カフェ・ユグドラシル

白雪の雫

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⑪豚の角煮-4-

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 話はランスロットと美奈子がレイモンドの家に食事を集り・・・ではなく食べに行く数時間前まで遡る。

 「私の分の昼食と夕食は用意しなくてもいいから、エレオノーラとグスタフは先に食べていなさい」

 「・・・・・・分かりました」

 ここ数週間、ランスロットとはテーブルを共にしていないという事実に銀髪美魔女───エレオノーラは顔を曇らせる。

 ランスロットとは政略結婚だったが、夫婦仲は良好だった。

 異世界では仲のいい夫婦を【比翼連理】と喩えるそうだが、正しく自分達の関係はそれに当て嵌まっていたと思う。

 あれは・・・ランスロットと式を挙げる数ヶ月前の事だっただろうか。

 若い二人は庭園に咲く花を眺めながら、どのような夫婦になりたいのかを語り合っていた。

 『私は・・・ランスロット様とは、陛下と王妃様のような【おしどり夫婦】になりたいです・・・』

 王妃は隣国の王女。当然であるが、政略結婚だ。

 義務を果たせば──・・・この場合は、跡取りとなる王子と万が一に備えての王子、他国に嫁がせる駒となる王女が出来れば後は互いに情婦・情夫を作ればいい。

 先代国王夫妻がそうだったからなのか、当代国王もそうなるのかと有力貴族だけではなく側近や侍女等──・・・身近に仕えている者達はそう思っていた。

 しかし、周囲の予想に反して国王と王妃は仲睦まじかったので、何時しか二人の事を【おしどり夫婦】と喩えるようになったのだ。

 だから、若いエレオノーラもランスロットとは【おしどり夫婦】になりたいのだと顔を赤く染めながらも素直に答える。

 『おしどり夫婦か・・・。私はエレオノーラ殿と、おしどり夫婦ではなく比翼連理の仲になりたい』

 『比翼連理?ランスロット様、それはどういう意味なのでしょうか?』

 自分達は国王と王妃のように政略結婚だ。もしかしたら、二人のように仲のいい夫婦になるのは難しいのかも知れない。

 だが、互いに歩み寄って話し合えば、自分達の間に男と女の絆は築かれなくても親友や戦友のような関係になれるはずだ。

 (・・・・・・・・・・・・)

 両親のように、自分達は駒となる子供が出来さえすれば、最低限の会話しか交わさない冷めた夫婦になるのだろうか?

 (嫌っ!私はランスロット様とは、本当の意味で夫婦になりたい!)

 見合いの席で初めて顔を合わせた時から、ランスロットに一目惚れしていたエレオノーラは拳を強く握る。

 『これは母上から聞いたのだが・・・比翼連理とは、互いに情愛が深く、固く契り合う夫婦や男女の事を意味するそうだ』

 『・・・・・・そ、そうなのですか?世間では、仲のいい夫婦を【おしどり夫婦】と喩えていますが、それとはまた別なのですか?』

 これはキルシュブリューテ王国に限った話ではないが、近隣諸国では仲のいい夫婦を【おしどり夫婦】と喩えている。

 しかし、エレオノーラは【比翼連理】という言葉を聞いた事がなかったものだからランスロットに尋ねる。

 『確かに世間一般ではそうなのだろうな。だが、実際の鴛鴦のオスは子育てに一切協力しないし、メスは子育てを終えたら別のオスと契りを交わして新たな雛を産む・・・』

 (えっ?)

 『では、ランスロット様は私の言葉を皮肉と受け取っていたのですか?!』

 自分はそのような意味で言ったのではない。

 ただ純粋にランスロットと共に人生を歩みたいと思っているのだと、鴛鴦の生態を知らなかったエレオノーラが必死になって訴える。

 『分かっている。だが、私はエレオノーラ殿と何度も接していく内に貴女の事を慕うようになった。だからこそ、比翼連理の仲になりたいと思っている・・・』

 『ランスロット様・・・』










◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆










 その証拠にランスロットは、貴族であれば何人も侍らせて当然の妾を作らなかった。

 ランスロットの言葉によると、情婦や情夫の存在は伴侶の心を殺す行為である。

 もし、自分が妾を囲えばどうなるか?

 妻となった女性だけではなく妻との間に出来た子供、妾との間に出来た子供までも悲しませる事になるのだ。

 貴族であればそのような事を考えはしないだろう。

 現に自分の父親は外に何人もの若い娘を妾として囲っていたし、貴族令嬢であった母親は、爵位を持つ男が妾を持つのは当然だと受け止めていた。

 本心はどうだったのか分からないが、少なくとも自分をはじめとする子供達と家令や侍女達の前では、母は公爵夫人としての仮面を被り誇り高くあった。

 子供心ながら、母は哀しい人間だと思っていた。

 だからなのかもしれない。

 温かい家庭というものに憧れていたのは──・・・。

 『比翼連理の仲になりたい』というランスロットに二目惚れたエレオノーラは妻として夫を支え、侯爵夫人としてロードクロイツ繁栄の為に働き、母として夫との間に儲けた三人の息子を立派に育て上げた。

 それが出来たのは、陰となり日向となりランスロットが支えてくれたからに他ならない。

 しかも、長男のグスタフに位を譲った後は夫婦水入らずで隠居する為の小さな屋敷を建築している最中なのだ。

 もしかしたら、夫は孫がいるというのに女を───娘と言っても差し支えのない若い妾を囲っているのだろうか?

 (許さない!目の前で女を殺した後は、あれをちょん切った上で手足も切り落としてやるんだから!!)

 「例えあなたが男性でなくなっても、私はあなたの傍にいて愛し続けますわ・・・」

 まさか、二十数年も連れ添ったランスロットに裏切られるなど夢にも思っていなかったエレオノーラは変装して夫を尾行する事を決意する。









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