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4章 本を探す
4章 本を探すー4
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「えっと、お祖母さんが急に容態が変ったとかで、焦っていたみたいで」
一人さんは「無事だと良いね、あの子のお祖母さん」と言い、私は明子さんのことを思い出しているのだろうかと思った。
「急に押し掛けた上、お騒がせしてすみませんでした」
「いやいや、私も手伝ってもらって申し訳なかった、何も見つからなかったが、少し片付いたよ、ありがとう」
戸成さんがいなくなったのですっかり頭から消えていたが、そういえば私たちは明子さんのメッセージのために本に入ったりしたのだった。明子さんはこの一人さんに、本を読んで欲しいのだと、自分を死んでもなお、もっと理解して欲しいのだと言っていた。何も伝えなくていいと言っていたが、それはなんだか物足りない気がした。しかしどう伝えればいいのだろう。
「えっと、私も小説を趣味で書いているんですが」
重垣はもう帰るつもりだったようで腰を浮かそうとすらしていたので、私が何を言いだすのかと、少し驚いた顔でこちらを見た。
「やっぱり、誰かに読んでもらえるから書いてる所はあると思うんです。だって、誰にも読んでもらえなくてもいいんなら、妄想で終わらせるんです。それで、私のことを全然知らない人に面白いって言われるのもすごく嬉しいんですけど、友達とかに、こんなことを考えてるなんて知らなかったって言われるのも、なんだかとても嬉しいんです。だから、えっと、明子さんの文章をもっともっと読んでいったら、明子さんについてもっと知れると思うんです。だから、探すついでに、明子さんの小説も、エッセイも、ゆっくり読んでもらえませんか」
自分で言いながら、なんだか不遜なことを言っていると思った。
「そうですね、小説は打ち込む中で読んでいるんですか、なかなか、新聞や何かを読むのと違って、私にとっては読みにくいのです。実際にはないようなことを書いて、読んで、私にはそれの意味がどうも昔から理解できなくて。でももっと、生きている時に妻の文章を読んでいたら良かったなぁと、最近思います」
「今でも、遅くないですよ」
一人家をお暇し、バス停まで歩く。私はあれで何か伝わったのだろうかと思った。いや、それより今は戸成さんのことが気にかかる。
「で、本当は戸成はどうしたんだ」
「いない。分からない」
「は? 大丈夫なのかよそれ」
「大丈夫じゃないよ。本の中に入ったんだと思ったけど、私が入る世界と戸成さんが一人で入った世界は違うらしくて、会うことが出来なかった」
「どういうことだ?」
「分からない。こうなってくると、そもそも本当に本の中にいるのかどうかも分からない。どうしたらいいんだろう」
私は歩みを止めそうになる。考えれば考えるほどパニックになりそうだ。
「落ち着け。てか大丈夫じゃないのになんであの家を出て来てしまったんだ」
「だって家の中にはいなかったでしょ。本の中は探しても会えない訳で、あの家の中だと対策を取りにくし。それに戸成さんが入ったのであろう小説は取って来た」
「取って来た?」
私が明子さんの原稿を見せると、重垣はまさか私がそんなことをするとは思わなかったのだろう、「お前それ、盗んできたの間違いだからな」と咎めるように言う。
バスに乗り、駅に向かう。今日の所は帰るしかないのだろうか。
「もし本の中に入ったわけじゃなくて急にいなくなったんだったらどうしよう」
「戸成がそんなことするわけないんじゃないか。理由がない」
「強盗とか」
私たちが探していた部屋は玄関に入ってすぐだった。戸成さんが強盗に襲われていたらという想像は恐ろしかった。
「なんで戸成だけ襲うんだよ。それだったら金も盗るだろうし、家主に何か言うだろう。落ち着けよ」
「落ち着いてなんかいられないよ。もう会えなかったらどうしよう」
私は重垣の前だからとこらえていたが、泣きそうだった。
「とにかく、こんなタイミングで失踪するとは思えない。それに強盗ではないだろう」
「でも戸成さんは本の中には入れなかったんだよ」
「お前と入ってたじゃないか」
「私が入るのに付随して入ってたの。戸成さんだけ、一人では入れなかったはずなんだよ」
「実は入れたんじゃないのか」
私は隣に座っている重垣の顔を見る。
「黙ってたってこと?」
「そういうことだろう」
「なんで?」
「俺が知るわけないだろ」
実は入れたということは、いつから入れていたのだろう。もしかしたらこの能力は感染症のように「うつる」のかもしれない。もしそうだとしたら、私の能力が先なのか、戸成さんの能力が先なのか。高校生の時、図書室で初めてこの話をした時のことを思い出す。戸成さんは相当疑っていたのだ。あれはこの能力を見たことが無い反応だったと思うのだが。
一人さんは「無事だと良いね、あの子のお祖母さん」と言い、私は明子さんのことを思い出しているのだろうかと思った。
「急に押し掛けた上、お騒がせしてすみませんでした」
「いやいや、私も手伝ってもらって申し訳なかった、何も見つからなかったが、少し片付いたよ、ありがとう」
戸成さんがいなくなったのですっかり頭から消えていたが、そういえば私たちは明子さんのメッセージのために本に入ったりしたのだった。明子さんはこの一人さんに、本を読んで欲しいのだと、自分を死んでもなお、もっと理解して欲しいのだと言っていた。何も伝えなくていいと言っていたが、それはなんだか物足りない気がした。しかしどう伝えればいいのだろう。
「えっと、私も小説を趣味で書いているんですが」
重垣はもう帰るつもりだったようで腰を浮かそうとすらしていたので、私が何を言いだすのかと、少し驚いた顔でこちらを見た。
「やっぱり、誰かに読んでもらえるから書いてる所はあると思うんです。だって、誰にも読んでもらえなくてもいいんなら、妄想で終わらせるんです。それで、私のことを全然知らない人に面白いって言われるのもすごく嬉しいんですけど、友達とかに、こんなことを考えてるなんて知らなかったって言われるのも、なんだかとても嬉しいんです。だから、えっと、明子さんの文章をもっともっと読んでいったら、明子さんについてもっと知れると思うんです。だから、探すついでに、明子さんの小説も、エッセイも、ゆっくり読んでもらえませんか」
自分で言いながら、なんだか不遜なことを言っていると思った。
「そうですね、小説は打ち込む中で読んでいるんですか、なかなか、新聞や何かを読むのと違って、私にとっては読みにくいのです。実際にはないようなことを書いて、読んで、私にはそれの意味がどうも昔から理解できなくて。でももっと、生きている時に妻の文章を読んでいたら良かったなぁと、最近思います」
「今でも、遅くないですよ」
一人家をお暇し、バス停まで歩く。私はあれで何か伝わったのだろうかと思った。いや、それより今は戸成さんのことが気にかかる。
「で、本当は戸成はどうしたんだ」
「いない。分からない」
「は? 大丈夫なのかよそれ」
「大丈夫じゃないよ。本の中に入ったんだと思ったけど、私が入る世界と戸成さんが一人で入った世界は違うらしくて、会うことが出来なかった」
「どういうことだ?」
「分からない。こうなってくると、そもそも本当に本の中にいるのかどうかも分からない。どうしたらいいんだろう」
私は歩みを止めそうになる。考えれば考えるほどパニックになりそうだ。
「落ち着け。てか大丈夫じゃないのになんであの家を出て来てしまったんだ」
「だって家の中にはいなかったでしょ。本の中は探しても会えない訳で、あの家の中だと対策を取りにくし。それに戸成さんが入ったのであろう小説は取って来た」
「取って来た?」
私が明子さんの原稿を見せると、重垣はまさか私がそんなことをするとは思わなかったのだろう、「お前それ、盗んできたの間違いだからな」と咎めるように言う。
バスに乗り、駅に向かう。今日の所は帰るしかないのだろうか。
「もし本の中に入ったわけじゃなくて急にいなくなったんだったらどうしよう」
「戸成がそんなことするわけないんじゃないか。理由がない」
「強盗とか」
私たちが探していた部屋は玄関に入ってすぐだった。戸成さんが強盗に襲われていたらという想像は恐ろしかった。
「なんで戸成だけ襲うんだよ。それだったら金も盗るだろうし、家主に何か言うだろう。落ち着けよ」
「落ち着いてなんかいられないよ。もう会えなかったらどうしよう」
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「とにかく、こんなタイミングで失踪するとは思えない。それに強盗ではないだろう」
「でも戸成さんは本の中には入れなかったんだよ」
「お前と入ってたじゃないか」
「私が入るのに付随して入ってたの。戸成さんだけ、一人では入れなかったはずなんだよ」
「実は入れたんじゃないのか」
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「黙ってたってこと?」
「そういうことだろう」
「なんで?」
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