拡大する宇宙

悠行

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拡大する宇宙

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 朝起きたらどうも変だった。寝相が悪くてよく自ら床にダイブしているからベッドのふかふかではなく固い床を下に感じているのは良いとしても、明らかに何か変だった。
 ぼやけた頭で周りを見ると、どこまでも高い位置に昨日洗濯して部屋干ししたタオルが見えた。しかし、あんなに高かっただろうか。とりあえず起き上がる。起き上がっても周りにいつも寝ているはずのベッドが無い。その代わり、広大な地面が広がっており、なんだか大きな建物がある。なんだ、柱だろうか。
 しかも何かおかしい。そうだ、なぜだ、私は服を着ていない。おかしい。全裸で寝る習慣など私にはないはずなのに。
 変な夢でも見ているのかと頬をつねるが普通に痛い。混乱した頭で周りを見るが、相変わらず目の前の風景は変わらない。いつの間にか外にでて寝ていたのか?全裸で?
 しかし、そうだ、私は先ほどタオルを見たぞ、そう思い上を向く。やはりタオルがある。しかしとんでもなく高いところに、どう見ても自分では取れない位置に見える。
「はぁ?」
 思わず口にしてしまう。一人暮らしの悲しい性か、独り言が多くなる。いやそんなことはどうでもいいのだ。どうでもいいことばかり考えてしまう。
 どうやら自分は、小さくなってしまっている。ようやく分かり始める。
 何故か?それは分からない。
 今日は大学の授業があるはずだ、とこんな状況でも考える。戻らなくては。やはり夢では。目をつぶる、目を開ける。状況は変わらない。
 とりあえず時計が見たい。でも時計はベッドの目覚ましと、その横に置いてある携帯電話くらいにしかついていない。どうしても見れない。そうだ、テレビ、と思いつき、リモコンを自分が床に置きっ放しにしてしまっていることを願う。おもいながら炬燵の周りをうろうろする。あった。自分の体はリモコンの端にようやく手が届くくらいしかない。ぎりぎりだ。電源ボタンは端にあるのでよじ上らなくても押すことが出来た。
 奇跡的についた。もし何かが邪魔になってしまったらつかなかっただろう。よかった。
「では、今朝のニュースをお送りします」
 端に時間が映し出されている。8時15分。いつも起きる時間より遅い。ニュースキャスターは昨日も報じていた猟奇的殺害事件に新たな展開があったことを報じている。このニュースは知っている、しかし新たな情報は知らない。私の知らない街の、知らない川で、凶器と思われるものが捨ててあるのが発見されたのだという。知らない街の名前、知らない名前の川、覚えていないはずのニュースキャスターの名前。鮮明に映し出される。今、ここは、昨日の続きだし、夢ではない。なぜなら知っているニュースは流れていて、でも自分では思いつけないはずの名前がどんどん出てくるからだ。
 ぞっとする。どうしよう。私は、どうやら本当に小さくなってしまったらしい。
 どうしようも出来なくて、茫然とリモコンにもたれかかる。いったいこれはどういうことだろう?今日は出席に厳しい教授の授業なのに。ああ、それより今状況の方が大変だ。
 ふと、のどが渇いた、と思う。しかし周りには何もない。もしかしたら炬燵の上に飲み物を置きっぱなしにしているのではないかと思うが、まず上に上がることが出来ない。布を伝って登山してみたが、力が無いので転げ落ちてしまった。
 登山したおかげでのどがさらに乾いた。このままでは脱水症状で死んでしまう。とりあえず水を求めて台所へ向かった。台所までも長い道のりで、体感にして大学に行くまで分くらいは歩いたように感じる。当然蛇口は高いところにあり、よじ上るにもとっかかりが無いので炬燵布団登山よりも難しい。しかし、幸いなことに昨日何かの拍子にこぼれたのであろう、雫が一粒落ちていた。何の水か、きれいか汚いか分かったものではないが緊急を要するのでひとすくいして口に運んだ。おいしい。何杯も飲んだ。
 と、のどが渇くとお腹が空いた。いい具合にパン屑が落ちていたのでそれをぱりぱりと食べる。満足してから、これでは自分は虫ではないか、と思う。しかし気にしてはいられない。
 のども渇きも腹も満たされたので、なんだか眠くなってきた。寝よう。きっと寝て起きたら元に戻っているに違いない・・・。

 床の冷たさと寒さで目を覚ました。床で寝ていたのだから当然である。しかし起きても寝る前と見える風景は何も変わっていなかった。どれぐらい経ったのだろう、まだテレビはついたままだったので、音が聞こえる。
「なんと今なら、いつも一袋4980円のところ、二袋にさらにケースまでお付けして、お値段据え置き4980円!」
この内容からして、昼頃だろう。普段カーテンをずっと閉じておく習慣がある上、小さくなってしまいスイッチに手が届かないので、部屋は寝た時のまま、つまり薄暗いままである。
 このままでは私はどうなってしまうのだろう。水もいずれは飲み切るか、蒸発してしまう。パン屑もそんなにたくさん落ちてはいない。死んでしまう。いや、こんな姿のままどうやって生きていけばいいのだろう。どうすれば元に戻るのだろうか。
 ただどうすればいいのか分からないと嘆き、床に大の字になったまま時間を延々とつぶした。時間がたつのが妙に遅い。小さくなったからだろうか。
 夜になるとあたりは真っ暗になってとても怖い。何か出てくるのではないかとひやひやする。テレビの音が聞こえてくるだけで、少しだけ安心できた。
 テレビが夜九時の番組を放送し始めたころ、どこからかブーッブーッという低い音が聞こえ始めた。なんだろう。怖い。なかなか鳴りやまない。恐怖が臨界点に達しようとしたとき、ふと考えて気がつく。ベッドの上で充電しっぱなしであろう携帯のバイブ音である。なかなか途切れないから、電話だろうか?着信音が鳴ると困るので、マナーモードにしていたのである。
 誰からであろう。友人か、両親か、もしくはバイト先だろうか。分からない。とりたいのはやまやまだが、携帯までたどり着くことが出来ない。
 気づいたら私は泣いていた。どうすればいいというのだろう。これから先、どうやって生きていけばいいのだろう。誰にも気づかれず、死んでゆくのか。何も成し遂げていない。やりたかったことが次々と頭に浮かぶ。どれだけ喉が渇くからやめようと思っても、誰も聞いてくれないとしても、私は泣くのをやめられなかった。

 翌日の朝、家のドアをどんどんとたたく音で目を覚ました。ものすごい音だった。
「おーい、いるかー?」
 それは友人の声だった。寝ぼけていたが急にはっきりと目が覚める。
「助けてくれ!小さくなってしまった!」
 必死に叫んだが、声は届かない。むしろ友人の声にかき消されていった。
「なぁ、おい!風邪でも引いたのか?連絡しても出ないからさ、おい!」
 私はそれに叫び返す。
「いる!ここに、いる!」
 しかしその声は届かない。
「あれ?いないのか・・・」
 そうつぶやく声がし、友人が去っていく足音が聞こえる。私はまた茫然とする。連絡。昨日、携帯は何度も鳴った。メールか何かの着信であろう短い音もあれば、何度もバイブ音が続けて鳴ったりもした。低く響く音、しかし私はそれに返すことが出来ないのだ。
 その日はまたそれで暮れていった。落ちている食べ物のかすを拾って腹を満たし、まだ残っている水をすくう。普段きれいにしていたからか、かすはほとんどなかった。そういえば一昨日、クイックルワイパーをかけた気がする。掃除機でなかったから端の方に少しかすがあるのが救いだが、それでもなんで掃除してしまったのかと悔やまれる。
 物が何かないかと洗面所の方へ移動すると、新たな水たまりを発見した。これで水は持つだろうか。洗面所は窓からの電気が少しもささないので、とても暗くて怖かった。
用は隅の方に足したが、もの悲しい気分になった。昔キャンプで外でしたことがあるが、あれとは違う。あれは下が土だったが、今回はフローリングだから吸わないし、そもそも自分は縮んだりしていなかった。
風呂の前に足ふきを置いていた。足ふきは柔らかく、ふかふかだった。いいベッドを見つけたと思った私は、そこで寝ることにした。
 寒くもなく、快適に眠れそうだった。次に起きたら元に戻っていますように。そう思いながら眠りについた。

 次に起きても、状況はやはり変わっていなかった。朝日で少しだけ明るいのでテレビの音を聞きに行くと、どうやら朝の6時くらいだった。体感時間がものすごく長く感じる。虫などはこのように生きているのだろうか?
 また足ふきに戻って大の字になった。何も考えないようにした。何かを考えたら、また泣いてしまいそうだったからだ。
 気づくと二度寝していた。起きるとあたりは少しは明るくなっていた。大体昼くらいだろうか?テレビの音を聞きに行こうとすると、ガチャ、と音がした。何事かと思うと、人が府屋に入ってきたのが見えた。誰だろうか。
 、三人ほど人が入ってきた。顔を見てもよく分からなかったが一人はもしかしたらこの部屋の大家さんかもしれない。部屋を借りた時に会った。一番最後に入ってきたのは友人だった。友人が言ってくれたのかもしれない。
「いない」
「いない!?」
「よく見ろ、どこかにいるのかもしれない」
 会話しているのが聞こえる。
「ここだ!!おーい!」
 昨日と同じく叫ぶが向こうは気づいてくれなかった。
「携帯があるぞ」
「鞄は?」
「これが通学用に使っていたものだと思いますが・・・」
「財布が中に入ってる」
「鍵もあるぞ」
「でも部屋のカギ、かかってましたよ」
「どういうことだ?」
 口々に叫ぶのが聞こえる。その時ふと、ここにいても埒が明かない、この部屋を出よう、と私は思いつく。もっと静かなら友人も気付いてくれるのではないか?
 玄関まで必死で走る。もしかしたら私がここから玄関までたどり着くのより、捜索を終えて彼らが出ていく方が早いかもしれないからだ。
 必死で走って玄関にたどり着いたのと、押し入れ、ベランダなどを見て彼らがおかしいと言いながら出ようとしたのがほぼ同時だった。
 友人のものであろう運動靴に飛び乗った。もしかしたら靴を履くときに気付いてくれるのではないかという期待は、友人が靴を見ずに足を無造作に突っ込んで履いたので裏切られてしまった。
 靴は揺れるので振り落とされそうになる。運動靴のひもの上部に体をひっかけた。仕方ないが、足のにおいがしてとてもくさい。さらに揺らされているので、気持ち悪くなり吐いた。
 友人は一緒にいた二人と別れ、家に戻った。友人も一人暮らしである。靴から這い出て友人を追う。別の友人と入ったことはあるが、自分の部屋ほど詳細にどこに何があるのか分かっていないので急に現れるゴミ箱にぶつかったりした。
 友人は黙って鞄などをおろし、クッションに座ると携帯をいじり始めた。ほかに何の音もしない。今だ、と思い叫ぶ。
「おい!」
 しかし友人は気づかない。黙って携帯の画面を見つめ続けている。もしかしたら別の友人に私のことを報告してくれているのかもしれない。
「おい!私だ!」
 何度も何度も叫んだが、気づいてくれることはなかった。体が小さくなっているので、声も小さいのか。雑音に紛れてしまうのだろうか。

 仕方なく友人の家にこっそりと居候生活を始めた。友人は生活しているから、何らかの拍子に水はこぼしてくれるし、食べかすだって落ちないことはない。ティッシュがゴミ箱に入らず落ちていたから、それを拝借してちぎって適当な大きさの穴をあけ、服にした。ずっと何も着ていないのは落ち着かなかったのだ。
 なかなかに快適だった。自分が戻れないという事実以外には。
 このままではいけない、戻らなくてはいけない、と思いはじめたのは、友人の家に別の友人が集まり始めたからだった。
「あいつ、ほんとどこ行ったんだろう」
「消えたみたいだよな」
「なんか思いつめたりしてたのかな・・・」
 口々に私のことを話していた。その内は良かった。しかしだんだん自分は忘れられ始めていると感じた。私のことが会話に上がることは少なくなり、私を除いたメンバーでも楽しそうにやっている。このままでは忘れられてしまう。
 今までいろんな方法を試みた。足をくすぐってみたり、ものをちょっとずつ動かしてみたり。しかし虫よりも小さい私の働きは、どうやら気のせいとしてしか認識されないようなのだ。もし机の上などにいればなんだが、そもそも机の上には登れない。
 地面にいる小さいものなど、だれが気づいてくれるだろう。
 突然縮んだのだから、突然戻るはずだと思っていたが、このままではだめだ、積極的な努力をしようと思い始めた。友人が家を出た隙に、ついに何週間かぶりに私は友人の家を出た。

 部屋の外の廊下は恐ろしく広く感じられた。友人の部屋は一階だったのでなんなく外に出ることが出来た。もしも二階以上なら、降りるのに苦労したことだろう。
 外に出てみたが、どうすればいいのか分からなかった。とりあえず大学に行こう、と思った。大学に行けばもしかしたら教授などが気づいてくれるかもしれない。顕微鏡に隠れれば、少なくとも気づいてくれる。そうすれば、大学まではここから通常時に歩いて10分ほどのはずだった。友人は便利なところに住んでいたのである。
 だが、今の縮尺では途方もない距離である。一時間歩いても、ほとんど進まないし、コンクリート面のぎざぎざだけで一苦労。
「やっぱり戻ろうかな・・・」
 のどが渇いて衰弱死しそうになる。もうこのまま、小さい姿のまま友人の家に住み着けばよいのではないか。戻らなくてもいいではないか。勉強も仕事もしなくていいし。
 戻ろう、そう思い振り向いたとき、どこからか声が聞こえた。
「おい、君、何をしている?」
 その声は友人の声のように大きすぎることもなく、一般的な声に聞こえた。もしや自分は戻ったのでは、そう思ったが目の前の風景は変わっていなかった。
「こっちだ、こっち」
 声がした右の方を見ると、私と同じかそれより大きいくらいのサイズの人間がひとり、立っていた。

「先生、やはりいましたよ」
「そうだろう、私の研究に狂いはないのだ」
 そう話す二人が目の前にいる。出会った人間に導かれ、長い長い距離を幾人かの人の靴につかまることで移動し、、建物のすみにあいている入口から入ると、そこは快適な居住空間が広がっていた。
「とりあえず君、何か着なさい」
 ティッシュの服を着ている私に、布で出来た簡単な服をくれた。サイズはぶかぶかだったが、ティッシュよりましである。渡してくれた人も似たようなものを着ていた。
 居住空間には人が何人かいた。人によってサイズはまちまちである。案内してくれた人は鈴木と名乗り、もう一人白髪の老人を連れてきた。先生は私と鈴木氏の10倍ほどはあった。
「探してよかった。やはりいたんですね」
「うん、見つからなかったからもう死んだかと思った」
 物騒な会話である。
「あの、どういうことですか・・・」
 恐る恐る口をはさむ。
「ふん、君は宇宙が拡大しているということを知っているかね」
「え、まぁ、はぁ」
 確かに高校の地学で聞いたことがあるような気がする、専門では無いのでよく分からないが、ハッブルとかなんとか。
「そう、それだ。今回君、そして私らに起こったすべてはそこに起因しているのではないかと考えられる」
「この人はね、大学の教授だったんだけど、もうずいぶんと前に小さく・・」
「違う、私は小さくなっていないのだ」
「あ、すみません。まぁ、そういうことでね、ずっとこの現象について研究していたんだ」
「それでだな、この現象を地球からの星の観測から計算し、なおかつ私等が縮小したとして計算すると矛盾が生じてね、もしやこれは逆なのではないかと思ったのだ」
「は、はぁ。逆、ですか?」
 回りくどい説明でよくわからない。それを察したのか鈴木氏が会話に割って入った。
「そう、我々が小さくなったのではなく、先生は世界の方が拡大したのではないかと考えておられるのだ。」
 割り込まれて嫌だったのか、先生はまた割り込んできた。
「毎日宇宙は膨張していく。それに従って、なぜ我々が膨張していないと言い切れる?」
「私の仮説だがね、世界は毎日すごいスピードで膨張しているのだ、この一瞬一瞬の間にも」
「今も、ですか?」
「そうだ。例えば君の身長が伸びても、測定器が同じように伸びていたらどうなる?伸びていたかどうかわからないだろう。そういうことだ。研究がまとまってきたから、いずれ本にしたいものだね・・・」
「それと私が小さくなったことにどのような関係が」
「君、頭が悪いな。つまり、我々はその膨張についていけなかったのだよ、たとえ一晩でも。もしかしたら多くの人間も、そのような現象に会っているのかもしれない、でももし一瞬なら、分からない。しかし、一晩その膨張が止まれば、十分、我らのようなサイズになってしまうのだ。
君、小人や怪物の話を聞いたことがあるだろう?あれ、親指ほどのサイズのものもあれば、子供ほどの背丈の者もある。あれはこの仮説にぴったりだ。ついていけなかった時間によって、そのサイズは変わるのだ。」
「見てみなさい。君と私も、サイズが違うだろ、周りも、まちまちだろう?それがこの先生の仮説を裏付けているのだよ」
「は、はぁ」
 突拍子もない話で、ついていけなかった。
「えっと、つまり、私は元の大きさには戻れないんですか」
「うむ、もしかしたらそういうこともあるのかもしれぬ。しかし、今のところ私はそのような例を見ていない。偶然、この鈴木氏と出会ってから、ニュースなどを見て出来るだけ同じような人間は集めてきたが、誰一人として、戻らなかったのだ」
 ショックだった。もう、元には戻れないのか。
「そう気落ちすることはない。意外とここでの生活も楽しいものだぞ」
 落ち込んだ顔をしてしまったからなのか、先生が慰めるように言った。
「あとな、気になることがある。君、今も小さくなり続けているのでないかね?」


 先生が言ったとおりだった。鈴木氏よりいつのまにか、こぶし一つ分くらい小さくなっている。そうだ、自分の部屋にいた時、テレビのリモコンに手が届いたのに、今ではとてもじゃないけど無理だと思う。
「断続的だが、君は世界の拡大についていけていないのだ。」
「なぜ、私や皆さんは、唐突についていけなくなるのですか」
「それは分からない。ただ、これが起こるのは少なくとも人間だけではないのだよ。君、ものを無くしたことがあるかい。もちろんただ見失っているだけのこともあるが、物だって縮んでしまうことがあるのだ。だから、これは無差別だ。何故だか本当に分からない。もう30年、研究しているが分からない」
 先生にもわからないことが、なぜ私に分かりよう。ただ私は気落ちし、これからどうすればいいのかと不安になる。
「なあに、私たちはもう、人が縮むことを知っているのだ。君がいくら縮んだって、気づいてあげられるさ。ほら、わしの肩に乗っておくがよい。絶対にこれで見失わないし、研究の手助けをしておくれよ」
 先生は優しくいい、私は先生の肩の上で暮らすこととなった。
「おい、いるかい」
「いますよー」
 そう声を掛け合わねばならないほど、私は小さくなってしまった。
 でも、みんな、気にしあって暮らしている。私と同じく、縮んでいく人が他にもいたし、なんとか暮らしていけるだろう、と思った。
 風が吹く。
 いつの間にこんなに軽くなってしまったのだろう。鈴木氏も飛ぶが、私はもっと軽く、先生をつかんだ手も風に負けてしまった。
「危ないなぁ。もっとドアを強く締めた方がいいかな」
 その会話を聞いたとき、私は床の上に、鈴木氏の踵の下にいた。
「おい、君、大丈夫だったかい?あれ、また縮んだか」
 鈴木氏が先生に背伸びして聞いている。
「すごいスピードだな」
 ああ、踵を下す。ぷちっ。
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