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⑦真祖と聖女-7-
しおりを挟む侵入者を阻むかのように、回廊の天井から振り子のように右へ左へと動く巨大な反った刃
人一人が乗ればグールが彷徨う地下の回廊へと落ちて行く床
何気なく壁の一部に触れれば出てくるのは棘の付いた巨大な車輪
何の前触れもなく出現するスケルトンバーサーカーにアーマーナイト
「た、助けて下さい!」
トラップとモンスターだらけの城内から命辛々逃げてきたのだろうか。
様々なトラップを攻略しつつ、敵を倒していく一行の前にボロボロになった修道女の服を身に着けている一人の女性がリオン達に助けを求めて駆けてきた。
(・・・・・・)
正義感が強く基本はお人好しなリオン達はシスターの言葉を信じているが、クリュライムネストラだけは彼女を疑いの目で見ている。
シスターはリオン達に自分の事を話す。
自分はエリゼベートという名前で、数年前に布教と妖魔討伐の目的でサクリフィス大陸にやって来たのだが、自分には説教と退魔の才能がないのか、全て失敗。
故郷に帰りたいのだが、先立つものがない。しかし、お金がないと故郷に帰れない。
悩んだ結果、サクリフィス大陸にやって来た仲間達と共に金を稼ぐ目的でここを攻略した上で真祖を倒しに来たのだが、この先にある庭園の道に敷き詰められている茨によって襲われ、先に進む事が出来ないのでアーベント城から出て行こうとしている途中なのだという。
はっきり言って彼女のやっていた事は勝ち目のない博打以外の何物でもないと思っているのだが、美人に目がないリオンはエリゼベートの話を聞きながらも、服の上から十分に伺える彼女の女性らしい身体に釘付けになっていたりする。
(((ま、負けた・・・)))
メリーアン達はというと、シスターらしからぬ妖艶な雰囲気を纏っているエリゼベートと自分達を比べて密かに落ち込んでいた。
そんな中、クリュライムネストラが仲間達はどうなったのかをエリゼベートに尋ねる。
「それは・・・」
エリゼベートが顔を曇らせた事で察してしまったリオン達は『余計な事を聞くな』と言わんばかりの視線をクリュライムネストラに向けて睨みつける。
彼等の視線など魑魅魍魎の権化である王侯貴族と比べたら実に可愛らしいものだ。
自分に向けられている視線を軽く受け流したクリュライムネストラはエリゼベートに対して、仲間達の事について更に問い質す。
「ライムさん!仲間の事で傷ついているエリゼベートさんを苦しめるなんて、あんたは何を考えているんだ?!」
「彼女が苦しんでいる?仲間の事で?昔はどうだったか分かり兼ねますが、今の彼女は仲間の事なんて何とも思っていませんよ」
寧ろ、足手纏いが消えて清々したといったところでしょうね
淡々と、それどころか悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべているクリュライムネストラは、血の気が引いたかのような顔をしているエリゼベートにある一言をぶつけてきた。
シスターであるはずの貴女が何故、逆十字のロザリオを着けているのか?
「「「「!?」」」」
クリュライムネストラの一言にリオン達はエリゼベートの胸元に視線を向ける。
シスターというのは、清貧と禁欲を旨に修道院で暮らしている女性の事で、神に生涯独身を貫く事に誓いを立てた証として常にロザリオを身に着けている。
そのロザリオを逆さにして着けているという事は──・・・。
「貴女に対する疑念はまだあります。この先にあるという庭園の道には生き物を襲う茨が敷き詰められているのですよね?その茨に襲われていたはずの貴女の足や靴にどうして傷一つが付いていないのですか?」
「・・・・・・」
「答えられないのであれば、代わりに私が答えましょうか?貴女は真祖とやらの命令で私達を始末しに来た刺客・・・」
エリゼベートはクリュライムネストラの言葉に一言も返さないが、何を思ったのか、彼女はある行動を起こす。
「「「リオン!!」」」
それまで大人しく顔を俯かせていたはずのエリゼベートがリオンの首筋に牙を突き立てたものだから、彼女の突然の行動に驚きを隠せないでいるジェーン達は止めに入るどころか慌てふためく事しか出来ないでいる。
「アスクレピオスの杖を手にしている貴女(?)・・・いえ、貴方の言う通り、私は我が君の命令を受けたカーミラのエリゼベート・・・」
血を吸ったリオンをクリュライムネストラに向けて放り投げた修道女が一瞬にしてカーミラとしての姿に変わる。
シスターだった時とは異なる妖艶な雰囲気と肌を露出させているコスチュームに、普段のリオンであれば鼻の下を伸ばすところだが、カーミラによる吸血行為によって自分がインキュバスになってしまうという恐怖に陥っている彼だけではなくジェーン達も使い物にならないので、クリュライムネストラは彼等を無視してエリゼベートとの話を進める。
「正確に言えば、私は我が君がメディクス家の能力を見たいが為に送り込んだ使い魔と言ったところね」
「貴女の言う我が君の為とやらの為に、どうして私が自分の能力を披露しないといけないのでしょうか?」
「私に我が君の考えている事など分かるはずがないわ。私はただ、任務を遂行するだけ・・・」
そう答えたエリゼベートは、ここで能力を使わないとクリュライムネストラにとって不利な状況になるだけだと言わんばかりの笑みを浮かべながら、使い物にならなくなっているローズの首に牙を突き立てて血を吸っていく。
「ジェーンさん。メリーアンさん」
某国民的RPGでいうところの〇ダパニ状態になっている二人の顔を殴る事で正気に戻したクリュライムネストラは、睡眠でリオンとローズ、そしてエリゼベートを眠らせると、ジェーンとメリーアンに二人を抱えさせて近くの部屋へと逃げ込んだ。
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