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①婚約破棄されたので出奔する-1-
しおりを挟むその姿は正しく地上に降臨した女神
幼い頃から膨大な霊力を持っているが故に国王の妹でありながら教会で育ったクリュライムネストラは、清楚で優美という言葉が似合う何者も犯し難い気品溢れる女性へと成長していった。
見た目の美しさもさることながら、欠けた四肢でさえも元に戻す事が出来る彼女は尊敬の意を込めて【聖女】や【神子姫】と称されていると同時に、教会側もまた次期教皇にと推すほどであった。
そんなクリュライムネストラには兄が決めた婚約者がいた。
婚約者の名前はパリスといい、ハーネット王国の第四王子だ。
否、この表現には語弊がある。
パリスの父親は確かにハーネット王国の国王・バルバガイツであるのだが、彼の母親は愛妾───つまり元を正せば平民だ。
本来であればパリスは王族として認められない立場であるのだが、愛する女性が産んだ子供を臣下にしたくないという親としての思いがバルバガイツにあった。
そこで思いついたのが、先王が後妻として迎えたメディクス王国の第二王女を母に持つ異母妹のクリュライムネストラをパリスの伴侶にするというものだ。
高貴なる者の義務を理解していないのに、権利と権力だけは行使するという傲慢で我が儘なナルシスト。
しかも、取り柄というのが王子様な顔だけという甥が王族としてあり続ける為だけに妻として選ばれてしまった事実に、幼いクリュライムネストラは泣いた。
それはもう泣き喚いた。
心の底から本気で。
将来は教皇に、いや、教皇になれなかったとしても神に仕える者として生きるものだと漠然と思い描いていたクリュライムネストラは考えた。
どうすれば、自分に傷が付かない形でパリスとの婚約を破棄できるのかを──・・・。
必要最低限であるが、王族としてのマナーがなっていないパリスに口うるさく注意する事を繰り返している内にクリュライムネストラはある事実に気が付いた。
甥が好むのは、明るくて天真爛漫に振る舞いながら自分には従順である、小柄で金髪碧眼の女性である事を。
(こういう所だけは父親にそっくりだわ)
王后のエンジェラが産んだ第一王子から第三王子は王族としての教育をきちんと受けているからなのか、政治的な思惑があるとはいえ国によって選ばれた婚約者との仲を深めているのに、バルバガイツと母親とのように好きな人と結ばれたいと思っているパリスは父親が選んだ婚約者である自分を『お前のような大女は女じゃない!』だの『金髪碧眼でないお前は醜い女だ』という感じでシスターや侍女達の前で罵るのは当たり前。
パリスに第四王子という肩書があるのは、現国王の妹である自分と婚約しているという一点に尽きるというのに・・・。
本来であれば怒るところなのであろうが、パリスとの結婚を嫌がっているクリュライムネストラにしてみれば好都合でしかなかった。
(どう考えてもこれは婚約破棄になる事、間違いなしだわ)
亜麻色の髪にヘーゼル色の瞳
そして、何と言ってもパリスより十センチ以上も高い身長
鏡に映る自分の姿を目にしながらクリュライムネストラは、その時が訪れるのを心の底から待ち望みつつ、聖女として、王女として民の為に働く日々を送る。
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2025/06/22
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