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3章 本を旅する
3章 本を旅するー9
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「私はただ、本中さんの持ち物、のような感じで連れてこられているだけなんです」
「へええ。そんなことが出来るの。私は友達を連れて入れなかったわ」
私と戸成さんは顔を見合わせました。初めから当り前に入れていたので、そういうものだと思っていたのです。
「昔ね、本当に信頼できる友達に、この能力のことを話したことがあって、その子も試したけど、本に入れることは無かった。いつの間にか音信不通になってしまってもう何年も会わないままだけど、本気で信じてくれて、試したのだけど。その子も小説を書くんだけど、彼女にはできなかった。何度試しても出来なかったから、でも例が少なすぎて分からないままだったわ」
「明子さんは自分以外に本の中に入れた人に会ったことが無いんですか?」
「ええ、無いわ。あなたみたいにお友達と入れたら楽しいでしょうね。他の人で試したことはあるの?」
「別の知り合いで試したことはあります。彼の書いた小説の中に、私が彼を連れて一緒に入ったんです」
別所さんのことです。
「へぇ、他の人でも入れたのね…」
「そうなんです。でもいまいちこの能力がよく分からなくて、情報を手探りで集めている状態で、あなたに会いたいと思って来たんです」
「なるほどね。でもお役に立てるかしら。私は何も知らないし、今話しただけでも大分相違点があるわ」
「そうですね…」
「いやでも」
私が話に割って入りました。
「本中さんと明子さんは、本の中に入るやり方も同じだし、二人とも文章を書くわけだし、私は同じ能力なんじゃないかと思います。私が入れて、明子さんの御友人が本の世界に入れなかったのは何か理由があるんじゃないかと」
「でもその理由が分からないのよ」
「それに分かってどうするの? 何度も言ってるけど、解明されたらこの能力はなくなるかもよ。なんだか特殊な、夢を見る方法なのかも」
私はそれを聞いてさすがにそうだと本中さんが本気で思っているわけはないと思いました。なのにそこまで言う本中さんに私は言い返してしまいました。
「それにしては高度過ぎるよ。なんでそう本中さんは、自分の力を解明することにそんなに消極的なの」
「それは……」
本中さんは言葉に詰まり、しばらくしてから
「戸成さんは、解明されたら私と一緒にいてくれなくなるでしょ」
と呟きました。
「えっ」
私は予想外の返答に驚くことしかできず、またどこかで冷静な自分が本中さんはこういう予想外に執着心が強くて子供っぽい所があったと思い出していました。
「そんなことはないでしょ、何を言ってるんですか」
「もし一人で本の世界に入れるようになったら、戸成さんは一人で入ってしまうでしょ。そんなの寂しい。それに能力の解明なんかする時間があったら、本の世界に入ってる方が楽しいでしょ。時間は有限なんだよ」
さっきの一言を弁解するように、本中さんは早口でまくしたてました。喧嘩のようになっている私たちに、まあまあと明子さんが割って入ります。
「そう興奮しないで。でも私が分からなかった分、あなた達がこの現象を解明してくれたらと思うわ。そうしたらもっとたくさんの人が本の世界を楽しめるかもしれないし、もやもやがすっきりするもの」
「そう、それですよ」
私は明子さんの一言で自分が思っていたことがはっきりとした気がしてつい叫びました。
「謎が解けたら面白いし、すっきりするじゃないですか。私が本中さんの能力を解明したいのは、別に自分一人で本の世界に入りたいからじゃないですよ。それに、解明したところで、小説も書かない私が、自力で本の世界に入れるとは思いません」
「戸成さん……なんか今日元気だね」
さっきまでまくしたてていた本中さんが、少し落ち着いて言いました。
「本の世界では私はいつも元気ですよ。やっぱり解明しましょう。本中さん。そのためには私たちはこの明子さんではなく、本物の明子さん、に会う必要があると思います」
「私ではなくて、ということ?」
明子さんが自分を指さして言います。
「本中さんが言ったじゃないですか。現実の人間には続きがあると。現実の明子さんは、もしかしたらこの時点での明子さん以上の情報を持っているかもしれません」
「確かに、それはそうね。私は自分でも、なんというか安定した、隠居して変わらない存在、という気が自分でするもの」
明子さんは自分で言いながら頷きました。
「じゃあ私の住所を言うわ。覚えて」
私と本中さんは明子さんが言った住所を復唱して覚えました。メモを持っていれば良かったのですが、今日は持っていませんでした。
「ねえ戸成さん、これ結構遠いけど」
「仕方ないですよ、言ってみましょう。なんでしたっけ、ファンタジー研の夏の目標だそうですし」
「まぁ、いいか。大学生だしね」
我々は住所を忘れないうちにすぐに外に出ました。
「へええ。そんなことが出来るの。私は友達を連れて入れなかったわ」
私と戸成さんは顔を見合わせました。初めから当り前に入れていたので、そういうものだと思っていたのです。
「昔ね、本当に信頼できる友達に、この能力のことを話したことがあって、その子も試したけど、本に入れることは無かった。いつの間にか音信不通になってしまってもう何年も会わないままだけど、本気で信じてくれて、試したのだけど。その子も小説を書くんだけど、彼女にはできなかった。何度試しても出来なかったから、でも例が少なすぎて分からないままだったわ」
「明子さんは自分以外に本の中に入れた人に会ったことが無いんですか?」
「ええ、無いわ。あなたみたいにお友達と入れたら楽しいでしょうね。他の人で試したことはあるの?」
「別の知り合いで試したことはあります。彼の書いた小説の中に、私が彼を連れて一緒に入ったんです」
別所さんのことです。
「へぇ、他の人でも入れたのね…」
「そうなんです。でもいまいちこの能力がよく分からなくて、情報を手探りで集めている状態で、あなたに会いたいと思って来たんです」
「なるほどね。でもお役に立てるかしら。私は何も知らないし、今話しただけでも大分相違点があるわ」
「そうですね…」
「いやでも」
私が話に割って入りました。
「本中さんと明子さんは、本の中に入るやり方も同じだし、二人とも文章を書くわけだし、私は同じ能力なんじゃないかと思います。私が入れて、明子さんの御友人が本の世界に入れなかったのは何か理由があるんじゃないかと」
「でもその理由が分からないのよ」
「それに分かってどうするの? 何度も言ってるけど、解明されたらこの能力はなくなるかもよ。なんだか特殊な、夢を見る方法なのかも」
私はそれを聞いてさすがにそうだと本中さんが本気で思っているわけはないと思いました。なのにそこまで言う本中さんに私は言い返してしまいました。
「それにしては高度過ぎるよ。なんでそう本中さんは、自分の力を解明することにそんなに消極的なの」
「それは……」
本中さんは言葉に詰まり、しばらくしてから
「戸成さんは、解明されたら私と一緒にいてくれなくなるでしょ」
と呟きました。
「えっ」
私は予想外の返答に驚くことしかできず、またどこかで冷静な自分が本中さんはこういう予想外に執着心が強くて子供っぽい所があったと思い出していました。
「そんなことはないでしょ、何を言ってるんですか」
「もし一人で本の世界に入れるようになったら、戸成さんは一人で入ってしまうでしょ。そんなの寂しい。それに能力の解明なんかする時間があったら、本の世界に入ってる方が楽しいでしょ。時間は有限なんだよ」
さっきの一言を弁解するように、本中さんは早口でまくしたてました。喧嘩のようになっている私たちに、まあまあと明子さんが割って入ります。
「そう興奮しないで。でも私が分からなかった分、あなた達がこの現象を解明してくれたらと思うわ。そうしたらもっとたくさんの人が本の世界を楽しめるかもしれないし、もやもやがすっきりするもの」
「そう、それですよ」
私は明子さんの一言で自分が思っていたことがはっきりとした気がしてつい叫びました。
「謎が解けたら面白いし、すっきりするじゃないですか。私が本中さんの能力を解明したいのは、別に自分一人で本の世界に入りたいからじゃないですよ。それに、解明したところで、小説も書かない私が、自力で本の世界に入れるとは思いません」
「戸成さん……なんか今日元気だね」
さっきまでまくしたてていた本中さんが、少し落ち着いて言いました。
「本の世界では私はいつも元気ですよ。やっぱり解明しましょう。本中さん。そのためには私たちはこの明子さんではなく、本物の明子さん、に会う必要があると思います」
「私ではなくて、ということ?」
明子さんが自分を指さして言います。
「本中さんが言ったじゃないですか。現実の人間には続きがあると。現実の明子さんは、もしかしたらこの時点での明子さん以上の情報を持っているかもしれません」
「確かに、それはそうね。私は自分でも、なんというか安定した、隠居して変わらない存在、という気が自分でするもの」
明子さんは自分で言いながら頷きました。
「じゃあ私の住所を言うわ。覚えて」
私と本中さんは明子さんが言った住所を復唱して覚えました。メモを持っていれば良かったのですが、今日は持っていませんでした。
「ねえ戸成さん、これ結構遠いけど」
「仕方ないですよ、言ってみましょう。なんでしたっけ、ファンタジー研の夏の目標だそうですし」
「まぁ、いいか。大学生だしね」
我々は住所を忘れないうちにすぐに外に出ました。
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