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⑨もう一人の転生者-4-
しおりを挟む「今日は陛下からお召しがありました。マイア、私の肌に薔薇の香油を塗って頂戴」
「畏まりました」
女主人に命じられたマイアは、薄衣を纏い寝台で俯せになっているフローラの肌に香油を垂らすと、エステティシャン時代に培った技術を駆使してマッサージを施していく。
(ヒロインじゃないけど、カルロスの後宮に入ったのがアストライアーではなく妹のフローラだった事は本当に驚いたわね・・・・・)
側室候補として初めてフローラと顔を合わせた時、そしてカサンドラがカルロスの寵愛を受ける切っ掛けになった出来事を思い出す。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『私はフローラ。この子は第一皇子のエピメテス・・・次期皇帝となる皇子です』
カルロス自身はエピメテスを皇太子と指名した訳ではない。
だが、カルロスの御子はフローラが産んだエピメテスだけなので、順当にいけば彼が皇帝になるのは時間の問題である事も確か。
自分は次期皇帝の母なのだと、未来の皇太后なのだと言わんばかりの態度で、フローラは側室候補達と顔を合わせる。
『フローラ・・・?エピメテス・・・?誰なの?・・・・・・思い出したわ!アストライアーの妹よ!何でモノローグでしか語られていない、しかも固有ビジュアルがないフローラがカルロスの寵妃なの?!』
これはバグだわ!!
あたしのライバルは!アイドネウス様を出現させる為には、フローラの姉であるアストライアーじゃないといけないの!!
ヒロインの前に立ちはだかる悪役寵妃がフローラというモブであった事実に動揺を隠せないカサンドラが大声で喚き散らす。
『・・・新入りの分際で、しかも他国の平民でしかない貴女が何故アストライアーを知っているのかしら?』
フローラにとってアストライアーは、病が原因で幼児退行してしまった姉にして、癇癪を起こしては奇行を繰り返す異常者という存在だった。
そんな姉を忌み嫌い見下していたフローラにしてみれば、アストライアーはこの世から葬り去りたかったミントグリーン王家の汚点と言っても過言ではない。
そのアストライアーを平民である彼女が知っているという事に疑念を抱いたフローラがカサンドラに問い質す。
『それは・・・そういうストーリーだから!!この世界はあたしが幸せになる為だけに造られたのだから当然じゃない!!!』
固有ビジュアルを持たないモブの分際でヒロインの言葉に口出しをするな!と、言わんばかりの態度でカサンドラがフローラに言い返す。
『二度と・・・あの女の名を口にするでない!!!』
カサンドラが口にしている言葉の意味は分からないが、自分が馬鹿にされている事は理解出来たフローラは悪鬼のような形相で手にしている扇子で彼女の頬を叩く。
(このシーンは確か・・・そう!カルロスとの仲を進展させる為に欠かせないイベントの一つ・・・・・・)
ヒロインを打擲しているのがアストライアーではなくフローラ、そのイベントが起こっているのが後宮の回廊ではなく個室という違いはあれど、カサンドラが抵抗もせずに大人しくしている様を見る限り、彼女はカルロスか逆ハーレムを狙っているのだろうと判断したマイアは他の側室候補達と同じように傍観に徹する事にした。
何度も打擲している内に折れてしまった扇子を投げつけたフローラは、侍女達が必死になって止めるにも関わらず自分の拳でカサンドラの頬を殴る。
『フローラ、そなたは自分が何をしているのか分かっておるのか!?』
カサンドラの顔が腫れ上がるまで殴るのは流石にやり過ぎだと思い見過ごせなかったのか、恐らくマカディアが彼女達の争いを止めようと、彼等を呼びに行ったのであろう。
マカディアと共にフローラの部屋にやって来たカルロスとゼフュロスが二人を引き離す。
『寵妃である事を笠に着て幼気な少女を暴行するそなたは悪魔そのものだ!フローラ、ネーヴェ宮での一ヶ月の謹慎を命ずる!!』
カルロスから発せられた【ネーヴェ宮】という言葉に、フローラの顔から血の気が引いていく。
ネーヴェ宮とは、皇帝の寵愛を失った、或いは罪を犯した女奴隷を軟禁する場所───女の牢獄とも女の処刑場とも呼ばれている宮殿の事である。
『偉大なる陛下よ!どうかご慈悲を!!』
給仕が粗末な料理を運んでくるので飢え死にする心配はないが、建物は老朽化しているので寒さは防げないし、日当たりが悪く湿気が多い。
そのような場所に送られた女奴隷は、粗末な服に着替えて過ごさなければならないのだから病気になる可能性だってあるのだ。
ミントグリーン王国の王女であった時よりも遥かに恵まれている生活を失いたくない事もあるが、何よりエピメテスを帝位に着けたいという野望があるフローラは必死になってカルロスに助けを請うた。
『余の決意は変わらぬ』
『陛下!お許しを!!』
宦官達によってネーヴェ宮へと連行されるフローラは泣き叫ぶ。
二ヶ月前に起こった事である。
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