乙女ゲームに転生した男の人生

白雪の雫

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⑨もう一人の転生者-5-

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 「つ、疲れた~」
 フローラへのマッサージだけではなく夜伽の準備を終えたマイアは、大部屋に戻るなりベッドへとダイブする。
 「マイアちゃん、市場で芋羊羹を買って来たの。一緒に食べよう」
 そんなマイアに声を掛けたのは、二年前に側室候補として後宮に入ったものの、カルロスのお手付きにならなかった事により現在は侍女として働いている先輩のシーラ。
 芋羊羹をテーブルに置いたシーラは、大部屋で休息を取っている元側室候補達に声を掛ける。
 甘いものが欲しかった彼女達は黄色い声を上げながらテーブルへと集う。
 (ここって異国情緒溢れるロードライト帝国の・・・後宮よね?)
 煌々たる愛は中世から近代ヨーロッパをモチーフにしている乙女ゲームの世界であるはずなのに、和菓子だけではなく市場で売っていそうなB級料理が当然のように存在している事に疑問を抱きながらもマイアは、日本の懐かしい風景を思い起こさせる芋羊羹を口に運ぶ。
 (美味しい・・・)
 素朴な甘さが売りの芋羊羹と渋い緑茶という日本人にとって至高の組み合わせの一つを十分に堪能しているマイアの顔には恍惚の色が浮かんでいた。
 「今頃、フローラ様とカサンドラ妃をはじめとする寵姫様方は菓子職人が作った菓子を堪能しているのでしょうね・・・」
 「・・・・・・」
 新鮮な素材をふんだんに使い芸術の域までに高めた、花や植物をモチーフにした繊細な飴細工を盛り付けている高級なスイーツと、今の自分達が口にしているお手頃価格のスイーツを比べてしまったシーラ達は肩の力を落とす。
 「ね、ねぇ!シーラちゃん、聞きたい事があるの。私が初めて後宮に上がった時、ビッ・・・カサンドラ妃がフローラ様に『悪役寵妃がアストライアーじゃない!』って言っていたの。アストライアーが誰なのか、悪役寵妃が何なのか、シーラちゃんは分かる?」
 暗くなってしまった雰囲気を変える意味もあるが、カルロスの寵妃がアストライアーではなくフローラ、皇子がプロメテスではなくエピメテスであるというゲームと異なっている点にヒロインと同じ疑問を抱いているマイアがシーラに尋ねる。
 「マイアちゃん。実は私もその・・・カサンドラ妃が言っていたらしい悪役寵妃?と、アストライアー?が何なのか知らないの」
 「そ、そうよね・・・。ゴメンね、変な事を聞いちゃって」
 自分より先に後宮に入っているシーラであれば何か知っているのではないか?という思い込みを抱いていたマイアはシーラに対して謝罪の言葉を口にする。
 「ねぇ、マイアちゃんはフローラ様に聞かなかったの?」
 「ええ。アストライアーという名前を出した時のフローラ様って恐ろしいくらいに切れていたから、聞く訳にはいかないでしょ?」
 あの時のカサンドラ妃のように、扇子と拳で殴られたくないしね





 個人的に知りたい事をシーラに問われたマイアは、そう答えるしかなかった。










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 マイアがゲームと異なっている点について悩んでいる頃

 「・・・・・・・・・・・・」
 箪笥の肥やしになるのは決定事項とはいえ、一度も身に着けないのは勿体ないと思ってしまったミストレインは先日購入した下着を着けてみる。
 「・・・・・・似合う似合わない以前に、元男の俺にこれは早かったな」
 女心を擽ると同時に男のスケベ心を煽るSMチックなハーネステディを纏っているミストレインが、鏡に映っている自分の姿を見て呟く。
 「さっさと着替えるとするか」
 「ミストレイン、前から読んでみたいと言っていた本を持って・・・!?」
 「!?」
 普通の下着に着替えようとしたその時、扉をノックする音と共にアイドネウスが部屋に入って来たものだからミストレインは顔を赤くしながら両手で身体を覆い隠す。
 「ミストレイン・・・?」
 「そ、その・・・これは、アイドネウスがよろ・・・じゃなくて!単に興味と好奇心と出来心で買っただけであって・・・。だから、あの、え~っと・・・」
 「ミストレイン・・・それ、凄く似合ってる」
 ブチッ
 (ブチッ?何かが切れ・・・まさか!)
 本命がセクシーランジェリーを身に纏っている姿を目にしてしまった事で理性の糸が切れてしまったアイドネウスは、しどろもどろになって言い訳をしているミストレインに抱き着いたかと思うと、その場に押し倒してしまった。
 「アイドネウス!元男の俺のこんな姿を見て気分を悪くしたのなら謝る!今すぐ着替え「俺の為にテディを着ているミストレインを見ていたら・・・我慢出来なくなった!」
 「え゛っ?アイドネウス?!」
 (ひぃぃぃぃぃぃ!!固くなっているあれが当たってるーーーっ!!)
 「・・・・・・せめて、お手柔らかにお願いします。後、床ではなくベッドで」
 「・・・・・・・・・・・・努力する」





 ベッドに身を沈められたミストレインは、欲情の色を浮かべた瞳で自分を見下ろしている男の背中に腕を回す。





 「お、おはよう・・・」
 「姉ちゃん、おは・・・って!姉ちゃん、どうしたんや?!何かあったんか!?」
 地下の工房に下りてきたミストレインがボロボロだったものだから、レンちゃんが思わず驚きの声を上げる。
 「い、いや、ちょっと・・・」
 (あの野郎・・・手加減してくれと言ったのに!)
 アイドネウスの辞書に【手加減】という文字はないのだろうか?と、問い質したいところだ。
 (あったとしても『十分に手加減している』という類の答えが返ってきたら、それはそれで怖いわね・・・)
 その後に続く展開を想像してしまったミストレインが、ガクッと肩の力を落とす。
 「そ、そうか?姉ちゃん、今日の店に置く分のポーションは作っといたで」
 「あ、ありがとう・・・」
 レンちゃんと精霊達に礼を告げたミストレインは一階の売り場にポーションを持っていこうとするのだが、自分が開店準備をしておくと言ったアイドネウスがポーションを売り場へと運んでいく。
 「今日のアイドネウスはん・・・やけにすっきりしているように見えるのは・・・ワイの気のせいやなかったな」
 姉ちゃん、強く生きるんやで・・・





 鼻歌交じりのアイドネウスと、そんな彼とは対照的に朝からぐったりしているミストレインを見て呟くレンちゃんの同情の色を含んだ声が工房に響く。







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