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⑪豚の角煮-5-
しおりを挟む(今の私は、小さな店の女将。うん、我ながら完璧な変装だわ!)
質素な衣装に身を包んでいる今の自分は、どこからどう見ても平民の女性にしか見えないだろう。
そう思っているのはエレオノーラだけで、実際の彼女は怪しい女性にしか見えなかった。
だって、今のエレオノーラはほっかむりを鼻の下で縛っているから。
「ママ~」
「し~っ!指を指すんじゃありません!」
道行く人達から白い目で見られているにも関わらず、エレオノーラは気配を殺しながら夫の後を追いかける。
(ここは・・・レイモンドの家?しかも、お義母様まで?)
尾行した結果、エレオノーラの目の前にあるのはレイモンドの家───正確に言えばレイモンドが拠点としている家の一つだった。
ランスロットだけではなく美奈子までもが入っていくのだから、身を隠しながら様子を眺めているエレオノーラは増々訳が分からなくなってくる。
新しい女は美奈子公認で、それを承知の上でレイモンドは妾を拠点の一つに住まわせているのだろうか?
(・・・・・・・・・・・・)
「あなた!!」
夫だけではなく息子と義母までもが裏切っていたという事実に怒りと嫉妬を抑えきれなくなったエレオノーラは、レイモンドの家の扉を乱暴に開ける。
「母上?」
「エレオノーラ?」
豚の角煮を食べていたランスロットと美奈子、これから食べようとしていたレイモンドと紗雪は思わぬ人物の登場に呆気に取られていた。
「あなた!お義母様!レイモンド!妾とテーブルを共にするなど・・・汚らわしい!!」
「落ち着け、エレオノーラ」
エレオノーラが言っている【妾】が誰を指しているのか分からないが、まずは怒り狂っている妻を落ち着かせるのが先決だと察したランスロットは、レイモンドが自分の分として用意した豚の角煮を食べさせる。
モグモグモグ
「お、美味しい~♡」
魚醤に似たソースで煮込んだはずの豚肉は甘さの中に辛さを感じるだけではなく柔らかい。脂身はトロトロで甘さも感じる。そして何より塩辛くないという事実に、エレオノーラの顔には笑みが浮かんでいた。
「父上!俺の豚の角煮ではなく、ご自分の分を母上に食べさせればよろしいではありませんか!」
「レイモンド。お前は好きな時に食べられるからそのような事が言えるのだ!」
「父上!貴方は、食べ物の恨みは恐ろしいという言葉を知らないのですか!?」
自分達はレイモンドの家に来ない限り異世界の料理を食べる事が出来ないのだから、それくらい許される行為だと嘯くランスロットに負けじとレイモンドが言い返す。
「レイモンドさん、私と半分こすれば済む話だから」
ランスロットの言葉ではないが、自分達は好きな時に異世界の料理を食べる事が出来るのだ。紗雪は自分の分をレイモンドの分として別の皿に取り分ける。
(ど、どういう事なの・・・?)
今一つ状況が掴めていないエレオノーラが黒髪黒目の女性と息子、そして夫と義母の態度を訝しんでいた。
「エレオノーラさん、彼女は篁 紗雪さん・・・こっち風に言えばサユキ=タカムラね。ウィスティリア王国の聖女召喚に巻き込まれた異世界人で、レイモンドの恋人に当たる女性よ」
「「恋人!?」」
「違うの?二人はもうそういう関係だと思っていたわ」
美奈子の発言に紗雪とレイモンドの顔は赤く染まっていた。
え~っと・・・
「黒髪の彼女は異世界人のサユキさんで、レイモンドの恋人。ランスロットとお義母様はレイモンドが作る料理を毎日食べに来ている・・・という事でいいのかしら?」
「母上の解釈で合っています・・・」
(という事は・・・)
ランスロットは女を囲っていたのではなく、二人に異世界の料理を集っていただけなのだ。
全ては自分の思い込みであったという事実に、夫に対してR-18G的な事をしようとしていたエレオノーラは悲鳴を上げる。
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