きさらぎ村

白雪の雫

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きさらぎ村①

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秋の訪れを肌で感じる事が出来る十月初旬の夕方
その日の私は何時ものように地下鉄に乗って我が家へと帰る途中でした。
「あれっ?誰もいない?」
私が帰る時間帯は学生だけではなく百貨店で買い物した主婦や帰宅途中のサラリーマンで混雑しています。
私が乗った駅から二駅目に向かっている時からだったでしょうか。いつの間にか、車内から自分以外の人間が消えていたのです。
隣の車両に目を向けてみたのですが、自分がいる車両と同じように乗客がおらず閑散としていました。
車掌か運転手に聞いたら何か分かるかも知れないと思った私は、自分が乗っている四両目から近い事もあったのか、車掌がいる最後尾に向けて歩いていました。
ですが、どうした事か幾ら歩いても辿り着かないのです。
(神隠し?それとも今流行の異世界トリップ?)
エレベーターや電車で異世界に行ったという話が脳裡に過ったのですが、あくまでそれらは都市伝説に過ぎません。
そんな事あるはずがないと、私は浮かんでしまった考えを慌てて否定しました。
(彼女達は確か・・・)
そんな私の目に、自分が通っている学園の女子が一ヶ所に集まっている三人の姿が映りました。
乙女ゲームに出てくるヒロインのように可愛い顔立ちと緩やかなウェーブが掛かった栗色の髪を持つ小柄な彼女は藤堂 霞さん、整った顔立ちと腰の辺りまであるストレートな黒髪を持つ才色兼備で名高い彼女は堀川 百合さん、陸上部のホープであるボーイッシュな彼女は竹本 菫さんといいます。
藤堂さんと堀川さんは学園祭のイベントの一つであるミスコンで一・二位を争う程の美少女、そして竹本さんは県内の大会で優勝した事もあります。
学園内において彼女達の名前を知らぬ者はいないと言っても過言ではないでしょう。
三人がいる場所に向かった私は、何があったのかを尋ねました。





曰く
この時間帯であれば乗客で車内が混み合っているはずなのに、気が付けば人が消えていた
ツイッターやLINE、家にも電話を掛けてみたのだが全く繋がらない
自分達は電車の二両目に乗っていたので運転士がいる先頭車両に行こうとしていたのだが、不思議な事に幾ら歩いても辿り着かない





「藤堂さん、堀川さん、竹本さん」
車内で何が起こっているのかを聞く為に自分は車掌室に行こうとしているのだと、私は藤堂さん達に話しました。
私の提案に賛同してくれたのか、四人で車掌室に向かう事になったのです。
私達が乗っている電車は六両編成なのですが、やはりというべきか、何時まで経っても車掌室には着かないのです。
「・・・駅。・・・駅」
やっぱり自分達は神隠しにでも遭っているのではないかと思っていたその時、私達の耳にアナウンスの声が入ってきました。
「電車から降りたら警察に電話して助けて貰いましょうよ!」
車内アナウンスをはっきりと聞き取れなかったのですが、藤堂さんの案に反対意見などなく、座席に腰を下ろした私達は電車が駅に着くのを祈るように待つ事にしました。
電車は駅に向かって走っていくのですが───私はあり得ないものを見てしまいました。
「!!?」
「遠野さん?どうしたの?」
「ほ、堀川さん・・・あれ・・・・・・」
恐る恐る窓を指差す私の声に心配してくれたのでしょうか。
「ひぃっ!」
私につられて窓を見た堀川さんが短い悲鳴を上げました。
「遠野さん?堀川さん?」
竹本さんと藤堂さんが心配そうに私達に声を掛けたのですが、目の前に広がる風景を目にした途端、二人も悲鳴を上げるしかありませんでした。
最初の方で言いましたが、私達が乗っていたのは地下鉄です。
当然、外の景色が見えるはずなどありません。
それなのに窓の向こうに見えるのは、峰を連ねる山々に青い空、そして黄金色の田畑という田舎の景色だったのです。
この時期にもなると秋が深まっていくので、六時にもなると空は暗くなっていきます。
「な、何で山が見えて外がこんなに明るいの!?」
「乗客だけではなく車掌も運転士もいない!電話は通じない!」!
「出して!ここから出してよ!!」
普段から見慣れている景色とは異なるものだから、藤堂さん達はパニックに陥ってしまいました。
「皆、落ち着いて!こういう時こそ冷静になって行動しなかったらどうするの!?」
本音を言えば私だって三人のように泣き喚きたかったし、実際に自分一人だけが電車に残されていたらそうなっていたはずです。
三人の姿に却って我を失わずに済んだ私は彼女達を宥める事に専念しました。
「そ、そうね・・・。遠野さんの言う通りだわ・・・」
私の一言に落ち着きを取り戻した三人は、無言のまま外の景色を見つめていました。
時間にして二分経ったのでしょうか?
五分経ったのでしょうか?
それ以上だったかも知れないし、もしかしたらそんなにも経っていなかったかも知れません。
「・・・駅。・・・駅」
電車が駅に到着したので降りた私達はまず駅名標を見ましたが、文字の部分が掠れている───というより消えていたので、何という駅で降りたのか分かりませんでした。
次に私達が取った行動は親と警察に電話をする事でした。やはりと言うべきか、電話は繋がりませんでした。
LINEとツイッター、某掲示板、スマホの地図アプリが使えるかどうかを試してみたのですが、電話と同様に通じない状態です。
駅の電話だったら繋がるのではないかと思い駅長室に行ったのですが、駅長はおろか駅員が誰一人としていませんでした。
私達が降りたのは無人駅なのでしょう。
「ねぇ・・・駅の外に出ればもしかしたら人がいるかも知れないわ。その人から電話を借りればいいのではないかしら?」
竹本さんの言葉に一縷の望みを賭けた私達は駅を出る事にしました。





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