61 / 63
4章 本を探す
4章 本を探す 14
しおりを挟む
私は原稿を握りしめて言った。もしかしたらさっきの一人さんのように、戸成さんが小説の世界から出たくないと思ったのかもしれないと思った。でも私は戸成さんがそう思ったとしても、引っ張り出さなくてはならない。なぜなら昔、戸成さんがそうしてくれたから、そして私自身が、戸成さんに会いたいからだ。
「さっき言ってたけど、どうするんだ?」
「戸成さんも、さっきの重垣の漫画に行けたみたいに、本と本を移っていけると思うんだ。本の世界どうしはつながってる。書かれていない、世界の端っこに行けば本から本に移れる。」
「それは分かるけど、恐らく戸成はさっきの本中みたいに出れないんだろ?」
「多分だけど、私の小説の中なら、戸成さんと私は会える」
「どういうことだ?」
「戸成さんが登場人物として出てくるの」
「お前俺の漫画のこと馬鹿にしたくせに」
そう言われると痛い。
「私の小説の戸成さんは戸成さんそのものだもん……たぶんね。理想の戸成さんじゃない」
「お、俺だってなあ……」
と、喧嘩している場合ではない、と一旦落ちついた。
「とにかく、その世界にいる時は、誰が読んでも戸成さんはそこにいるんだから、私が小説の世界に入って、戸成さんを連れ出すことが出来る。多分」
一人さんには明子さんの本の中で会うことが出来た。きっと、会える気がするのだ。
「多分て。でもどうやってその小説まで、戸成を誘導するんだ?」
「そこが問題なんだよね」
「戸成はお前の小説を読んだことがあるのか?」
「無いの。困ったよね。そう、それだと戸成さんが本の世界同士を繋げれるのか分からないし、戸成さんにそれを伝える術が……」
「それは出来るんじゃないか? お前、ここに何か書き込みしてるじゃないか」
重垣は私が明子さんの原稿に書き殴った「戸成さん、出て来て」という書き込みを差し出しました。
「ここにこう書いたってことは、こうしたら戸成に伝わると思って書いたんじゃないのか?」
「そうだった」
そう、荒唐無稽でも、戸成さんが昔やったように、原稿に書き込めば物語に反映されるのだ。
大分慌てている。一旦落ちつかなくては。
「例えば、この原稿の続きにその話を書けば戸成はそこに行けるんじゃないか?」
「そうかも、でも今、データはスマホにあるけど続きを全部かくのは無理だし」
「帰るか、じゃあ。印刷してその原稿の続きにドッキングすればいいんじゃないか?」
「そんなもんかなあ」
「やってみるしかないだろ」
重垣は早速荷物をまとめようとしていた。私は考える。
「うーん、ちょっと待って、たとえばこの続きに私を無理やり書いたら私はそこに行けるんじゃない?」
「ああ、確かに」
私は原稿に書き加える。
『そこに本中がやって来て、戸成さん帰ろうと言いました』
「よし、入ってみる」
「漫画より展開が速くていいな」
私は入りたい、と呟いた。
本の中に入ったが、そこに戸成さんはいなかった。
「あら、また来たの?」
もう何度目の訪問か分からない。しかし明子さんは呆れたようでは無かった。いたずらっぽく笑うだけだ。
「さっきいきなり話の続きが出来たの。あなたが書き加えたのね」
「ええ、そうです。でも戸成さんはいないんですか」
周りを見渡したが、戸成さんの姿はない。
「ええ、いないわね」
「ああ、だめだ。分からない」
「ずっとあの、友達を探してるの?」
明子さんは優し気に聞く。
「はい。多分、戸成さんがいる話の世界に、私が入れれば戸成さんに会えるんじゃないかと思ったんですが」
「分からないけど、いないわね」
私はあきらめて一旦外に出た。出ると、重垣が
「一人で出て来たということは会えなかったんだな」
とため息をついた。
「書き加えてもやっぱり明子さんつくった世界だから駄目なのかな」
「うーん。今の感じじゃ本中の書いた文章は落書き扱いで、見れても実際の世界じゃないって感じなのかな。俺、漫画に入った時、普通漫画って端に作者のコメントとか宣伝が雑誌だとあるけど、それが世界に反映しては見えない。なんか路上の広告みたいに入って来る。あんな感じなんじゃないか」
「なるほど。昔戸成さんが書き加えた時はちゃんと物語に反映されたのに」
「なんでだろうなあ。分からん。それかやはり話として繋がってないんじゃないか?」
「それはあるかもしれない。やっぱり1から戸成さんが出てくる話じゃないとだめなのかな」
「やっぱり帰るしかないか」
私もそうするしかないかと思って、荷物をまとめかけた。しかし、ふと思った。広告のようにでも、戸成さんに話しかけられるなら。
「知らなくても戸成さんが認識できれば物語はつながるかも。それに戸成さんは私の書いてる小説の世界は知ってるはず」
「どういうことだ?」
私はペンを握った。
「さっき言ってたけど、どうするんだ?」
「戸成さんも、さっきの重垣の漫画に行けたみたいに、本と本を移っていけると思うんだ。本の世界どうしはつながってる。書かれていない、世界の端っこに行けば本から本に移れる。」
「それは分かるけど、恐らく戸成はさっきの本中みたいに出れないんだろ?」
「多分だけど、私の小説の中なら、戸成さんと私は会える」
「どういうことだ?」
「戸成さんが登場人物として出てくるの」
「お前俺の漫画のこと馬鹿にしたくせに」
そう言われると痛い。
「私の小説の戸成さんは戸成さんそのものだもん……たぶんね。理想の戸成さんじゃない」
「お、俺だってなあ……」
と、喧嘩している場合ではない、と一旦落ちついた。
「とにかく、その世界にいる時は、誰が読んでも戸成さんはそこにいるんだから、私が小説の世界に入って、戸成さんを連れ出すことが出来る。多分」
一人さんには明子さんの本の中で会うことが出来た。きっと、会える気がするのだ。
「多分て。でもどうやってその小説まで、戸成を誘導するんだ?」
「そこが問題なんだよね」
「戸成はお前の小説を読んだことがあるのか?」
「無いの。困ったよね。そう、それだと戸成さんが本の世界同士を繋げれるのか分からないし、戸成さんにそれを伝える術が……」
「それは出来るんじゃないか? お前、ここに何か書き込みしてるじゃないか」
重垣は私が明子さんの原稿に書き殴った「戸成さん、出て来て」という書き込みを差し出しました。
「ここにこう書いたってことは、こうしたら戸成に伝わると思って書いたんじゃないのか?」
「そうだった」
そう、荒唐無稽でも、戸成さんが昔やったように、原稿に書き込めば物語に反映されるのだ。
大分慌てている。一旦落ちつかなくては。
「例えば、この原稿の続きにその話を書けば戸成はそこに行けるんじゃないか?」
「そうかも、でも今、データはスマホにあるけど続きを全部かくのは無理だし」
「帰るか、じゃあ。印刷してその原稿の続きにドッキングすればいいんじゃないか?」
「そんなもんかなあ」
「やってみるしかないだろ」
重垣は早速荷物をまとめようとしていた。私は考える。
「うーん、ちょっと待って、たとえばこの続きに私を無理やり書いたら私はそこに行けるんじゃない?」
「ああ、確かに」
私は原稿に書き加える。
『そこに本中がやって来て、戸成さん帰ろうと言いました』
「よし、入ってみる」
「漫画より展開が速くていいな」
私は入りたい、と呟いた。
本の中に入ったが、そこに戸成さんはいなかった。
「あら、また来たの?」
もう何度目の訪問か分からない。しかし明子さんは呆れたようでは無かった。いたずらっぽく笑うだけだ。
「さっきいきなり話の続きが出来たの。あなたが書き加えたのね」
「ええ、そうです。でも戸成さんはいないんですか」
周りを見渡したが、戸成さんの姿はない。
「ええ、いないわね」
「ああ、だめだ。分からない」
「ずっとあの、友達を探してるの?」
明子さんは優し気に聞く。
「はい。多分、戸成さんがいる話の世界に、私が入れれば戸成さんに会えるんじゃないかと思ったんですが」
「分からないけど、いないわね」
私はあきらめて一旦外に出た。出ると、重垣が
「一人で出て来たということは会えなかったんだな」
とため息をついた。
「書き加えてもやっぱり明子さんつくった世界だから駄目なのかな」
「うーん。今の感じじゃ本中の書いた文章は落書き扱いで、見れても実際の世界じゃないって感じなのかな。俺、漫画に入った時、普通漫画って端に作者のコメントとか宣伝が雑誌だとあるけど、それが世界に反映しては見えない。なんか路上の広告みたいに入って来る。あんな感じなんじゃないか」
「なるほど。昔戸成さんが書き加えた時はちゃんと物語に反映されたのに」
「なんでだろうなあ。分からん。それかやはり話として繋がってないんじゃないか?」
「それはあるかもしれない。やっぱり1から戸成さんが出てくる話じゃないとだめなのかな」
「やっぱり帰るしかないか」
私もそうするしかないかと思って、荷物をまとめかけた。しかし、ふと思った。広告のようにでも、戸成さんに話しかけられるなら。
「知らなくても戸成さんが認識できれば物語はつながるかも。それに戸成さんは私の書いてる小説の世界は知ってるはず」
「どういうことだ?」
私はペンを握った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
拾われ子のスイ
蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】
記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。
幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。
老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。
――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。
スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。
出会いと別れを繰り返し、命懸けの戦いを繰り返し、喜びと悲しみを繰り返す。
清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。
これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。
※週2回(木・日)更新。
※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。
※カクヨム様にて先行公開(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載)
※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双
四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。
「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。
教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。
友達もなく、未来への希望もない。
そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。
突如として芽生えた“成長システム”。
努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。
筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。
昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。
「なんであいつが……?」
「昨日まで笑いものだったはずだろ!」
周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。
陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。
だが、これはただのサクセスストーリーではない。
嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。
陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。
「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」
かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。
最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。
物語は、まだ始まったばかりだ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる