本を歩け!

悠行

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4章 本を探す

4章 本を探すー2

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 聞けば戸成さんのもつ独特の雰囲気に惚れたなどと抜かす。実際の所、私はそんな気がしていた。重垣が戸成さんに話しかける時の馴れ馴れしさ、二人で話しているのにやたらと戸成さんのことを聞くことやファンタジー研にやたらと入りたがったところ。私の方が先に知り合って、いつも私がコーヒーが好きだと言っているのに、重垣は戸成さんに合わせて紅茶を買ってくる。
 私は正直重垣と戸成さんに付き合って欲しくないと思ったし、それ以前の問題として戸成さんは重垣と付き合わないだろうと思っていた。だから適当にアドバイスすらした。
 しかし、重垣が
「俺も漫画の世界に入れるようになったかもしれん」
 と言いだしたのだ。
「確認させて」
 私の口から最初に漏れたのはそれだった。私は自分が出来るにもかかわらず、そんなことできるわけない、と思った。しかし重垣の言うことは本当だった。重垣は漫画の世界に入れる能力を持っていた。私の目の前で漫画の世界に入って、出て来た。
「昨日な、こんなことが出来るって気づいたんだ。本中が入って行くのを見て、漫画で真似してみたけど前は出来なかった。でも昨日やってみたら出来たんだ。なぁ、なんなんだこの力は?」
「重垣、その昨日と前に試した間で、何か変わったことした? 漫画関係で」
 重垣はうーんと唸った。
「まだプロットだけど……、本中や別所さんが小説書いてるの見て、俺も漫画、もっとちゃんと描いてみようと思って。それで書き始めたんだ」
「どんな話?」
「いや、それは」
「笑うなよ」
「笑わないよ」
「俺みたいな男が、恋愛するような話」
 それを聞いてふと、もしかして、と思った。この能力は自分を物語の主人公にすると発症するのではないか? しかしまだ仮説だ。それに、世の中の自分を主人公にした作家がみんなこの能力を手に入れているとは思えない。
 そうなのだろうか? もしかしてこれはみんな言っていないだけで作家は実は出来るのだろうか? しかしこんな面白いこと、作家がみんな黙っているとは思えない。もし作家が皆この力を手に入れているなら、そういう話が世の中にごまんと溢れていることだろう。
 私は分からないのだと言った。私は重垣に、「この話は絶対に戸成さんの前でするな」と口止めした。その言葉は気づいたら言っていた。特に深い考えはなかったが、子供じみた考えで、重垣に戸成さんを取られると思ったのだ。
「なんでだ。信頼できるやつなんだから話したいんだけど。本中は戸成に言ってるんだろ」
「……こういうことが出来るってことが、広まることは良いことじゃない。戸成さんは小説の世界に自分で入れるわけじゃないし。もし漫画の世界に入れることを誰かに話したいのなら、私が聞く」
 私がどうしても嫌がったからか重垣は、渋々了解した。もしばれたら、戸成さんは重垣の方に行ってしまうんじゃないか。戸成さんは漫画も好きなのだ。だから知られるのが嫌だと思ってしまった。しかし、友達だから隠し事は出来ないと言ってしまった。
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