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⑧日本の朝食-2-
しおりを挟む「綺麗・・・」
日本情緒を感じさせる篁家の庭園とは異なり、華やかだがどこか野性味を感じさせる、レイモンドの祖母が住んでいる屋敷の庭園を眺めている紗雪が素直に感嘆の声を上げる。
「・・・レイモンドさんのお祖母様がこんなに立派な屋敷に住んでいるという事は、レイモンドさんって実は良家の息子なのかしら?」
あ~っ・・・
「言ってなかったか?俺は侯爵家の三男だ」
「貴族の次男や三男だったら騎士になるとか、官僚になるとか、実家と同格か格上に婿入りするというのが一般的じゃないの?」
「百年位前までは紗雪殿の言うように、貴族の次男や三男はそのようにして生きていくのが普通だったのだが、これも時代の移り変わりって奴なのだろうな」
三男であるが故に家を継げない自分は成人を迎えたと同時に冒険者となり糧を得ていたのだと、レイモンドが紗雪に教える。
「・・・上司の顔色を窺って生きて行くのではなく、自力で生きて行く貴族子息もいるという認識でいいのね?」
「そういう事だ」
今ではファッションデザイナーや家庭教師、冒険者や料理人や商人という風に宮仕えせずに生きて行く貴族子息が多いのだと、但し、成功するのは一部なのだと、レイモンドが屋敷へと向かいながら話す。
「紗雪殿が住んでいた日本ではどうなのだ?」
昔は華族───フリューリングでいうところの【貴族】に当たる存在がいたというのは祖母から聞いているが、現代はどうなのかと紗雪に尋ねる。
「現代の日本に華族はいないけど、子孫は存在するわ」
ちなみに私の実家である篁家は朝廷に仕えた陰陽師──・・・フリューリング風に言えば・・・そうね、強引に当て嵌めるとすれば宮廷魔術師になるのかな?で、明治維新の時に子爵位を賜ったの
「つまり、今の日本に華族が存在していたのであれば紗雪殿は子爵令嬢だったのだな」
「そういう事」
まぁ、日本に限らず異世界・・・フリューリングでは、どこにでもいる平凡な小娘でしかないけどね
もし、この場に九尾狐が居たのであれば、遠い目をして紗雪にこうツッコんでいただろう。
平凡?
平凡って何だろう?
篁の末裔よ。一度、貴様は平凡という言葉を辞書で調べたらどうだ?
───と。
道理で、紗雪に対する第一印象が貴族令嬢だと思ってしまったのかと、彼女の説明にレイモンドは心の中で納得していた。
「ところで紗雪殿。貴女が先程口にした【オンミョウジ】とは何なのだ?」
紗雪は【陰陽師】が宮廷魔術師に当たると言っていたが、実際は違うらしい事を言葉のニュアンスで感じ取ったレイモンドが尋ねる。
「陰陽師というのは、天体を観測したり、星の動きで吉凶を占ったり、暦を作成したり、祭祀を執り行ったり、怨霊を祓ったり、妖怪を退治したり・・・・・・」
嘗ては、精神的支配者にして政治にも多大な影響を与えていた事は言わないでおく。
「占星術師にして、神官のようなもの・・・なのか?」
「占星術師というのは当たっているような気がするけど、神官は違うような?フリューリング風に言い表すとすれば、占星術師にしてアンデッドや魔物を狩るハンターかしら」
「占星術師が魔物を狩る姿が想像できないのだが・・・?」
「想像できないも何も実際にそうだもの」
そうこうしているうちに、二人はレイモンドの祖母がいる屋敷へと到着する。
「お帰りなさいませ、レイモンド様。こちらの女性が、レイモンド様が仰っていた異世界から来たというサユキ様でございますね?」
ようこそ、ロードクロイツ家へ
二人を出迎えたのは、ロードクロイツ家に仕える老執事のヴァロイスだった。
「レイモンド様、サユキ様。奥で大奥様がお待ちでございますので案内いたします」
慇懃に頭を下げたヴァロイスが二人を先代侯爵夫人がいる部屋へと案内する。
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