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4章 本を探す
4章 本を探すー3
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どう謝ろうかと考えて、しかしきっとこの中にいるんだろう、と思う原稿に入った。机の上に開いていた原稿だ。それは明子さんの書いた、例の本の中に入って行くエッセイで、私は開いていたし、先ほどはそれはたたまれていたような気がしたので、気づいた瞬間に絶対にこれだ、と思った。
「さっきあなたと来た子? ここには来ていないわよ」
明子さんは言う。しかし戸成さんはいなかった。
「えっ来ていないですか?」
「ええ、来てないわ」
どういうことだろうか。きっとここに来たのだと思ったのに。一度出て、他の小説にも入ったが戸成さんはいなかった。私はやはり最初の原稿では、と再び原稿に入ったが、同じことを言われてしまった。
「戸成さんはどこに行っちゃったんだろう」
気づけば私は泣いていた。泣きながら、何故いないのか考えるが、分からない。そもそもこの能力の仕組みさえ分からないのに、分かるはずもない。そもそも、もしかしたら小説の中になんて入っていないのかもしれない。しかしそれならば連絡があるはずではないか。分からなかった。泣きじゃくる私に、明子さんが言う。
「ねぇ、こんなこと言いたくないんだけれど、あなたが入る限り、見つからないのかもしれないわ」
「どういうことですか」
「もし戸成さんが、一人で入ったのなら、それはあなたのとは違う小説世界なの。同じ小説でも、読む人が違えば違う風に読まれるでしょう。だから、戸成さんの入った世界はここじゃない。たとえ同じ本に入っても、会えないのよ」
私は茫然としてしまった。ならばどうしたらいいというのだ。
意気消沈したまま小説から這い出た。何故戸成さんはいないのだろう。携帯で送った連絡にはもちろん返信が無い。
さっきまでいた小説を眺める。絶対にこの中だと思ったのに、戸成さんには会えなかった。この部屋には無数に小説がある。しかしもしそのどれかにいたとして、それが分かったとしても、戸成さんに会うことは出来ない。
私はふと、私が自分の小説に引きこもった時に、戸成さんが助けに来てくれたことを思い出した。あの時戸成さんは私の原稿に書き加え、それが小説世界に起った。私もなにか書けば、戸成さんに伝わるのかもしれない。だが、どうすればいいというのだろう。
「戸成さん、出て来て」
そう書いてみたが、戸成さんは出てこない。
私は途方に暮れたが、とにかく一番戸成さんが入っている可能性の高いこの原稿を手に入れるべきだと思い、こっそりとまだお茶を飲んでいるようだった二人のいる部屋に行き、隅に置いていた自分の鞄にねじこんだ。
「戸成、いたか」
私に気付いて重垣が言う。私はどうしようかと思った。しかし大事にすべきなのか。ここで騒げば、戸成さんを本から出す方法を考えにくくなる。私は適当に嘘を言うことにした。
「お騒がせしてすみません。戸成さん、家庭で急用があったとかで帰っちゃったみたいなんです」
「ああ、なんだそうだったのか」
一人さんはほっとしたようだった。
「さっきあなたと来た子? ここには来ていないわよ」
明子さんは言う。しかし戸成さんはいなかった。
「えっ来ていないですか?」
「ええ、来てないわ」
どういうことだろうか。きっとここに来たのだと思ったのに。一度出て、他の小説にも入ったが戸成さんはいなかった。私はやはり最初の原稿では、と再び原稿に入ったが、同じことを言われてしまった。
「戸成さんはどこに行っちゃったんだろう」
気づけば私は泣いていた。泣きながら、何故いないのか考えるが、分からない。そもそもこの能力の仕組みさえ分からないのに、分かるはずもない。そもそも、もしかしたら小説の中になんて入っていないのかもしれない。しかしそれならば連絡があるはずではないか。分からなかった。泣きじゃくる私に、明子さんが言う。
「ねぇ、こんなこと言いたくないんだけれど、あなたが入る限り、見つからないのかもしれないわ」
「どういうことですか」
「もし戸成さんが、一人で入ったのなら、それはあなたのとは違う小説世界なの。同じ小説でも、読む人が違えば違う風に読まれるでしょう。だから、戸成さんの入った世界はここじゃない。たとえ同じ本に入っても、会えないのよ」
私は茫然としてしまった。ならばどうしたらいいというのだ。
意気消沈したまま小説から這い出た。何故戸成さんはいないのだろう。携帯で送った連絡にはもちろん返信が無い。
さっきまでいた小説を眺める。絶対にこの中だと思ったのに、戸成さんには会えなかった。この部屋には無数に小説がある。しかしもしそのどれかにいたとして、それが分かったとしても、戸成さんに会うことは出来ない。
私はふと、私が自分の小説に引きこもった時に、戸成さんが助けに来てくれたことを思い出した。あの時戸成さんは私の原稿に書き加え、それが小説世界に起った。私もなにか書けば、戸成さんに伝わるのかもしれない。だが、どうすればいいというのだろう。
「戸成さん、出て来て」
そう書いてみたが、戸成さんは出てこない。
私は途方に暮れたが、とにかく一番戸成さんが入っている可能性の高いこの原稿を手に入れるべきだと思い、こっそりとまだお茶を飲んでいるようだった二人のいる部屋に行き、隅に置いていた自分の鞄にねじこんだ。
「戸成、いたか」
私に気付いて重垣が言う。私はどうしようかと思った。しかし大事にすべきなのか。ここで騒げば、戸成さんを本から出す方法を考えにくくなる。私は適当に嘘を言うことにした。
「お騒がせしてすみません。戸成さん、家庭で急用があったとかで帰っちゃったみたいなんです」
「ああ、なんだそうだったのか」
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