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七月の章
ディナー -2-
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そうして、今にいたる。
真っ先にまた寮の部屋へ探しに向かったが、今度は自室にも戻っていなかった。明らかに白石から逃げている。
授業は六限までのため、本来はもう寮に戻って自由にしていて良いのだが、白石はまだアルバートにディナーを食べさせていない。
「あー、あいつ。ほんと……」
ひとしきり広い校舎内を探し回り、白石はついに口に出して毒づき始める。
すれ違う者にたびたびアルバートの姿を見なかったかと問うたが、耳目を集める麗しい姿のわりに目撃証言もない。
「いったい、どこに行きやがった」
周囲に人がいないのを良いことに頭を掻き、呟きながら窓の外を見る。空が夕焼けに染まり、辺りが暗くなり始めている。
白石はふと、薔薇の迷宮で寝ていたアルバートの姿を思い出した。
校舎内で時間を潰せる場所を重点的に探していたが、あの男は芝生の上でも寝るのだ、ということに気づく。
白石は急ぎ薔薇の迷宮に向かった。迷宮の中に点在しているガーデンライトが灯っているだけで、辺りはもうすっかり暗くなっていた。五月には美しく咲き誇っていた薔薇の花は全て枯れて無くなっているので、今は青々とした背の高い生垣が迷宮を構築しているだけだ。
足早に迷宮を抜けていくと、中心部の芝生にのんびりと寝転ぶアルバートがいた。
白石は彼の姿を視認して一度歩みを止めると、足音を立てないようにそうっと歩いた。
だが五歩ほど歩み寄ったところでカサリと芝の音を立ててしまった瞬間、アルバートはすぐさま目を覚ました。
彼は上体を起こして白石の姿を見留め、立ち上がって逃げ出そうとする。
「アルバート様、どうかお待ちくださいっ」
白石は慌ててそばに駆け寄ると、アルバートの腕を強く掴んで引き止める。
「これからディナーです。寮に戻りましょう」
「……嫌だ」
端正な頬を膨らませ、アルバートは子供のように言い放つ。
「私のことがお嫌いですか?」
白石が言葉を重ねると、そっぽを向いていたアルバートは目を瞬かせて白石の顔を見た。そして一瞬返答に躊躇った後「無理やり食べさせようとするところが嫌いだ」と、続けた。
「食堂の料理がお嫌いですか?」
「嫌いだ。嫌いなものばっかりだ。俺はパンを好きで食べてるんだ。ほっといてほしい」
「でしたら、ぜひ私にアルバート様の好みをお教えいただけませんか? お口に合うものを作りますので」
白石の言葉に、アルバートがようやく逃げようとするのをやめた。
「君が作るの?」
「はい。恐れながら、私は普段から厨房のシェフを勤めさせていただいております。今までアルバート様のお口に合う料理を作ることができなかったこと、すべては私の力不足です。大変申し訳ございません」
白石は一息でそこまで言い切ると、アルバートの手を掴んだまま深々と頭を下げた。さきほどまで一人毒づいていた言葉は紛うことなき本心だが、この言葉もまた白石の本心だった。
アルバートは目の前で頭を下げる白石の姿を見て空色の瞳を瞬くと、少しだけバツの悪そうな顔をした。まさか目の前にいるのが、嫌いだと言い切ったものを作っていた張本人だとは思わなかったのだ。
「料理が不味いわけじゃないことは知ってるんだ。でも、俺は食べられない。家でもパンを食べていて、家族と同じ食事はしてなかったんだ。君が気にする必要はない」
「しかし、ずっと菓子パンでは栄養バランスが極端に偏ります。どうか私にもう一度、チャンスを与えてはくださいませんか?」
白石は、真剣な眼差しでアルバートを見つめながら言葉を続けた。
全校生徒のために作る料理が、すべての生徒の好みに合う物だとは思わない。しかし白石も給料をもらって料理を提供しているプロとして、カビの生えた菓子パンの方が上だと言われるようなものを作っているつもりもなかった。
要は好みの問題なのだ、と白石は思う。アルバートの好みを聞くことができれば、彼のためだけの料理を作ることができるだろうと考えていた。
しばしの沈黙の後、アルバートは白石の眼差しに根負けしたように、ポツポツと話し始めた。
「野菜全般が嫌い。肉の塊とか、魚も嫌。あと酸っぱいものも嫌い。苦いのも。複雑な味とか分からないし、美味しいと思ったこともない。作法とか細々していて、食べるのが面倒だと食欲がなくなる」
「なるほど……」
アルバートの好みを聞き、白石は、確かに食堂の食事は辛いだろうと感じていた。
食堂といっても、鷹鷲高校の食堂で提供される料理は一般的な高校の学食のメニューとはまったく異なる。
フレンチ、イタリアン、和食、中華と日によってさまざまなジャンルの料理が用意されるが、特にディナーはフレンチのコースが多い。高級レストランで提供されるものと何ら遜色ないメニューであるがゆえに、味は複雑だし気軽さはない。栄養バランスも考えられているため野菜も多いし、コースのメインとしてステーキが出されるのも一般的だ。
白石はしばらく考え込んだ後、またアルバートの腕を引いた。
「寮に戻りましょう。アルバート様を、私がきっと満足させてみせます」
白石はアルバートを、食堂に隣接する厨房へと連れて行った。華やかな食堂の裏方にあたるその場所は綺麗に整備されてはいるものの、本来はマスターが入る場所ではない。
アルバートは興味深げに厨房の中をキョロキョロと眺めている。
今食堂では、マスターたちがフレンチのフルコースに舌鼓を打っている真最中だ。それは白石が五、六限の間に仕込みと指示を済ませた料理の数々である。
現在厨房では、七人の調理担当の生徒が、白石が残していった指示に沿って一皿一皿を仕上げるために働いていた。ただし大方の調理はすでに済んでいるため、そこまでの慌ただしさはない。
「あれ、シェフどうしたんですか。それと……」
一人のコックコート姿の生徒が白石に気づく。さらに、その背後にいるアルバートの姿を見留め困惑気味だ。彼は二年生でスーシェフを担当しているバトラーだ。二年生はマスターとまだ接触機会がないため、突然やってきたアルバートにどう対応をしたら良いのかが分からないのだ。
「ちょっとな。俺たちのことは気にしなくていいから、皆自分の仕事に集中してくれ。この鉄板借りるぞ」
白石は制服のジャケットを脱ぐと、ベストの上にエプロンをつけた。そして厨房の片隅の、普段はステーキなどを焼く鉄板の前に立つ。そのそばに、厨房にあった折り畳み机と椅子を出し、予備のテーブルクロスを広げる。
「アルバート様、どうぞこちらに」
呼ぶと、アルバートは大人しく即席のテーブルについた。折りたたみ椅子はチープなつくりで、貴族が座るような代物ではない。だが、アルバートはそのあたりについては気にした様子がなかった。
白石はアルバートが腰を落ち着けたのを見ると、すぐさま冷蔵庫から食材を取り出してくる。キャベツに豚バラ肉、卵、薄力粉。食堂として提供するメニューに必要な食材に手を出すわけにはいかないため、それらは白石の私物であったり、多少工夫すれば自由に回せる分量を取ってきたものだったりする。欲しいものすべてがあるわけではないが、仕方がないものは諦める。
「アルバート様、餅はお嫌いではないですか?」
問いかけ、アルバートが頷くのを見ると、餅も取り出して調理台へと戻ってくる。
「キャベツは嫌い」
「大丈夫ですよ」
白石の手にしたものを見てアルバートが口を挟む。だが白石は笑いながら鉄板に火を入れると、見事な手際でキャベツを刻み始めた。
「キャベツは嫌いだぞ」
「はいはい」
しつこい主張を適当に流しながら、ボウルに薄力粉、出汁と卵、最後に水を入れてざっくり混ぜ、そこに刻んだキャベツ、薄切りにした餅を入れてまた混ぜる。鉄板に油を引くと、出来上がった生地を流し込み、その上に薄い豚バラ肉を広げる。
ジュウジュウと焼ける音が広がった。焼き色を確認しながら、完璧なタイミングでひっくり返す。こんがりとした狐色の焼き目が最高に食欲をそそる。
白石は焼き上げた生地の上に、ソースとマヨネーズ、鰹節を振りかけていく。もちろん、誰がどう見てもお好み焼きだ。フレンチ一色だった厨房にソースの香ばしい香りが広がって、調理をしていた生徒たちも興味深げにこちらを見ては、羨ましそうな顔をする。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
熱々のお好み焼きを皿へと乗せ、白石はすぐさまアルバートの前へと提供すると、箸を手渡した。
「これは……?」
アルバートはお好み焼きを目にして、不思議そうな顔をしている。
「お好み焼きといいます。味付けもすべて済んでおりますので、これだけ食べていただければ大丈夫です」
そう説明をしながら、ワイングラスを用意し、水を注ぐとテーブルの上に乗せる。
アルバートはクンクンとソースの匂いを嗅いだ後、箸を手にしてお好み焼きを食べ始めた。最初の一口はごく小さく。それからすぐに二口目、三口目と続く。彼がそれを気に入ったのは、食べ方と表情からして明白だった。
様子を見て、白石はふっと口元を綻ばせる。
実に奇妙な光景だった。絵画のように美しい見目をした男が、厨房の片隅で貧相な机に不釣り合いな高級テーブルクロスを引き、夢中でお好み焼きを食べている。
白石は味の感想を求めることなく、二枚目のお好み焼きを焼き始めた。
モーニングもランチも、白石はアルバートに無理矢理食堂の料理を食べさせが、彼が実際に飲み込んだ量は少なかった。アルバートほどの体格の、しかも育ち盛りである男子高校生の腹が満ちる量ではない。そのことは白石も自身の感覚としてよく分かっている。
結局、アルバートはお好み焼きを四枚完食した。
白石は最後に、冷凍庫から出してきたバニラアイスにチョコレートソースをかけた、ちょっとしたデザートを作る。
アルバートの部屋にあった菓子パンは、焼きそばパンなどの惣菜系と、上にチョコレートがかかったものが半々の割合であったのだ。
そのガラスの器を静かにテーブルの上へと置いた瞬間。アルバートは無言で立ち上がると、白石の手を両手で握った。
「俺は、毎日君の手料理が食べたい」
瞳を見つめられ、情熱的に囁かれる言葉。まるで古臭いプロポーズのようである。
白石は数回目を瞬くと、ふっと笑顔を浮かべて言った。
「食堂に来ていただければ、毎日食べられますよ」
真っ先にまた寮の部屋へ探しに向かったが、今度は自室にも戻っていなかった。明らかに白石から逃げている。
授業は六限までのため、本来はもう寮に戻って自由にしていて良いのだが、白石はまだアルバートにディナーを食べさせていない。
「あー、あいつ。ほんと……」
ひとしきり広い校舎内を探し回り、白石はついに口に出して毒づき始める。
すれ違う者にたびたびアルバートの姿を見なかったかと問うたが、耳目を集める麗しい姿のわりに目撃証言もない。
「いったい、どこに行きやがった」
周囲に人がいないのを良いことに頭を掻き、呟きながら窓の外を見る。空が夕焼けに染まり、辺りが暗くなり始めている。
白石はふと、薔薇の迷宮で寝ていたアルバートの姿を思い出した。
校舎内で時間を潰せる場所を重点的に探していたが、あの男は芝生の上でも寝るのだ、ということに気づく。
白石は急ぎ薔薇の迷宮に向かった。迷宮の中に点在しているガーデンライトが灯っているだけで、辺りはもうすっかり暗くなっていた。五月には美しく咲き誇っていた薔薇の花は全て枯れて無くなっているので、今は青々とした背の高い生垣が迷宮を構築しているだけだ。
足早に迷宮を抜けていくと、中心部の芝生にのんびりと寝転ぶアルバートがいた。
白石は彼の姿を視認して一度歩みを止めると、足音を立てないようにそうっと歩いた。
だが五歩ほど歩み寄ったところでカサリと芝の音を立ててしまった瞬間、アルバートはすぐさま目を覚ました。
彼は上体を起こして白石の姿を見留め、立ち上がって逃げ出そうとする。
「アルバート様、どうかお待ちくださいっ」
白石は慌ててそばに駆け寄ると、アルバートの腕を強く掴んで引き止める。
「これからディナーです。寮に戻りましょう」
「……嫌だ」
端正な頬を膨らませ、アルバートは子供のように言い放つ。
「私のことがお嫌いですか?」
白石が言葉を重ねると、そっぽを向いていたアルバートは目を瞬かせて白石の顔を見た。そして一瞬返答に躊躇った後「無理やり食べさせようとするところが嫌いだ」と、続けた。
「食堂の料理がお嫌いですか?」
「嫌いだ。嫌いなものばっかりだ。俺はパンを好きで食べてるんだ。ほっといてほしい」
「でしたら、ぜひ私にアルバート様の好みをお教えいただけませんか? お口に合うものを作りますので」
白石の言葉に、アルバートがようやく逃げようとするのをやめた。
「君が作るの?」
「はい。恐れながら、私は普段から厨房のシェフを勤めさせていただいております。今までアルバート様のお口に合う料理を作ることができなかったこと、すべては私の力不足です。大変申し訳ございません」
白石は一息でそこまで言い切ると、アルバートの手を掴んだまま深々と頭を下げた。さきほどまで一人毒づいていた言葉は紛うことなき本心だが、この言葉もまた白石の本心だった。
アルバートは目の前で頭を下げる白石の姿を見て空色の瞳を瞬くと、少しだけバツの悪そうな顔をした。まさか目の前にいるのが、嫌いだと言い切ったものを作っていた張本人だとは思わなかったのだ。
「料理が不味いわけじゃないことは知ってるんだ。でも、俺は食べられない。家でもパンを食べていて、家族と同じ食事はしてなかったんだ。君が気にする必要はない」
「しかし、ずっと菓子パンでは栄養バランスが極端に偏ります。どうか私にもう一度、チャンスを与えてはくださいませんか?」
白石は、真剣な眼差しでアルバートを見つめながら言葉を続けた。
全校生徒のために作る料理が、すべての生徒の好みに合う物だとは思わない。しかし白石も給料をもらって料理を提供しているプロとして、カビの生えた菓子パンの方が上だと言われるようなものを作っているつもりもなかった。
要は好みの問題なのだ、と白石は思う。アルバートの好みを聞くことができれば、彼のためだけの料理を作ることができるだろうと考えていた。
しばしの沈黙の後、アルバートは白石の眼差しに根負けしたように、ポツポツと話し始めた。
「野菜全般が嫌い。肉の塊とか、魚も嫌。あと酸っぱいものも嫌い。苦いのも。複雑な味とか分からないし、美味しいと思ったこともない。作法とか細々していて、食べるのが面倒だと食欲がなくなる」
「なるほど……」
アルバートの好みを聞き、白石は、確かに食堂の食事は辛いだろうと感じていた。
食堂といっても、鷹鷲高校の食堂で提供される料理は一般的な高校の学食のメニューとはまったく異なる。
フレンチ、イタリアン、和食、中華と日によってさまざまなジャンルの料理が用意されるが、特にディナーはフレンチのコースが多い。高級レストランで提供されるものと何ら遜色ないメニューであるがゆえに、味は複雑だし気軽さはない。栄養バランスも考えられているため野菜も多いし、コースのメインとしてステーキが出されるのも一般的だ。
白石はしばらく考え込んだ後、またアルバートの腕を引いた。
「寮に戻りましょう。アルバート様を、私がきっと満足させてみせます」
白石はアルバートを、食堂に隣接する厨房へと連れて行った。華やかな食堂の裏方にあたるその場所は綺麗に整備されてはいるものの、本来はマスターが入る場所ではない。
アルバートは興味深げに厨房の中をキョロキョロと眺めている。
今食堂では、マスターたちがフレンチのフルコースに舌鼓を打っている真最中だ。それは白石が五、六限の間に仕込みと指示を済ませた料理の数々である。
現在厨房では、七人の調理担当の生徒が、白石が残していった指示に沿って一皿一皿を仕上げるために働いていた。ただし大方の調理はすでに済んでいるため、そこまでの慌ただしさはない。
「あれ、シェフどうしたんですか。それと……」
一人のコックコート姿の生徒が白石に気づく。さらに、その背後にいるアルバートの姿を見留め困惑気味だ。彼は二年生でスーシェフを担当しているバトラーだ。二年生はマスターとまだ接触機会がないため、突然やってきたアルバートにどう対応をしたら良いのかが分からないのだ。
「ちょっとな。俺たちのことは気にしなくていいから、皆自分の仕事に集中してくれ。この鉄板借りるぞ」
白石は制服のジャケットを脱ぐと、ベストの上にエプロンをつけた。そして厨房の片隅の、普段はステーキなどを焼く鉄板の前に立つ。そのそばに、厨房にあった折り畳み机と椅子を出し、予備のテーブルクロスを広げる。
「アルバート様、どうぞこちらに」
呼ぶと、アルバートは大人しく即席のテーブルについた。折りたたみ椅子はチープなつくりで、貴族が座るような代物ではない。だが、アルバートはそのあたりについては気にした様子がなかった。
白石はアルバートが腰を落ち着けたのを見ると、すぐさま冷蔵庫から食材を取り出してくる。キャベツに豚バラ肉、卵、薄力粉。食堂として提供するメニューに必要な食材に手を出すわけにはいかないため、それらは白石の私物であったり、多少工夫すれば自由に回せる分量を取ってきたものだったりする。欲しいものすべてがあるわけではないが、仕方がないものは諦める。
「アルバート様、餅はお嫌いではないですか?」
問いかけ、アルバートが頷くのを見ると、餅も取り出して調理台へと戻ってくる。
「キャベツは嫌い」
「大丈夫ですよ」
白石の手にしたものを見てアルバートが口を挟む。だが白石は笑いながら鉄板に火を入れると、見事な手際でキャベツを刻み始めた。
「キャベツは嫌いだぞ」
「はいはい」
しつこい主張を適当に流しながら、ボウルに薄力粉、出汁と卵、最後に水を入れてざっくり混ぜ、そこに刻んだキャベツ、薄切りにした餅を入れてまた混ぜる。鉄板に油を引くと、出来上がった生地を流し込み、その上に薄い豚バラ肉を広げる。
ジュウジュウと焼ける音が広がった。焼き色を確認しながら、完璧なタイミングでひっくり返す。こんがりとした狐色の焼き目が最高に食欲をそそる。
白石は焼き上げた生地の上に、ソースとマヨネーズ、鰹節を振りかけていく。もちろん、誰がどう見てもお好み焼きだ。フレンチ一色だった厨房にソースの香ばしい香りが広がって、調理をしていた生徒たちも興味深げにこちらを見ては、羨ましそうな顔をする。
「さあ、冷めないうちにどうぞ」
熱々のお好み焼きを皿へと乗せ、白石はすぐさまアルバートの前へと提供すると、箸を手渡した。
「これは……?」
アルバートはお好み焼きを目にして、不思議そうな顔をしている。
「お好み焼きといいます。味付けもすべて済んでおりますので、これだけ食べていただければ大丈夫です」
そう説明をしながら、ワイングラスを用意し、水を注ぐとテーブルの上に乗せる。
アルバートはクンクンとソースの匂いを嗅いだ後、箸を手にしてお好み焼きを食べ始めた。最初の一口はごく小さく。それからすぐに二口目、三口目と続く。彼がそれを気に入ったのは、食べ方と表情からして明白だった。
様子を見て、白石はふっと口元を綻ばせる。
実に奇妙な光景だった。絵画のように美しい見目をした男が、厨房の片隅で貧相な机に不釣り合いな高級テーブルクロスを引き、夢中でお好み焼きを食べている。
白石は味の感想を求めることなく、二枚目のお好み焼きを焼き始めた。
モーニングもランチも、白石はアルバートに無理矢理食堂の料理を食べさせが、彼が実際に飲み込んだ量は少なかった。アルバートほどの体格の、しかも育ち盛りである男子高校生の腹が満ちる量ではない。そのことは白石も自身の感覚としてよく分かっている。
結局、アルバートはお好み焼きを四枚完食した。
白石は最後に、冷凍庫から出してきたバニラアイスにチョコレートソースをかけた、ちょっとしたデザートを作る。
アルバートの部屋にあった菓子パンは、焼きそばパンなどの惣菜系と、上にチョコレートがかかったものが半々の割合であったのだ。
そのガラスの器を静かにテーブルの上へと置いた瞬間。アルバートは無言で立ち上がると、白石の手を両手で握った。
「俺は、毎日君の手料理が食べたい」
瞳を見つめられ、情熱的に囁かれる言葉。まるで古臭いプロポーズのようである。
白石は数回目を瞬くと、ふっと笑顔を浮かべて言った。
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