と語る知朱からは、凄まじいアルファの威圧が伝わってきた。
 伊吹は知朱から聞かされる内容に戸惑っていた。
 今まで知らなかった親の真実。
 地面に倒れてたままの外山が聞いているのかいないのかはわからない。だが、知朱は続けた。
 
「まぁ、親のいざこざはお前のせいではないよ。
でもね、そんな母親に育てられたせいかな。
外山、お前、男性オメガにだいぶ偏見があるというか…憎んでるよね。

お前、逮捕状でてるよ。
最近ニュースになってるオメガの子達への暴行とかムリヤリうなじ噛んだりとか…あれ、お前らだろ?
うちの会社を解雇したのはその情報を掴んだからだよ。

まさか勘違いして俺の大切な人に手を出すほど馬鹿だとは思わなかったけどな。
ホント、お前の馬鹿っぷりを甘く見てた俺のミスだよな。
自分の甘さにホント反吐が出そうだよ。

あ、そうそう。お前の逮捕の情報、マスコミに全部ぶちまけたから、お前の実家の新聞社、今頃大騒ぎだろうな」
 
 黙って聞いていた外山が初めて顔を上げた。その顔は血の気が引き蒼白になっていた。

「もみ消せると思ったか?んなわけないだろ?大勢のオメガの子の人生めちゃくちゃにしといて」

 そういって伊吹を抱き抱えると、背後で待機していた警察が、一斉に外山を囲んだ。

 かしゃんと手錠のかかる音を聞きながら、知朱は震える伊吹をぎゅっと抱きしめた。

「怖い思いさせて本当にごめん…ごめん…」

 知朱の目からも後悔の涙が流れていた。
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