鷹鷲高校執事科

三石成

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八月の章

ヴァカンスの始まり -2-

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 宗一郎の所有している別荘は、湘南の葉山にある。現地までは、常陸院家お抱えの運転手が運転するリムジンで移動した。

 東條にとっては、自分がリムジンに乗るのは生まれて初めてのこと。まるで予期していなかった展開に、先ほどまで感じていた空腹もどこかへ吹き飛んでいた。

 別荘に着いたのは、学校を出てから二時間後。

 それは眩いほどの白い外壁を持つ、直線と曲線が入り混じるモダンな建物だった。大きさの印象的には、別荘というよりも小規模なホテルに近い。

 プライベートビーチに隣接しており、中庭には海と繋がっているかのような錯覚を起こすインフィニティプールが広がっている。その中庭を臨む中心に広いリビング、さらに繋がったダイニングがあり、そこから各部屋にバスルームを備えた客室が放射状に設置されている。

「すっごい、本当にすごい!」

 リムジンに乗ってからしばらくの間は悪かった水島の機嫌も、豪華すぎる別荘の様子にすっかり持ち直した。彼は別荘中を探検しながら大興奮の様子だ。

「ここは俺が気に入って父親からもらった別荘だからな。そう言ってもらえて何よりだ。皆、好きな部屋を使ってくれて構わないからな」

「宗一郎の部屋はどこ?」

「俺はここ」

 宗一郎は部屋の中の一室を指で指し示す。ここまでリムジンを運転してきた常陸院家お抱えの運転手はすでにそのことを了承しており、宗一郎が言う前から彼の荷物を運び込んでいた。

「じゃあ僕その隣にするー」

「俺はいつものところで」

 楽しそうに宣言する水島の隣で明彦が言う。

「いつものって、明彦は前にも来たことあるの?」

「うん。実は高校入学してから毎年、夏休みに連れてきてもらってるんだよね」

「いつもは俺と明彦の二人だけだがな」

「へー、二人って本当仲良しだよね」

 三人の会話を聞きながら、東條は控え目に、しかし抜かりなく別荘の中を見て回る。なにしろ、一週間ここでマスター二人の身の回りの世話をしなくてはならないのだ。建物の構造と部屋の位置関係、生活に必要な物がどこに置いてあるかなどを頭に入れていく。

「東條はどの部屋を使うか決めたのか?」

 東條がキッチンを確認していると、そばに来た宗一郎に問いかけられた。

「使用人用の部屋をお作りになっていないのですね」

「区別する必要はないからな。俺がいつも使ってるところを含めて、部屋は全部同じ作りになってる。あ、部屋を使わないとか言い出すのは、さすがにないからな」

 平民感覚からすると豪華すぎる部屋の作りを目の前に、半ば考えかけていたことに釘を刺された。東條は思わず笑ってしまう。

「承知いたしました。ではキッチンに一番近い、そちらのお部屋を使わせていただきます。ディナーのお時間は何時にいたしましょうか?」

「俺たちだけなんだから自由にすればいい」

 宗一郎は特に気にする様子もなく言うと、もう一歩東條へと近づいた。

「それで? ここは学校じゃなくて俺の別荘だ。お前の服だってバトラーの格好でもない。その堅苦しい言葉遣いを改める気はないか?」

 顔を合わせるたびに言われていることを再度問われ、東條は安心感に近いものを覚えながら微笑む。

「場所と服装が変わりましても、わたくしと宗一郎様の身分は変わりませんので……では、六時ごろにはディナーを始められるように、支度に取り掛からせていただきますね」

 東條の返事を聞いて、宗一郎もまた、どこか楽しげに笑った。

「食事の内容も、凝ったものにしなくていいんだぞ」

「はい。申し訳ございませんが、学校で提供されるような食事はご用意できません。白石は鷹鷲が誇るシェフですので」

「そういうことでもないんだが……」

「ねー、そーいちろー、プール入ってもいい?」

 二人で話しているとリビングの方から水島の声がかかり、宗一郎は東條の様子を気にしながらも、そちらへと戻っていく。

 キッチンに一人残された東條は、早速プールで遊び始めた三人の様子を感じながら、さっそく食事の支度を始めることにした。水島を呼ぶこともない。

 東條は水島が宗一郎にタメ口を使い始めた当初、彼の態度を腹立たしく思っていた。目に余る行動だと感じた時には一度ならず嗜める言葉を口にしたこともある。

 だが、水島が宗一郎と明彦に対して気安くなってから、もう三ヶ月以上が経過している。いくら頑固なところのある東條とはいえ、いい加減慣れてしまっていた。

 当の宗一郎と明彦は水島に気分を害している様子はない。また、水島の人懐こく、元気な姿は場を明るくさせる。東條の中では、水島はすでにバトラー仲間というよりも、宗一郎と明彦の友人であるという感覚の方が強い。

 冷蔵庫を開き、用意されている食材を確認する。東條は頭の中でメニューを組み立てながら、キッチンにしまわれていたエプロンを身につけたのだった。
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