48 / 63
4章 本を探す
4章 本を探すー1
しおりを挟む「戸成さーん、もらっていいって!」
喜び勇んで戻って来たのに、戸成さんはそこにはいなかった。トイレにでも行ったのだろうか。
しかし、トイレにも、どこにも戸成さんの姿はない。一人さんと重垣も呼び、一緒に探したがどこにもいない。
「背が低いから、どこかに隠れてるんじゃないか」
なんて冗談を言っていた重垣だったが、そうも言っていられなくなってきた。
「どうしたんだろ」
私はだんだん不安になって来た。先ほど喧嘩のようになってしまったし、怒ってどこかに行ってしまったのだろうか? しかし、戸成さんがそういうことをするとは思わないし、人が消えると言って、私の中では一つしか答えはない。戸成さんが本の中に入ってしまったということだ。
しかしそんなことが戸成さんに出来たのか。私は戸成さんがそんなことが出来るとは一度も聞いたことが無かった。隠していた? しかし隠して何の意味があると言うのか。それにさっきのあの怒り方からしてそれは無いだろう。
「重垣、とりあえず一人さんをどこかに連れて行って」
私は巻き込んでしまったのでおろおろしている一人さんにどこかに行ってもらわなければ能力は使えないと思い、重垣に耳打ちする。重垣は喉が渇いたなどと言って一人さんを連れ去ってくれた。
どうせ本の中に入ればいるのだろう、と思っていた。きっと本の世界に夢中になって、時間のことを忘れているだけだろう。戸成さんが先ほどいた辺りに本が落ちていた。明子さんの本だ。不自然に落ちているし、きっとこれだという気がした。
あまり心配してはいなかった。私が心配していたのは別のことで、本の世界に自分の力で自由に入れるようになってしまった戸成さんは、もう私とは仲良くはしてくれないんじゃないだろうか、ということだった。
戸成さんは高校時代から今に至るまで、友達が少なかった。しかしそれは私が数少ない選ばれた人間だということを意味するわけではなくて、戸成さんにはたくさんの友達は要らないということだ。というか、友達なんて要らないんじゃないかとすら思う。あの人は小説や漫画があれば幸せな人なのだ。私にとっては戸成さんは大事な親友だが、戸成さんにとってはそうではないのかもしれない。
戸成さんにとって私が何故価値があるのかと言われれば、私に人に無い特別な能力があるからだ。もしそれが特別ではなくなってしまったら、戸成さんは私から離れるのではないだろうか。
高校を卒業してから、その予感は日に日に濃くなった。私には戸成さん以外に戸成さんと同じくらい大事な親友がいたが、彼女とは卒業して私が地元を離れる日、あんなに寂しくなる、連絡すると言ったのに、連絡の頻度はすぐに下がった。友情の火というものは簡単に弱まる。戸成さんも、法学部に私以外の友達が出来た。私にだって出来た。だから友達がいなくて執着しているわけではないのだ。大学の毎日授業で会う友達が、高校時代の友達を上回るなんて簡単なことだ。
でも戸成さんは私にとって、本の世界を楽しくしてくれる唯一の友人だった。一緒に本の世界に入ると、一人で入るより本の世界がなにか違ったように感じた。道路の脇道、お店の陳列、なにか鮮明に見えるような気がした。その時間を失うのは惜しかった。
それにもし、私と同じ能力の人間が他に現れたり、そしてそれが男だったりしたら、戸成さんはその男と付き合ってしまったりするんじゃないか。女子の友達はすぐに彼氏を優先させる。私はそれは仕方のないことだと思う。しかし、戸成さんにそれをされたら、私はとても、寂しい。
戸成さんは何を考えて生きているのだろう? 私は戸成さんがどう考えて私と一緒にいてくれるのか知りたかった。ただなんとなく私が声をかけるから一緒にいるのか、一応選んで私といるのか。私は前者だと言う気がした。
別所さんの一件から、なんとなく書いてみようと思った小説も、考え始めると上手く進まなかった。またスランプだ。
そんなことを考え始めたのは、重垣のせいだった。重垣に呼び出されたのは夏休みに入る前だ。別所さんの件から少し経ったころだろうか、元々仲は悪くなかったから、その前にも重垣と他の友人との飲み会に行ったりしたことはあった。私は未成年だから飲み会といっても飲めないが、重垣は本当に酒を飲んでいないのかと疑うほどいつも元気に場を盛り上げる。しかしその日は様子が違った。
「相談なんだ。どうすればあの、戸成と付き合えると思う?」
「は?」
手にしていた烏龍茶を口に含もうとしてこぼした。「おい、何やってんだよ」と重垣が布巾で拭いてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる