ノスフェラトゥ

白雪の雫

文字の大きさ
19 / 32

⑦真祖と聖女-7-

しおりを挟む










 侵入者を阻むかのように、回廊の天井から振り子のように右へ左へと動く巨大な反った刃

 人一人が乗ればグールが彷徨う地下の回廊へと落ちて行く床

 何気なく壁の一部に触れれば出てくるのは棘の付いた巨大な車輪

 何の前触れもなく出現するスケルトンバーサーカーにアーマーナイト





 「た、助けて下さい!」

 トラップとモンスターだらけの城内から命辛々逃げてきたのだろうか。

 様々なトラップを攻略しつつ、敵を倒していく一行の前にボロボロになった修道女の服を身に着けている一人の女性がリオン達に助けを求めて駆けてきた。

 (・・・・・・)

 正義感が強く基本はお人好しなリオン達はシスターの言葉を信じているが、クリュライムネストラだけは彼女を疑いの目で見ている。

 シスターはリオン達に自分の事を話す。

 自分はエリゼベートという名前で、数年前に布教と妖魔討伐の目的でサクリフィス大陸にやって来たのだが、自分には説教と退魔の才能がないのか、全て失敗。

 故郷に帰りたいのだが、先立つものがない。しかし、お金がないと故郷に帰れない。

 悩んだ結果、サクリフィス大陸にやって来た仲間達と共に金を稼ぐ目的でここを攻略した上で真祖を倒しに来たのだが、この先にある庭園の道に敷き詰められている茨によって襲われ、先に進む事が出来ないのでアーベント城から出て行こうとしている途中なのだという。

 はっきり言って彼女のやっていた事は勝ち目のない博打以外の何物でもないと思っているのだが、美人に目がないリオンはエリゼベートの話を聞きながらも、服の上から十分に伺える彼女の女性らしい身体に釘付けになっていたりする。

 (((ま、負けた・・・)))

 メリーアン達はというと、シスターらしからぬ妖艶な雰囲気を纏っているエリゼベートと自分達を比べて密かに落ち込んでいた。

 そんな中、クリュライムネストラが仲間達はどうなったのかをエリゼベートに尋ねる。

 「それは・・・」

 エリゼベートが顔を曇らせた事で察してしまったリオン達は『余計な事を聞くな』と言わんばかりの視線をクリュライムネストラに向けて睨みつける。

 彼等の視線など魑魅魍魎の権化である王侯貴族と比べたら実に可愛らしいものだ。

 自分に向けられている視線を軽く受け流したクリュライムネストラはエリゼベートに対して、仲間達の事について更に問い質す。

 「ライムさん!仲間の事で傷ついているエリゼベートさんを苦しめるなんて、あんたは何を考えているんだ?!」

 「彼女が苦しんでいる?仲間の事で?昔はどうだったか分かり兼ねますが、今の彼女は仲間の事なんて何とも思っていませんよ」

 寧ろ、足手纏いが消えて清々したといったところでしょうね

 淡々と、それどころか悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべているクリュライムネストラは、血の気が引いたかのような顔をしているエリゼベートにある一言をぶつけてきた。





 シスターであるはずの貴女が何故、逆十字のロザリオを着けているのか?






 「「「「!?」」」」

 クリュライムネストラの一言にリオン達はエリゼベートの胸元に視線を向ける。

 シスターというのは、清貧と禁欲を旨に修道院で暮らしている女性の事で、神に生涯独身を貫く事に誓いを立てた証として常にロザリオを身に着けている。

 そのロザリオを逆さにして着けているという事は──・・・。

 「貴女に対する疑念はまだあります。この先にあるという庭園の道には生き物を襲う茨が敷き詰められているのですよね?その茨に襲われていたはずの貴女の足や靴にどうして傷一つが付いていないのですか?」

 「・・・・・・」

 「答えられないのであれば、代わりに私が答えましょうか?貴女は真祖とやらの命令で私達を始末しに来た刺客・・・」

 エリゼベートはクリュライムネストラの言葉に一言も返さないが、何を思ったのか、彼女はある行動を起こす。

 「「「リオン!!」」」

 それまで大人しく顔を俯かせていたはずのエリゼベートがリオンの首筋に牙を突き立てたものだから、彼女の突然の行動に驚きを隠せないでいるジェーン達は止めに入るどころか慌てふためく事しか出来ないでいる。

 「アスクレピオスの杖を手にしている貴女(?)・・・いえ、貴方の言う通り、私は我が君の命令を受けたカーミラのエリゼベート・・・」

 血を吸ったリオンをクリュライムネストラに向けて放り投げた修道女が一瞬にしてカーミラとしての姿に変わる。

 シスターだった時とは異なる妖艶な雰囲気と肌を露出させているコスチュームに、普段のリオンであれば鼻の下を伸ばすところだが、カーミラによる吸血行為によって自分がインキュバスになってしまうという恐怖に陥っている彼だけではなくジェーン達も使い物にならないので、クリュライムネストラは彼等を無視してエリゼベートとの話を進める。

 「正確に言えば、私は我が君がメディクス家の能力を見たいが為に送り込んだ使い魔と言ったところね」

 「貴女の言う我が君の為とやらの為に、どうして私が自分の能力を披露しないといけないのでしょうか?」

 「私に我が君の考えている事など分かるはずがないわ。私はただ、任務を遂行するだけ・・・」

 そう答えたエリゼベートは、ここで能力を使わないとクリュライムネストラにとって不利な状況になるだけだと言わんばかりの笑みを浮かべながら、使い物にならなくなっているローズの首に牙を突き立てて血を吸っていく。

 「ジェーンさん。メリーアンさん」

 某国民的RPGでいうところの〇ダパニ状態になっている二人の顔を殴る事で正気に戻したクリュライムネストラは、睡眠スリープでリオンとローズ、そしてエリゼベートを眠らせると、ジェーンとメリーアンに二人を抱えさせて近くの部屋へと逃げ込んだ。









しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

女神に頼まれましたけど

実川えむ
ファンタジー
雷が光る中、催される、卒業パーティー。 その主役の一人である王太子が、肩までのストレートの金髪をかきあげながら、鼻を鳴らして見下ろす。 「リザベーテ、私、オーガスタス・グリフィン・ロウセルは、貴様との婚約を破棄すっ……!?」 ドンガラガッシャーン! 「ひぃぃっ!?」 情けない叫びとともに、婚約破棄劇場は始まった。 ※王道の『婚約破棄』モノが書きたかった…… ※ざまぁ要素は後日談にする予定……

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

石塔に幽閉って、私、石の聖女ですけど

ハツカ
恋愛
私はある日、王子から役立たずだからと、石塔に閉じ込められた。 でも私は石の聖女。 石でできた塔に閉じ込められても何も困らない。 幼馴染の従者も一緒だし。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

潮海璃月
ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

処理中です...