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港町
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港町に到着したのは、太陽が西に傾き始めた頃だった。夕暮れの光が港の水面を照らし、きらきらと輝いている。漁を終えた船が次々と港に戻り、威勢のいい掛け声が飛び交う。市場には、水揚げされたばかりの魚介類がずらりと並び、新鮮な潮の香りが辺り一面に漂う。買い付けに来た商人や地元の人々でごった返す中、露店からは香ばしい焼き魚の匂いが漂い、食欲をそそる。
「わぁ、凄い賑やかですね。初めて見る物も多いわ」
私は周りをキョロキョロしながら叫ぶと、殿下がいろいろと説明をしてくれた。
「マンドル妖精国はこの港町でしか交易はしていないからな。リンが初めて見る物はおそらくマンドル妖精国の品だろう」
「ここまで来ればマンドル妖精国の品が手に入ると言う事よね。その割にはブルネル国の王都でも見掛けないわ」
「大量に買う事は許されていないし、食べ物は日にちが持たないのが殆どだから、ブルネル国では売られていないんだ」
「確かに食べ物系が多いわ。島国だから海産物が多そうね」
「新鮮な魚は生で食べれるぞ」
「生?それは本で読んだ事があるわ」
「後で一緒に食べよう」
「楽しみね」
「リンが楽しそうで、俺も嬉しいよ」
そんな事を言われて、私は少し顔に熱を持った気がしたので自分に言い聞かせた。
駄目よ、なんだか勘違いしてしまいそうになるわ。
そう思う事で、自分の気持ちに蓋をした。
この港町では、殿下と私を除き各自3日ほど自由に過ごすらしく、私は羨ましかった。
「リン、皆で食事を共にするぞ」
「ええ、分かったわ」
「俺の隣に座れ、ここだ」
あら、明日からしばらくずっと一緒なのだから、出来ればイザベルたちと一緒が良いのだけれど……。
そう思いイザベルを探して見ると、どうやらボーンズの隣の席に座ったようだ。
えっ、もしかしてイザベルはボーンズを気に入ったのかしら?それはちょっと不味いかもしれないわね。
「リン、早く座れ」
殿下に腕を掴まれ席に着いた私だが、イザベルのことが気になり目が離せなくなってしまった。
「では、ここでの食事は私の奢りだ。多いに食べて、飲んでくれ。皆、本当にご苦労だった。カンパーイ」
「殿下にカンパーイ」
「お疲れさまです」
殿下が皆を労い、歓談が始まった。
皆、生き生きしていて、良い顔だわ。騎士団と共に行動するのも悪くないわね。
「リン、これを食べてみろ」
「これは、生の魚をおろしたものですね。初めて食べます」
「ああ、美味いぞ」
あら?本当に美味しいわ。新鮮なお魚ってこんなに美味しいのね。それに、この少し鼻にツーンとくる調味料も美味しいわ。
「どうやら、気に入ったようだな。たくさん食べろ」
「はい、殿下、とても美味ですわ。いくらでも入りそうです」
「リンは幻の鳥の鳴き声が聴きたいのか?」
「聴きたいからといっても、簡単には無理ですよね?」
「まあ、そうだな。でもリンなら聴けるかもしれないぞ」
「どうしてですか?」
「あの鳥は魔力の多い人間を好むからな」
殿下にそう言われて、私はわずかながら期待をしてしまいそうになる。
「なあ、リン、俺のことはまだ認められないか?」
「いいえ、殿下が部下思いの優しい人だというのはよく分かりました。それに殿下が私との結婚を望むのでしたら、私には断ることは出来ません。でも私が王太子妃に向いているとは思えません。私は自分が可愛いですから、好きなことをして生きたいと言う願望もあります」
「俺は縛るつもりはない。リンが出来る限り自由に動けるようにはすると誓う」
「そういうわけにはいかないでしょう」
殿下は少し酒に酔っているのか、私に顔を近づけてきて、耳元で囁いた。
「リン、俺は君が好ましいと思っているよ」
私はお酒を飲んでいないのに、思わず顔が真っ赤になってしまった。男性に全くと言っていいほど免疫がないのだ。これは反則ではないかしら……。
「殿下、少し離れて下さい。それに私はそろそろ寝てきますわ」
そう言って殿下から距離を取り、私は早めにホテルに戻ろうとした。
「リン、待て。私とリンは船でマンドル妖精国行きの船に乗るから、こっちだ」
私は殿下と共に中型船に乗り、マンドル妖精国に向かったのだった。
中型船ではあるが凄まじいスピードで進み、早朝には到着した。
「よく眠れたか?」
寝室を出ると、殿下が私を待っていてくれた。
「おはようございます。こんなにぐっすりと眠ったのは久しぶりですわ。殿下は如何ですか?」
「俺もよく眠った。この船は別名で「ゆりかご」と呼ばれているんだ。まさに妖精国らしいだろう?」
妖精国、恐るべしですわ。
殿下にエスコートされながら船を出ると、大臣らしき人物が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ブルネル国の王太子殿下」
「カウネル閣下、此度は招待してくれて感謝します。こちらが我が婚約者です」
「初めまして、リンデル・ドヴァーグと申します。以後お見知りおき下さい」
「初めまして、ドヴァーグ侯爵令嬢様、私はカウネル公爵です。よろしくお願い致します」
馬車に案内してくれて、王宮に向かった。
馬車は、まるで巨大な植物に飲み込まれていくかのように森の奥へと進んでいく。
空を覆うほどの巨大な木々が立ち並び、木漏れ日が地面にまだら模様を描いていた。足元には、鮮やかな緑の苔が絨毯のように広がり、踏みしめるたびに柔らかい感触が伝わってくる。人為的なものが一切ない、壮大で神秘的な光景に、私はただただ息をのむばかりだった。
「驚いただろう。ここでは人よりも動物の方が多いんだ。街というものはここにはない。集落と言われるものが点在しているだけだ。ここでの暮らしは自然と一体になんだ」
「本来の人の生活そのものなのね」
「ああ、ここでは不思議なくらいに魔力が安定する。リンはそれが分かるか?」
そう言われてみれば、魔力の流れがスムーズな気がするわ。
「なんとなくですが、感じますわ」
「俺はこの国に来ると、本当に安らぐんだ」
殿下の顔色がいつになく良いのはそのせいなのね。
空気も美味しいし、来て良かったわ。
「わぁ、凄い賑やかですね。初めて見る物も多いわ」
私は周りをキョロキョロしながら叫ぶと、殿下がいろいろと説明をしてくれた。
「マンドル妖精国はこの港町でしか交易はしていないからな。リンが初めて見る物はおそらくマンドル妖精国の品だろう」
「ここまで来ればマンドル妖精国の品が手に入ると言う事よね。その割にはブルネル国の王都でも見掛けないわ」
「大量に買う事は許されていないし、食べ物は日にちが持たないのが殆どだから、ブルネル国では売られていないんだ」
「確かに食べ物系が多いわ。島国だから海産物が多そうね」
「新鮮な魚は生で食べれるぞ」
「生?それは本で読んだ事があるわ」
「後で一緒に食べよう」
「楽しみね」
「リンが楽しそうで、俺も嬉しいよ」
そんな事を言われて、私は少し顔に熱を持った気がしたので自分に言い聞かせた。
駄目よ、なんだか勘違いしてしまいそうになるわ。
そう思う事で、自分の気持ちに蓋をした。
この港町では、殿下と私を除き各自3日ほど自由に過ごすらしく、私は羨ましかった。
「リン、皆で食事を共にするぞ」
「ええ、分かったわ」
「俺の隣に座れ、ここだ」
あら、明日からしばらくずっと一緒なのだから、出来ればイザベルたちと一緒が良いのだけれど……。
そう思いイザベルを探して見ると、どうやらボーンズの隣の席に座ったようだ。
えっ、もしかしてイザベルはボーンズを気に入ったのかしら?それはちょっと不味いかもしれないわね。
「リン、早く座れ」
殿下に腕を掴まれ席に着いた私だが、イザベルのことが気になり目が離せなくなってしまった。
「では、ここでの食事は私の奢りだ。多いに食べて、飲んでくれ。皆、本当にご苦労だった。カンパーイ」
「殿下にカンパーイ」
「お疲れさまです」
殿下が皆を労い、歓談が始まった。
皆、生き生きしていて、良い顔だわ。騎士団と共に行動するのも悪くないわね。
「リン、これを食べてみろ」
「これは、生の魚をおろしたものですね。初めて食べます」
「ああ、美味いぞ」
あら?本当に美味しいわ。新鮮なお魚ってこんなに美味しいのね。それに、この少し鼻にツーンとくる調味料も美味しいわ。
「どうやら、気に入ったようだな。たくさん食べろ」
「はい、殿下、とても美味ですわ。いくらでも入りそうです」
「リンは幻の鳥の鳴き声が聴きたいのか?」
「聴きたいからといっても、簡単には無理ですよね?」
「まあ、そうだな。でもリンなら聴けるかもしれないぞ」
「どうしてですか?」
「あの鳥は魔力の多い人間を好むからな」
殿下にそう言われて、私はわずかながら期待をしてしまいそうになる。
「なあ、リン、俺のことはまだ認められないか?」
「いいえ、殿下が部下思いの優しい人だというのはよく分かりました。それに殿下が私との結婚を望むのでしたら、私には断ることは出来ません。でも私が王太子妃に向いているとは思えません。私は自分が可愛いですから、好きなことをして生きたいと言う願望もあります」
「俺は縛るつもりはない。リンが出来る限り自由に動けるようにはすると誓う」
「そういうわけにはいかないでしょう」
殿下は少し酒に酔っているのか、私に顔を近づけてきて、耳元で囁いた。
「リン、俺は君が好ましいと思っているよ」
私はお酒を飲んでいないのに、思わず顔が真っ赤になってしまった。男性に全くと言っていいほど免疫がないのだ。これは反則ではないかしら……。
「殿下、少し離れて下さい。それに私はそろそろ寝てきますわ」
そう言って殿下から距離を取り、私は早めにホテルに戻ろうとした。
「リン、待て。私とリンは船でマンドル妖精国行きの船に乗るから、こっちだ」
私は殿下と共に中型船に乗り、マンドル妖精国に向かったのだった。
中型船ではあるが凄まじいスピードで進み、早朝には到着した。
「よく眠れたか?」
寝室を出ると、殿下が私を待っていてくれた。
「おはようございます。こんなにぐっすりと眠ったのは久しぶりですわ。殿下は如何ですか?」
「俺もよく眠った。この船は別名で「ゆりかご」と呼ばれているんだ。まさに妖精国らしいだろう?」
妖精国、恐るべしですわ。
殿下にエスコートされながら船を出ると、大臣らしき人物が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。ブルネル国の王太子殿下」
「カウネル閣下、此度は招待してくれて感謝します。こちらが我が婚約者です」
「初めまして、リンデル・ドヴァーグと申します。以後お見知りおき下さい」
「初めまして、ドヴァーグ侯爵令嬢様、私はカウネル公爵です。よろしくお願い致します」
馬車に案内してくれて、王宮に向かった。
馬車は、まるで巨大な植物に飲み込まれていくかのように森の奥へと進んでいく。
空を覆うほどの巨大な木々が立ち並び、木漏れ日が地面にまだら模様を描いていた。足元には、鮮やかな緑の苔が絨毯のように広がり、踏みしめるたびに柔らかい感触が伝わってくる。人為的なものが一切ない、壮大で神秘的な光景に、私はただただ息をのむばかりだった。
「驚いただろう。ここでは人よりも動物の方が多いんだ。街というものはここにはない。集落と言われるものが点在しているだけだ。ここでの暮らしは自然と一体になんだ」
「本来の人の生活そのものなのね」
「ああ、ここでは不思議なくらいに魔力が安定する。リンはそれが分かるか?」
そう言われてみれば、魔力の流れがスムーズな気がするわ。
「なんとなくですが、感じますわ」
「俺はこの国に来ると、本当に安らぐんだ」
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空気も美味しいし、来て良かったわ。
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