ノスフェラトゥ

白雪の雫

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 嘗ては人々から【聖女】や【神子姫】と崇められていた女が、夜の世界の住人である自分の上で涙を流しながら淫らに喘ぐ姿は己の中にある雄の本能を刺激して欲情を煽る。

 それは何と甘美な愉悦である事か──・・・。

 「ま、魔王様・・・っ!」

 男を求めるかのように蜜で濡れている秘唇を男根で、男根を模した張り型で後孔を激しく突き上げられると、疼きと飢えが癒されると同時に淫靡な悦楽がクリュライムネストラを満たす。

 「レーヴェだ・・・」

 「レ、レーヴェ、様・・・?」

 「レーヴェ、だ。お前だけは、私を、名前で、呼んで欲しい・・・」

 「レー、ヴェ・・・?」

 恐らくクリュライムネストラは無意識なのであろう。

 名前を口にした途端、締め付けられた事で今にも達しそうになったレーヴェナードは顔を顰めるが、年長者と夜の世界の長というプライドがあるのか、耐えた男はお仕置きだと言わんばかりに女を容赦なく責め立てる。

 「孕め、クリュライムネストラよ。私の子を・・・」

 「は、はい・・・。私も、魔王様の、レーヴェの子供を、産みたい、です・・・」

 妻となった女の答えに満足したのか、レーヴェナードは己がクリュライムネストラを支配している事を示すかのように、彼女の胎内に欲望を解き放つ。

 「レ、レーヴェ・・・」

 己の中が男の精で満たされていくのを感じた女は恍惚の表情を浮かべると、レーヴェナードに口付ける。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 吸血鬼の真祖にして不死者ノスフェラトゥであるレーヴェナードと比べたら体力が劣るクリュライムネストラは先程の交わりで疲れ切ってしまったのか、眠りの世界に誘われたかのようにゆっくりと瞼を閉じる。

「白は何よりも純粋であり、そして何にも染まっていない無垢であるが故に美しい・・・」

 だが、何者にも汚されていない白はどのような色にも染まるが故に、この手で汚してやりたいという衝動に駆られるのだ。

 己の腕の中で眠るクリュライムネストラの、出会った当初は短かったが今は腰の辺りまで伸びている亜麻色の髪を梳きながらレーヴェナードが呟く。

 これまでの長い生の中で金と名声を求める戦士に魔法使いだけではなく、教会の助祭や司祭、聖人や聖女と称される者達を目にしてきたレーヴェナードは己の敵として現れた彼等と対峙してきた。

 サクリフィス大陸を治める長に戦いを挑むだけあって確かに彼等の力は人間の中では【強い】の部類に入っていた。

 だが、所詮は人間である。

 一度或いは数回血を吸われただけで廃人になるか、気が狂ってしまうのだから。

 しかし、それは彼等にとって幸せなのかも知れない。

 何故なら、その者達は不死者ノスフェラトゥの糧となった───つまり死んだ事で苦痛から救われたのだから。

 不幸なのは、中途半端に強かった者ではないだろうか。

 中途半端に力があるが故に廃人になる事も出来ず、かといって気が狂う事も許されなかった聖人や聖女が淫蕩を好む妖魔と化してしまったものだから、レーヴェナードは心の中で人間という存在を見下し嘲笑っていたのだ。
 侵略者を相手に無聊を慰めていた時に現れたのが、何でも屋・・・俗に言う冒険者として糧を得ている人間一行───その中に自分に匹敵する霊力を持つクリュライムネストラがいた。

 自分が血を吸った仲間が力と魂の本質までもが変わったというのに、生まれ持った霊力を研鑽していった結果なのか、或いは聖女として育ちながら己の心の中にある信念や信条が神ではないかという考えの持ち主だからなのか・・・彼女の気高い心と強くて柔軟な魂は何も変わらないでいるのだ。

 だからなのかも知れない。

 自分に何度も血を吸われているというのに、自我を失わず人間ひととしての姿と心を持っているクリュライムネストラに惹かれたのは──・・・。
 
「この身に命を宿したその時こそ・・・ライムよ、そなたは聖なる者でありながら我等魔族の母となる」

 その時が訪れるのを楽しみだと言わんばかりに、己の腕の中で眠るクリュライムネストラの腹部を撫でながら呟いているレーヴェナードの顔には笑みが浮かんでいた。





※二人の間にはヴェルナードという、広義的に見ればダンピール。魔力と霊力を持った、将来はノーブルな中にも野性的な雰囲気を感じさせるイケメン息子が産まれます。





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