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⑦真祖と聖女-6-
しおりを挟む天井から落ちてくるのは巨大な刃に、棘が付いている鉄の重り
壁から飛び出してくるのは槍と弓
剣山が敷き詰められている床に火柱
侵入者を撃退しようとするのは石像に扮しているガーゴイルに、武器を手にしている骸や鎧
壁や床にこびりついている血痕が、元は華やかさと荘厳さを兼ね備えていたであろう王宮の室内を満たす死臭が凄惨なものへと変えている。
魔物を倒して来たし、死体は見慣れているはずなのだが、目の前にある多くの白骨が転がっている事実にリオン達は掌で口元を押さえて吐き出しそうになるのを堪えていた。
「ミイラ!」
「ゾンビ!」
「き、気持ち悪い!」
「あたい、アンデッド系は苦手なんだ!」
「どうせなら、サキュバスかカーミラのボン・キュッ・ボン姉ちゃんに襲って欲しかった!」
恐がっているのか、余裕があるのか分からない台詞を口にして逃げ回りながらも、メリーアン達はただ無我夢中で目の前の敵を屠っていく。
「メリーアンさん。ゾンビやスケルトンって光魔法の中級に属するライトスピアやシャイニングではなく、治癒師が使う回復系で簡単に倒せるアンデッド系モンスターですよ」
その証拠にほら・・・
クリュライムネストラがアスクレピオスの杖を通して掠り傷を治すレベルの霊力を注ぐと、リオン達を襲っていた最後のゾンビとスケルトン一体ずつが音を立てて崩れ落ちていく。
「治癒師でも敵を倒せるんだ・・・」
「治癒師の回復系は人間にとって傷と病を癒しますが、アンデッドにとっては傷つけるものでしかないのですよ」
これは私の推測ですが、治癒師の霊力はアンデッドにとって己の肉体と力を蝕むものなのでしょうね
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ほぅ・・・
「アンデッドにとって治癒師の霊力は害でしかない事を知っているあの者は聖人?聖女?・・・いや、メディクスの血を引く者か」
イビルゲイザーを通して終焉の離宮の様子を見ているレーヴェナードは、アスクレピオスの杖を手にしている人間の名前は分からないがメディクス家の末裔である事を察していた。
メディクス家の者は代々治癒能力に秀でており、最低でも掠り傷はもちろんだが捻挫であれば一瞬で治せるくらいの力を有している。
レーヴェナードは目にした事はないが、欠けた四肢を完全に戻すだけではなく不治の病の完全治癒、体内の毒物を浄化できる者が数百年前のメディクス家に存在したという噂を耳にしていた。
エリクサーという薬に頼らずに四肢の再生が出来るという事は、メディクス家の能力は本物である事を意味する。
そんな治癒能力に長けているメディクスの家系に生まれた一人の女が、毒物の浄化能力を応用した、ある能力を開発した。
その能力とは魂の浄化。
名前が示す通り、吸血鬼に血を吸われて魔物や妖魔と化してしまった者を元に戻すというものである。
当時のレーヴェナードにとってこの能力は厄介であった。だが、同時に自分の眷属として手元に置いておきたい人材でもあった。
しかし、魂の浄化を開発したメディクス家の女は老いていただけではなく、それが完成したのは彼女が死ぬ数日前であり、使ったのはたった一度だけである、らしい。
「・・・・・・レオパルド、頼みがある」
───
「我が君の仰せのままに」
レーヴェナードの命令を実行するべく、レオパルドは手配する。
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2025/06/22
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