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⑧ハーネット王国の滅亡-4-
しおりを挟むインフェル王国と同盟国の軍勢が王都へと続く城壁を破壊した事により、兵士達が町で略奪をしつつ王宮へと軍を進める。
王宮に身を置いている王族と重臣達は、栄華を極めたハーネット王国が終わりへと近づいて行くのを肌で感じ取り、国を捨て逃亡し始めていた。
『儂は・・・全てを失ってしまったのか・・・』
紅蓮の炎に包まれている王都を目にしたバルバガイツは力なく呟く。
十数年前に離婚したエンジェラは母の故郷であるテレナール王国へ、異母妹のクリュライムネストラはパリスに婚約破棄をされたと同時にメディクス王国へ亡命していた。
元后と異母妹が国を捨てただけではなく、三人の優秀な王子が今回の戦で命を落とした事はバルバガイツにとってショックだったが、一番のダメージは愛妾であるサフィーアとパリスが自分を捨てただけではなく財産を持ち逃げした事であろう。
生きる希望と価値を失っているバルバガイツは、剣を手にしている総大将のディオメテスにある事を懇願した。
自分の首はインフェル王国に捧げる
その代わり、民の命は助けて欲しい
『安心しろ。ハーネット王国の民は・・・全て奴隷として使ってやる!』
そう答えたディオメテスは老いた王の腹に刃を突き立てる。
『バルバガイツ様!?』
崩れ落ちるように倒れたバルバガイツの元に悲鳴を上げながら駆け寄ったのは、ディオメテスを捨てパリスを選んだヘレーネだった。
自分の元に駆け寄って来る妻と再会するのは十数年振りである。ヘレーネは相変わらず少女のように小さい。しかし、その中には女性の色香というものがあった。
『ディオメテス様・・・。私、インフェル王国に帰りたいとずっと思っていたの・・・』
『ヘレーネ!お前は王である私に恥をかかせた。その罪は命で償うがいい・・・!!』
ディオメテスはヘレーネを殺すつもりだった。だが、儚げで頼りなげな、男に憐憫の情を起こさせるヘレーネを見ている内に彼女に抱いていた愛情を思い出したのか、怒りを抑えたディオメテスは剣を鞘に納める。
『かあしゃま・・・おじいしゃま・・・』
そんな二人の元にやって来たのは、四~五歳くらいの幼い少女だった。
『メリンディア・・・』
自分はヘレーネとの間に子供は儲けていない。という事は、この少女の父親はパリスなのであろう。
妻を略奪された挙句、寝取られたのだと察したディオメテスの心は血の涙を流し、この怒りと悔しさ、悲しさをどこにぶつければいいのか分からないでいる。
(くそっ!)
『・・・・・・ヘレーネ、お前の居場所はインフェル王国だ』
その子供と共に帰ろうと、ディオメテスは二人に手を差し伸べる──・・・。
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