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5章 本を歩け!
5章 本を歩け 1
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5、本を歩け!
私はなすすべなく、明子さんの物語の世界にいました。明子さんが色々と話してくれるので飽きませんが、早く帰りたい、という気持ちは募ります。
ずっとこのままだったらどうしよう。
その考えがもたげては、かき消します。しかし不安です。明子さんが励ましてはくれますが、私はしまいに地面に座り込んでぼんやりしていました。
すると突然、
「さっき夫に会ったわ」
と明子さんが言うのです。
「一人さんですか?」
「ええ、そうなの」
「いつも明子さんの世界には出て来るじゃないですか」
「そうじゃなくて、本物の夫よ。入って来たの。あなたみたいに。あなたがさっき会った夫は本物の夫だったの。この世界に入って来たのよ」
「全然、現実の一人さんだと思ってました」
思い出しても、よく分かりませんでした、そういえば長く話をしていたような気もします。
「話したら違ったの。今よりちょっと老けた夫だったわ」
「そんな、でも一人さんがもしこの世界に入ったとして、私とは本の世界が違うんじゃないですか?」
「ええ、でも入って来た。多分、夫はこの物語に出てくるからじゃないかしら。登場人物として」
確かに登場人物なら、だれが読んでも出てきます。しかし驚きです。
「では私も、登場人物として何らかの本に出れば、その本の中では本中さんに会えるということですか?」
「そうかもしれないわね」
しかしそうとはいえ、私が出てくるお話などありません。どこか、昔弟が書いた冒険談とか、そういうのに出してもらってはいないかと考えましたが、出ていた所でそこにいると本中さんに伝えることが出来ません。きっと、私は本中さんに連れ出してもらわないとここから出れないのです。
「本中さんに伝える術はないですしね……」
本の中の人物は、何を思っても現実の人間に何か言うことは出来ません。いや、渉さんは出てきました。あれは何故だったのでしょう。
と考えると、にゅっと「戸成さん帰ろう」と言う「本中」と顔に書いた人が現れました。
「ひっ」
突然のことで驚きます。気持ち悪くはないですが、単純に怖い。
「あら、きっとお友達が書いたのね。でも本中さんだけじゃどんな子か分からないわ。でも、探してくれているのよ」
少しほっとしました。放って置かれているわけでは無さそうです。
「もっと本中さんの説明があれば本中さんはここに来れたんですかね」
「よく分からないわね、不思議だわ」
沈黙してしまいました。考えなければいけないと分かっているのに、どう考えても分かりません。
沈黙を破るように、急に
「戸成さん、聞こえるかな。戸成さんには本の世界を移動して欲しいの」
横に立っていた本中もどきが、急にずらずらと話し始めました。
「えっ」
私は驚きながらも、続きになんと話すのか見守りました。明子さんもどうなるのか、緊張した面持ちで私と本中もどきを見つめていました。
「戸成さん、私実は戸成さんが出てくるお話を書いてるの。タイトルは『本を歩け』」
「私が出てくる、お話?」
初耳ですが、そういえば本中さんは小説を書いている、と言っていました。きっと私には面白い話だ、とも。それがその『本を歩け』なのでしょうか。
「戸成さんと私が出会って、私が引きこもったら戸成さんが出て来てくれて、大学に行って、別所さんと会って、って戸成さんと私が経験してきたことをファンタジー小説として書いたものだよ。戸成さんは読んだことないけど、戸成さんと私の話だから、書いてる世界はまるっきり同じなの。私は明子さんの話と、私の話はすごく似てるって思う。つながってると思う。だから戸成さん想像して、私の小説を」
理解するのに時間がかかりました。小説を想像する? 知らない本でも繋がっていると知っていれば、本の世界はつながるのでしょうか?
想像した、というより思い出しました。本中さんとの出会いを。図書室で話しかけられ、うるさいクラスメイトだと思ったこと、図書委員の仕事を手伝ってくれたこと。本屋さんに行ったり、本中さんの家に行ったり。
すると今まで見えなかった道が、開くような気がしました。
「行って来たら?」
明子さんが後押ししてくれます。
「ええ、行ってみます」
私は勇気を出してその道のほうに歩きはじめました。
進んでみると、そこはまるっきり見慣れた、なつかしい、自分の高校の図書室でした。そこには昔そうしていたように、本中さんがいつもの席で何かを読んでいました。
私はなすすべなく、明子さんの物語の世界にいました。明子さんが色々と話してくれるので飽きませんが、早く帰りたい、という気持ちは募ります。
ずっとこのままだったらどうしよう。
その考えがもたげては、かき消します。しかし不安です。明子さんが励ましてはくれますが、私はしまいに地面に座り込んでぼんやりしていました。
すると突然、
「さっき夫に会ったわ」
と明子さんが言うのです。
「一人さんですか?」
「ええ、そうなの」
「いつも明子さんの世界には出て来るじゃないですか」
「そうじゃなくて、本物の夫よ。入って来たの。あなたみたいに。あなたがさっき会った夫は本物の夫だったの。この世界に入って来たのよ」
「全然、現実の一人さんだと思ってました」
思い出しても、よく分かりませんでした、そういえば長く話をしていたような気もします。
「話したら違ったの。今よりちょっと老けた夫だったわ」
「そんな、でも一人さんがもしこの世界に入ったとして、私とは本の世界が違うんじゃないですか?」
「ええ、でも入って来た。多分、夫はこの物語に出てくるからじゃないかしら。登場人物として」
確かに登場人物なら、だれが読んでも出てきます。しかし驚きです。
「では私も、登場人物として何らかの本に出れば、その本の中では本中さんに会えるということですか?」
「そうかもしれないわね」
しかしそうとはいえ、私が出てくるお話などありません。どこか、昔弟が書いた冒険談とか、そういうのに出してもらってはいないかと考えましたが、出ていた所でそこにいると本中さんに伝えることが出来ません。きっと、私は本中さんに連れ出してもらわないとここから出れないのです。
「本中さんに伝える術はないですしね……」
本の中の人物は、何を思っても現実の人間に何か言うことは出来ません。いや、渉さんは出てきました。あれは何故だったのでしょう。
と考えると、にゅっと「戸成さん帰ろう」と言う「本中」と顔に書いた人が現れました。
「ひっ」
突然のことで驚きます。気持ち悪くはないですが、単純に怖い。
「あら、きっとお友達が書いたのね。でも本中さんだけじゃどんな子か分からないわ。でも、探してくれているのよ」
少しほっとしました。放って置かれているわけでは無さそうです。
「もっと本中さんの説明があれば本中さんはここに来れたんですかね」
「よく分からないわね、不思議だわ」
沈黙してしまいました。考えなければいけないと分かっているのに、どう考えても分かりません。
沈黙を破るように、急に
「戸成さん、聞こえるかな。戸成さんには本の世界を移動して欲しいの」
横に立っていた本中もどきが、急にずらずらと話し始めました。
「えっ」
私は驚きながらも、続きになんと話すのか見守りました。明子さんもどうなるのか、緊張した面持ちで私と本中もどきを見つめていました。
「戸成さん、私実は戸成さんが出てくるお話を書いてるの。タイトルは『本を歩け』」
「私が出てくる、お話?」
初耳ですが、そういえば本中さんは小説を書いている、と言っていました。きっと私には面白い話だ、とも。それがその『本を歩け』なのでしょうか。
「戸成さんと私が出会って、私が引きこもったら戸成さんが出て来てくれて、大学に行って、別所さんと会って、って戸成さんと私が経験してきたことをファンタジー小説として書いたものだよ。戸成さんは読んだことないけど、戸成さんと私の話だから、書いてる世界はまるっきり同じなの。私は明子さんの話と、私の話はすごく似てるって思う。つながってると思う。だから戸成さん想像して、私の小説を」
理解するのに時間がかかりました。小説を想像する? 知らない本でも繋がっていると知っていれば、本の世界はつながるのでしょうか?
想像した、というより思い出しました。本中さんとの出会いを。図書室で話しかけられ、うるさいクラスメイトだと思ったこと、図書委員の仕事を手伝ってくれたこと。本屋さんに行ったり、本中さんの家に行ったり。
すると今まで見えなかった道が、開くような気がしました。
「行って来たら?」
明子さんが後押ししてくれます。
「ええ、行ってみます」
私は勇気を出してその道のほうに歩きはじめました。
進んでみると、そこはまるっきり見慣れた、なつかしい、自分の高校の図書室でした。そこには昔そうしていたように、本中さんがいつもの席で何かを読んでいました。
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